愛の恋人に突然、別れを告げられたL.A.在住のロッカー、ブレット。しかも、追い打ちをかけるように所属するバンドに解散の危機が迫り…。『ストラッター』はそんな失意のどん底に突き落とされた青年の憂鬱な日々を、スタイリッシュな映像でユーモラスに描き出したロック・ムービーだ。8つの章仕立ての物語の中で、ブレットに片思い中の映画狂の美女・クレオとのもどかしい恋愛模様や、恋敵である“L.A.版ジャーヴィス・コッカー”デイモンとの奇妙な友情、恋多き母親の恋人・フランクとの交流などが、モノクロームの映像によって綴られていく。監督は長年コンビで映画制作を続けてきたアリソン・アンダース(『ガス・フード・ロジング』、『グレイス・オブ・マイハート』)とカート・ヴォス。今回、13年ぶりにタッグを組み、『ボーダー・レディオ』(87)、『シュガー・タウン』(99)に続く、“南カリフォルニア3部作”の最終章となる本作を完成させた。

この映画は、クエインティン・タランティーノ、モンテ・ヘルマン、ガス・ヴァン・サント、イーサン・コーエンなどアメリカのインディペンデント映画を牽引する監督たちから様々な支援、協力を得ながら総製作費25,000ドル(250万円)で作り上げられた。カート・ヴォス自身がハンディカムで撮影を担当し、アリソン・アンダースの子供たちがBカメラと音楽の統括を担うなど徹底した低予算での映画作りがなされている。

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劇中に登場する役者たちは両監督の友人たちで、映画撮影時は実際にバンド活動を行っていたのだという(残念ながら撮影後に解散)。本作にドキュメンタリー映画のような肌触りがあるのはきっとそのせいだろう。また、ブレットが働く楽器店の店主役に80年代に活躍した伝説のL.A.パンクバンド、ガン・クラブのドラマー、テリー・グレアム、中古レコード店のお客として L.A.ミュージック・シーンの異端児アリエル・ピンクが出演しているのもロックファンとしては見逃せないポイントだ。劇中を彩る音楽も最高で、ガレージ・ロックやグラム・パーソンズの奏でるカントリー、ダイナソーJr.のJ・マスシスによるスコア(マスシスは何とカメオ出演までしている!)など、L.A.ロックシーンの過去と現在(いま)が体感できるものになっている。

また、一人の青年の成長を描いたビター&スイートな青春ストーリーでもある本作のツボを押さえた展開は、映画ファンをニヤリとさせること必至だ。この夏、映画界と音楽シーンを揺るがすアメリカン・ロック・ムービーの傑作をぜひその目で!

映画『ストラッター』

2013年9月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督/脚本/製作:アリソン・アンダース カート・ヴォス
キャスト:フラナリー・ランスフォード(ブレット・ピアース)、ダンテ・ホワイト=アリアーノ(デイモン・ウォルシュ)、エリーズ・ホランダー(クレオ)
撮影:カート・ヴォス
作曲:J・マスシス
編集:クリス・フィグラー アーロン・ロッティングハウス
録音/ミキサー:クリス・パウエル
音楽統括:ティファニー・アンダース
Bカメラ/スチール写真:ルーベン・アンダース
原題:Strutter/2012年/アメリカ/B&W/DCP/87分  
©©2012 Alison Anders and Kurt Voss