2000年代以降、ダンス・シーンを牽引してきた世界的なビッグ・アクト、ロイクソップ。ディスコ・サウンドを今様にアップデートした、ニュー・ディスコやスペース・ディスコと呼ばれる潮流を形作ったリンドストロームとトッド・テリエ。

エレクトロニック・シーンの最新潮流でもあるフューチャーベースのパイオニアであり、近年はアメリカのメインストリーム・アクトからも引っ張りだことなっている、カシミア・キャットやリド。

時代ごとにエレクトロニック・ミュージックの最先端を行くサウンドを生み出してきたそれらのプロデューサーが、実はみんな同じ国の出身だということはあまり知られていない。彼らを送り出した国、それはスカンディナビア半島の西端に位置する北欧のノルウェーだ。

ここに紹介するアナ・オブ・ザ・ノースのフロントウーマン、アナ・ロッテルードもノルウェー出身。近年、同国ではエレクトロニック・ミュージックのみならず、ポップ・ミュージックの躍進も目立ち、特に若い女性シンガーの活躍が著しい。

そこには、すでに本国でチャートを席巻しているアストリッドSや、英米の音楽メディアや早耳リスナーから熱い視線を送られるシグリッドらがいる。

そして、このアナ・オブ・ザ・ノースこそが、現行のエレクトロニック・シーンとポップ・ミュージックが交差する地点に立つ、次世代のクロスオーヴァー型ポップ・アイコンなのである。

その新人らしからぬ存在感は、アルバム・デビュー前にも関わらず彼らが実現させてきた、錚々たる気鋭アーティストやファッション・ブランドとのコラボレーションを見ていけば、よりよく理解できるだろう。

新世代ポップ・アイコン、アナ・オブ・ザ・ノース。タイラー・ザ・クリエイター、カイゴ、H&Mら多方面からラブコールを受ける魅力とは music_annaofthenorth_1-700x700

“スウェイ”をザ・チェインスモーカーズがリミックス

グラフィック・デザインを学ぶためにノルウェーからオーストラリアのメルボルンに移ってきたアナ・ロッテルードがニュージーランド出身のプロデューサー、ブレイディ・ダニエル-スミスと出会い、アナ・オブ・ザ・ノースが本格的に活動をスタートしたのは2014年のこと。

同年6月にデビュー・シングル“スウェイ”をリリースするやいなや、すぐに現ポップ・シーンを代表する超大物からのコンタクトが舞い込んでくる。その大物とは、今年リリースしたデビュー・アルバム『メモリーズ…ドゥー・ノット・オープン』が全米一位の大ヒットを記録したエレクトロニック・デュオ、ザ・チェインスモーカーズだ。

Sway – Anna of the North

当時、ザ・チェインスモーカーズはシングル“#セルフィー”をスマッシュ・ヒットさせたばかりの新人で、ザ・キラーズ、フェニックス、エリー・ゴールディングといったアーティストのリミックス等でも名を馳せ始めた時期。“スウェイ”を聴いた彼らの方から直々に連絡があり、“スウェイ”のリミックスを依頼することになったのだという。

すっかりEDMシーンからポップスのメインストリームへと進出し、現エレクトロニック・シーン随一の大物となった今とは全く状況が違うとはいえ、それでもすでに気鋭の存在だったザ・チェインスモーカーズが、シングルを一枚出したばかりの超新人に直にコンタクトを取り、コラボをオファーするのは珍しい。結果として、“スウェイ”をザ・チェインスモーカーズがリミックスしたことは、アナ・オブ・ザ・ノースにとって世界的な知名度を飛躍的に向上させる最初のきっかけとなった。

Anna of the North – Sway (The Chainsmokers Remix)

同郷ノルウェーのカイゴに抜擢!

その後2015から2016年にかけて、シングル3枚をコンスタントにリリースし、地元ノルウェーでのライブ活動を積み重ねていった結果、またしてもEDMシーンを牽引する大物プロデューサーからオファーを受けることに。それが同郷ノルウェー出身のカイゴだった。彼は現EDMシーンで最大の影響力を誇るプロデューサーの一人であり、2016年の<リオ・オリンピック閉会式>でパフォーマンスを行ったことも記憶に新しい。

そのカイゴがアナ・オブ・ザ・ノースにオファーしたのは、彼のヨーロッパ・ツアーのサポート。それまで小さなクラブでのライブばかり行っていたアナ・オブ・ザ・ノースだが、ここでいきなり5000人規模の会場で演奏することになり、パフォーマンスへの自信を培ったのだという。

このように、アナ・オブ・ザ・ノースがアルバム・デビュー前に世界的な耳目を集めた背景には、EDMシーンを代表する大物二組とのコラボレーションがあった。しかも、その二組ともが派手なビルド&ドロップ中心のEDMから一歩を踏み出し、新たなトレンドを生み出したアクトだというのも面白い。

カイゴはダンスホールやレゲトン由来のビートとスティールパンやマリンバの音色を使ったトロピカル・ハウスの先駆者。ザ・チェインスモーカーズはデビュー・アルバムにおいて、コールドプレイとのコラボをはじめ、より歌重視でメロウ&スムースなポストEDM的アプローチを展開している。トレンドの先を読むことに長けた両アクトがいまだキャリアの浅いアナ・オブ・ザ・ノースをフックアップした事実は、彼らの将来的なポテンシャルの高さを何よりも証明している。