「BAR25」とは2009年8月末までベルリンに実在していた伝説のクラブ。ダンスミュージックの宝庫とされるベルリンにおいて、パーティーというパーティーを駆け巡ったパーティーフリークたちが集まる最終着地点。もう今が何曜日の何時で何時間起きているのかさえ分からなくなる究極のカオス空間。一文無のエントランスフィーさえ払えない人が川を泳いで渡ってくるという。とにかくいろんな意味での伝説の場所。私の中の“死ぬまでに行きたい世界のクラブ10”に永久殿堂入りを果たしていた憧れの地。結局それは叶わぬ夢となってしまったのだが。。

ハーモニー・コリンの『ミスター・ロンリー』を観た時に真っ先にこの場所が思い浮かんだ。マイケル・ジャクソンになりたい男とマリリン・モンローになりたい女が出会い、同じように“誰か”になりたい人々が住むある島での出来事を描いた映画。そこには“クラブ”というものは存在しない、ダンスミュージックもない。けれど、人は誰でもどこかにあるはずの“楽園”を探し、その中では自分ではない“誰か”になりたいのではないだろうか? その“楽園”とはクラブであり、パーティーなのではないだろうか? この作品を観てそう感じた。

『ミスター・ロンリー』予告編

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その伝説を仕掛けた張本人Juval Diezigerと会ったのは先日開催された<AFTER25>でのこと。この日、昼間のカンファレンスと夜のアフターパーティーの間に、BANANA主催によるゲストスピーカー達との交流ディナー会が行われた。BANANAとは、チケット手配から移動手段、出会いなど”音楽体験”における全てのアクティビティを提供するコマースであり、今回、現地での直接交渉を行い実施に至ったという。その交流会で紹介されたのがJuval(ユヴァール)氏だった。会場となったLapazでは、<AFTER25>の主催である電子音楽検索エンジンMORETRAXやヨーロッパでは絶大な人気を誇るカメラアプリEyeEmの創業者たちなど蒼々たる顔ぶれと知り合うことが出来た。一昨年初めてベルリンに降り立った時と同じデジャブを再び感じる不思議な夜だった。あの街の引力とは一体何なのだろうか。

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同じくベルリンに魅了され、何度か現地へ訪れているBANANA 代表の西木戸秀和氏はこう語る。「ベルリンのクリエイティブシーンを作り上げたキーマーンたちと、至近距離で、且つカジュアルに交流する機会を設けたかった。東京の音楽ファンやクリエイターたちにそうゆう場を提供することで、新しいヒントや新しい出会いを見つけて欲しいと思いました。それは、BANANAのコンセプトである“、地球を一つのクラブにする。”にも繋がることだから。」

そのキーマンたちは口々に言う。「ベルリンの様なエキサイティングな街は他にない。」

そこには、決まりきった質問もありきたりな回答もタブーもない。安っぽい自慢もない。疲労感とアルコールが入り混じる中、カンファレンスでは聞けなかったであろう友人同士の様なフランクな会話はとても貴重なものとなった。

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アフターパーティーは、ここ数年での過去最高動員数になったのではないだろうか? 外には長蛇の列が出来、会場となったUNIT、UNICE、saloonの全フロアーにおいて“逃げ場のない”まさにスシ詰め状態が朝まで続いた。制作統括であり、<Rainbow Disco Club>も手掛ける土谷正洋氏に今回のパーティーについて訪ねた。「あれだけの動員数を得れたのは、やはり充実したラインナップとカンファレンスも含め様々な角度からシーンを見ることが出来た総合的な作り込みからだと思っています。普段のハコのイベントと比べ相当細部まで作り込みましたからね。そういう意味ではかなりクオリティーの高いイベントになったと思いますよ。普段クラブに来ないような人たちも来てくれていたし、そういうバランスのよい集客が出来ていたのも理由の一つではないでしょうか。」

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制作スタッフから良い意味でのピリピリ感が伝わってくる現場は久しぶりだった。圧巻のライブを披露したmonolakeの人気だけではない確かな手応えを残したパーティーとなった。各アーティストの事細かなレポートを届けるつもりだったが、私が伝えるべきことはそこではない気がするので省略させてもらう。

フロアーでBurnt Friedmanと少しだけ話をした。寡黙でシャイな性格は彼の音に出ているけれど、宿泊している渋谷のホテルからの眺めが最高だと笑顔で語った姿がとても微笑ましかった。今年はベルリンの壁が崩壊してから25年、東京との友好都市提携は20年を迎える。ダンスミュージックに関しては充分過ぎるほどの“友好”を深めれているのではないだろうか。<AFTER25>に関わる全てのコンテンツを通してそう感じた。

Burnt Friedman

「アンダーグラウンドであることを守りつつも、それが「自分たちだけでいい」「他人のことは知らない」などといった考えではなく、大きなビジョンを掲げ、持続性をもった「文化」になるための仕組み作り、活動があったからだと学びました。カンファレンスの登壇者、来場者の顔ぶれを見ても、アーティスト、美術館オーナー、クラブ経営者、投資家、小説家、記者、そして起業家など様々なジャンルの人々が参加していた。それはベルリンというクリエイティブ都市が出来上がった事実に対して、様々な人々が関心を寄せている証拠だと思う。」と西木戸氏は語る。

「東京はどこが一番エキサイティングなの?」Juval氏にそう聞かれた時、私はすぐに答えられなかった。東京に対して困惑の中にいたからだ。でも、もし今また同じことを聞かれたらきっとこう答えるだろう。“場所じゃなくて人がエキサイティングなのが東京“だと。

もし、自分が見えている世界が平凡でつまらないと思うのなら今すぐ外に出て、知らない人と出会うべきだ。迷っている間にどんどん時が過ぎ、老いていく。人は老いと共に頑固になり、小さなコミューンの中で大きく生きたいと思ってしまう。今すぐ飛行機に乗って遥か彼方へ行けということではない。普段とは違った場所、人、事と出会うだけで見える世界は変わってゆくことを知って欲しい。