——バラエティに関しては、ですね。
でも僕らと違うなと思うのは、その聴き方は音楽によって影響されることが僕らよりはやっぱり少ないと思うんですよ。僕らは気に入ったものは繰り返して聴いたので、聴いたものによって自分の音楽性が変化させられていた部分が割と大きいと思うんですけど、彼らはそれよりも、自分はあまり変わらずにライブラリーだけどんどん増やして行くって行為ができる。そこが全く違うんだけども、どっちも極端な場合はなんかおんなじ感じになっちゃうような印象はあって。リスニングのスピード感についてあそこでは書いたけど、それに関しては最近もいろんなところで思いますね。自分で作っていても、聴く環境が変わったから、その影響はあると思いますね、今回の『SUPERFINE』に関しても。
——リズムの解釈で言うと、打ち込みを人間が真似するみたいなこともここ2、3年多いと思うんですが、日本のポップスにはなかなか反映されないですね。
あんま反映されないですね。面白いのにねって思うんですけどね。僕は割とそういうのを「面白い」と思うと研究して取り入れたりしている方だと思うんだけど。でも、僕は自分が作っているものがポップスだという自覚があるので、なんとかポップスの中にそうやって僕が最近の音楽から感じているスリルや楽しさをどんどん入れたい、しかもそれをポップスとして成立させるにはどうしたらいいのか? って考えるのが好きなので。そういう方向でやっているつもりなんですけど、なんか他にポップスと呼べるものの中に、そういった要素を取り入れてるのをあまり聴いたことがないんで「もっとみんなやればいいのにな」と思いますけどね。
——本当にそう思います。ところでアルバムの楽曲の中で早い段階にできたのはどの楽曲ですか?
僕、ブックレットを最後に執筆したおかげで、作曲順、全部覚えているんです。最初にできたのは藤原さくらさんの曲でした。なんかね、とにかく僕、その“Radio体操ガール”的なアプローチっていうのを中心に据えようというアイディアはあったんです。で、そういう曲から作り始めようと思ったんだけど、うまい落とし所が分からなかった。で、色々考えながらやっていたんだけど、「あ、僕はアルバム全部をそのアプローチにするつもりはないんだな。」と思って。バランスとかを一番考えちゃうから。そうするとやっぱり普遍的な歌ものの構造を持ったもので、いい曲だなと思う曲は必ず数曲入ってないと絶対気がすまないなと。じゃあそういった曲を最初に作れば、そのあと、どんどん自由になれるんじゃないか? と考えて、そういうリズミックなものをやめて普通に昔の作曲法で、コードとメロディで作って。で、藤原さんの曲ができて、それがM1で。それで、M2が“Radio体操ガール”だったんです。
——“Radio体操ガール”はどういう音楽的な文脈というか、まずどこから作り始められたんですか?
ティーザーでも言っていることですけど、ラップはラッパーのものでさ、トラックの上で彼らが自分の言葉でやったものだし、それをかっこいいと思うんだけど、僕は作曲したかったの、作曲家だから。で、フロウの高低とか譜割りとか言葉が畳み掛けるような感じを作曲したかったので、だからあの曲はAメロの部分から考えたんですよ。
冨田ラボ – 「SUPERFINE」 / Radio体操ガール feat.YONCE TEASER
——今回、それを歌う人に冨田さんは何を求めたんですか?
今回はボーカリストを決めてから、その人が歌うってことを分かりながら作曲をしたんです、全部。だから先ほど言ったM1の藤原曲も藤原さんが歌うってことでその曲になったし、YONCEさんに歌ってもらうっていうことで“Radio体操ガール”がある。これはSuchmosの普段の割と大きいメロディの感じとは違うけど、YONCEさんはそんなにアタッキーじゃなく歌うから、ああいった滑らかな感じでこのメロを歌ってくれるとそれがラップ由来だろうがなんだろうが関係なく、たたみ込むようなリズムになんかその滑らかな感触が欲しくて。
で、YONCEさんにこの曲をっていうことなんですよね。だからこの曲が出来てから誰に歌ってもらおうかなではないんです。Suchmosはバンドでスタジオに入って、演奏したりしながら、YONCEさんは自分の歌いたいメロ、そこで思い浮かぶメロをあてる。そういうふうにして曲が出来て行くって言っていたから、そういう自分発信でメロディを作っている人がこれだけ縛りのあるものやるのは、それだけで大変だったと思うんだけど、でもすごい優秀っていうとあれだけど、いっぱい歌ってもらったし、テイクもよかったですね。