インディロック・パーティー<SCHOOL IN LONDON>を主催するDJ村田タケルです。2019年の音楽的興奮を象徴する15曲をセレクトしました。

意図的に選んだわけではないその顔ぶれは昨年以上にUK〜アイルランド色が強いような気もしますが、昨年はShameだった〈Rough Trade Records〉の年間ベスト1が今年はFontaines D.C.だったことを考えても、機を熟してきたなと、個人的に納得。まさに今はUK周辺のロックが再び世界の音楽シーンに市民権を持つ黎明期と考えています。School In Londonという”London”と名前の付くインディロックのパーティーを主催していますが、その点でようやくパーティーの名前と自分のモードが近くなってきたなとも興奮しています。他にも、例えばMura MasaやClairo辺りは象徴ですが、インディとメインストリームとのクロスオーバーの面白さというのも例年以上に感じた1年です。

まさに10年代の最終年に相応しい、10年代の成果と20年代への希望が詰まった1年だったのではないでしょうか。それでは、インディロックのDJとして選んだ15曲を是非ともチェックしてみてください!

2019年ベスト・トラック15

1. Crack Cloud / The Next Fix

この曲を初めて聴いた時、彼らに第2のArcade Fireへのポテンシャルを信じて疑わなかった。それはカナダ出身であること、大所帯バンドであることといった共通項だけの話ではない。荘厳で重苦しい空気を感じさせつつも次第にコンテンポラリー的な祝祭感へと変わっていく。そして、踊れる。今をサヴァイヴしていくアイディアと力強さに満ちた2019年最重要ロックソング

2. Sticky Icky / Confession

Peggy Gouは最高だったけど、それより最高を探すのがおれたちの性。つまりはSticky Ickyで踊ったか踊っていないかで2019年をどう過ごしたかは、確実に差が出ているかもしれない。ダンスミュージックの土俵でポストパンクのような鋭利性をポップに落とし込めたのは初期New Orderにも引けを取らないどころか互角、むしろその百歩先を行く必殺キラーチューンがまさに2019年ここに誕生。

3. (Sandy) Alex G / Hope

内省的な幻想世界と現実の間を往来するサイケデリックな感触に目を覚ましたら、Eliott Smithのそれと同じで、現実よりもリアルなイマジネーションの中にいるかもしれない。しかし、車輪の下で過ごす(した)ぼくたちが微かな希望を感じられる場所は、ディズニーのようなファンタジーではなく、こうした黒と紫が交差し眩く世界なのかもしれない。

4. Osquello / Finding Peace

現行のノースロンドンのヒップホップアーティストと言えば同じく、2019年に最高の傑作アルバム「GREY Area」をリリースしたLittle Simzが有名だが、是非ともOsquelloというアーティストも知って欲しい。極上のチルとメロディに乗せられたリリックの気持ちよさ。華やかさを必要としていないからこそ、そっと側にあるような感覚が大事だったりする。

5. Fontaines D.C. / BIG

鋼鉄の空気の中に血の通う温かいロマンチシズムを感じたなら、Fontaines D.C.で踊っているはずだ。苦くて甘い。そして怒りは美しさへと昇華された。アイルランド・ダブリン出身だが、確実に今のUKの潮流の中で主役となる存在。かつてのUKロックノスタルジーに完全に終わりを告げるのは、その不機嫌そうなタンバリンを叩く姿に興奮しない訳が無いからだ。

6. Hotel Lux / English Disease

揺れる英国と英国人の病。いつでも死ねるぜ?と首吊り用の紐を掲げた不穏なジャケットを掲げていたHotel Luxは気付いてしまった。結局のところは週末にパブでフットボールの中継を観ながら1パイントのビアーを飲み干すことこそが身近であり最大の幸福。しかしそれは馬鹿馬鹿しかったりもする(そんな経験あったりしませんか?)。Hotel Luxの英国の病は、英国讃歌とも見せかける吹っ切れたサウンドの痛快さ!

