三浦大知がソロ・デビュー13年目にあたる今年、キャリア初のベスト・アルバム『BEST』を3月7日(水)にリリースした。

ソロ・デビュー曲“Keep It Goin’ On”から“U”までの全シングルの表題24曲に加えて、CD初収録となるDREAMS COME TRUE提供楽曲“普通の今夜のことを ― let tonight be forever temember ―”、さらに新曲“DIVE!”も加えた全26曲。主にアメリカのR&Bシーンを意識した楽曲を軸に、J-ポップ・リスナーにもアピールするバラードなど、ベスト・アルバムとして俯瞰した時に感じられるこのバランスの良さは、実はオリジナル・アルバムでも彼が実現して来たことだ。昨年末の「NHK紅白歌合戦」での“Cry & Fight”での無音シンクロダンスの披露や、多くの歌番組、バラエティ番組への露出によって、お茶の間にも唯一無二のエンタテイナーぶりが届いたわけだが、いわゆるブレイクまでの長い道のりや、時代がようやく三浦大知に追いついたという外野の評価は、ロングスパンで自身のエンターテイメント道を追求している本人にとっては、さほど大きな影響はないのでは? と感じる。

しかし、世間の注目も高まると同時に、すでに「凄まじいダンススキルと歌唱力を持ったアーティスト」という形容の次に踏み出すタイミングにいる現時点の彼について、ベスト・アルバムを聴きながらそのキャリアを振り返り、彼の音楽性やパフォーマーとしての打ち出し、ひいては時代との親和性を検証することの意義は大きい。

では、ベスト・アルバムの収録順に、その時期のアルバムごとに区切って楽曲解説をしていこう。

アッシャーのコンポーザーやRHYMESTER宇多丸も召喚。グループ活動休止後のソロ・デビュー時の特徴は17歳の若さと勢い

“Keep It Goin’ On”(2005年)

記念すべきソロ・デビュー曲。17歳らしいまっすぐで初々しい発声が、ゴスペラーズの黒沢薫作曲の伸びやかなメジャー・ミドル・チューンと好相性。アレンジのK-Muto(SOYSOUL)ら、90年代のドメスティックR&Bシーンを盛り上げた面々が作ったトラックの上で、R&Bシンガー一歩手前の歌声は貴重なテイクとも言えそうだ。

三浦大知 (Daichi Miura) / Keep It Goin’ On -Music Video- from “BEST” (2018/3/7 ON SALE)

“Free Style”(2005年)

アッシャー(Usher)の“Yeah!”を手がけて注目された、パトリック“ジェイ キュー”スミス(Patrick “J. Que” Smith)が作曲を担当。デジタル・ロックのテイストを取り入れたアグレッシヴなビート、「フェイクの“Up to dates”身につけて 自由さ!なんて言うのかい?」といったラインが痛快。

“Southern Cross”(2005年)

‘00年代のR&B/ヒップホップに多く用いられたエキゾティックなアレンジから、軽快で洗練されたヴァースも挟み、踊るように両方の情景を行き来するような曲構成が体験的な1曲。ただ、デビューからの2曲がチャート10位台の健闘を見せた中、この曲は30位台。少々、難易度が高かったのかもしれない。

“No Limit featuring 宇多丸(from RHYMESTER)”(2006年)

RHYMESTERの宇多丸がラップを務め、ハードなギター・サウンドが特徴的な1曲。先日の武道館2days公演の2日目でも宇多丸を迎えてパフォーマンスし、ライブ映えするナンバーとして親しまれている。ここまでの4曲は1stアルバム『D-ROCK with U』収録曲。5年の活動休止期間後の爆発しそうなスタートダッシュ感と若さは、何物にも代えがたい。

三浦大知 (Daichi Miura) / No Limit featuring宇多丸(fromRHYMESTER)-Music Video-from”BEST”(2018/3/7ON SALE)

Nao’ymtらが参画した2nd『Who’s The Man』時の作品は現在の三浦大知の原点

“Flag”(2007年)

2ndアルバム『Who’s The Man』まで3年の歳月を要したのは、1stでのソロ・デビュー、若さという熱量に重きを置いた作風から、20代に向かう中でアーティストとしての自我が芽生えたからだろう。そんな試行錯誤の中、リリースされたのがこの曲。洗練されたダンスチューンだが、まだ確たる方向性が見えていない印象も。しかし、彼自身が手がけた「形ない世界 目の前の壁に 旗を突き立てて」という歌詞に意思が読み取れる。

“Inside Your Head”(2008年)

『Who’s The Man』の先行シングルでもあり、現在のUSシーンと並行するR&Bシンガーとしてのスタイルを楽曲で確立したナンバー。作詞、作曲、アレンジをNao’ymtが担当。また、この曲以降、自らダンスの振り付けを行うようになったことも、三浦大知オリジナルの純度を高めた。

三浦大知 (Daichi Miura) / Inside Your Head -Music Video- from “BEST” (2018/3/7 ON SALE)

“Your Love feat.KREVA”(2009年)

“Inside Your Head”のカップリング曲“Magic”をKREVAが“勝手にリミックス”として制作したことがきっかけになり生まれたコラボ・ナンバー。KREVAのラップと、三浦大知のボーカルとラップがスムーズに行き来する“声の競演”。ピアノとエレクトロニクスが美しく融合したNao’ymtのトラックも相まって、さらにオリジナリティを増した1曲。

三浦大知 (Daichi Miura) / Your Love feat KREVA -Music Video- from “BEST” (2018/3/7 ON SALE)

“Delete My Memories”(2009年)

こちらもNao’ymtが作詞、作曲、アレンジを担当。イマジネーションに富むアレンジ、心拍より少し早い四つ打ちが特徴的なナンバー。日本語をバウンシーに聴かせる独特の譜割によるボーカリゼーション、苦しい胸の内を歌うラブソングと、表現の幅も広がった。