7. Kim Gordon / Hungry Baby

溺れたくなるような洪水ノイズと実験性はまさにSonic Youthのそれで、Sonic YouthにおいてはThurston Moore以上にKim Gordonが重要人物であることを暗に決定付けた。年齢やキャリア以上に、オルタナティブの精神こそがフレッシュさを生み続ける。第一線で闘い続けても失うことなく磨き続けたそれが壮大でフリーキーな2019年版Sonic Youthノイズを産んだ。

8. Girl Band / Going Norway

見事なカムバックを果たしたGirl Band。2017年の<Hostess Club Weekend>で初来日を果たしたGirl BandのDara Kielyの姿をステージ外のフードコーナー捉えた。その姿は驚くほど気さくで、鬱でアルバム制作が遅れているという噂を聞いていたが、そのような感じは全く見えなかった。しかし、ステージ上で披露していたのはイメージを遥かに超えたカオス。“不良とは優しさのことではないかしら”とは太宰治の『斜陽』の一節。待ち望んだ新作でも、その不良は確かに今もいた。

9. Ugly / Blister

2010年代に大きな地殻変動を起こしたUKの到達地点はUglyであることを先ずは何卒ご承知頂きたい。ジャジーで孤独に寄り添う中で新しい美学を作ったKing Krule。反逆的でパンキッシュな興奮を再び可視化させたFat White Family。それはどちらも2010年代にサウス・ロンドンで起きた象徴だが、そのどちらをも絶妙なバランスの中でやれる稀有なバンドはUgly。ちなみに同じような系統でBlue Bendyというバンドも2020年大注目なので、どさくさに紛れて記しておく。

10. Sean Henry / Rain, Rain

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band期のThe BeatlesにWhitneyのようなナイーブで心温まるメロディセンスを加えたかのような良質性。生活と地続きにある中で沸き起こるアイディアの実践こそがインディ・ミュージックの醍醐味。生活を感じさせ、潤いを与えてくれる。

11. Husky Loops / Everyone is Having Fun Fun Fun but Me

良い曲書くけどもう一つ何かが足りないという私の勝手な評価から見事な大化けを遂げたのがHusky Loops。00年代中盤に隆盛していたポストパンク/ニューウェイヴ・リヴァイヴァルの続きを見させてくれるかのようなダンサンブルな音像はThe StreetsやKasabianの血を想起させ、若者たちをダンスフロアに誘い込む。

12. Easy Life / Sunday

“春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる”とは清少納言の枕草子の一節だが、UKレスター出身のEasy Lifeのレイドバックを効かせた音にも見事な情緒があった。カーテンからそっと光が差し込むように、派手では無いからこその安心と日常を生きる確かなリアルと生の祝福をEasy Lifeは与えてくれる。

13. Working Men’s Club / Teeth

Working Men’s Club。労働者たちのクラブ。現行UKのパンクシーンから派生するようにソリッドで突き刺さるインダストリアル・ディスコが出現した。狂うことなく一定のBPMで展開されるダンスミュージックに、不安定な悲痛さを伴った声色。その絶妙なバランスこそが労働者の代弁を現す手段と成り得る。

14. The 1975 / People

The 1975はいつしかその全てを背負っているかのような存在になっていた。少し心配になってしまうほどに。PeopleはこれまでのThe 1975の色とは少し違うパンクナンバー。そして”怒り”だ。月曜の朝、こうやって同じ朝を迎えられるのもあとたった1000回くらいかもしれない。本当に価値のあるものに気付くのに待ってはいられない。Wake Up, Wake Up, Wake Up!!!

15. Toro Y Moi / Who Am I

《私は誰だ。ダンスフロアでも感じる孤独。とどのつまりは私と貴方は一生分かり合えない。でもダンスフロアで一緒に踊れることを夢見ている。》
Toro Y Moiの今年1月にリリースされたニューアルバム『Outer Peace』収録のこの曲はToro Y Moiの真骨頂とも言える孤独と優しさに包まれた気持ちの良いダンスミュージック

SpotifyやSNSの普及もあり、海外のインディ・アーティストを随分と身近に感じるようになりました。この2019年は私としてもSNSでの出来事をきっかけにスペインのMOURNの来日大阪公演をで主催させて頂く経験もしました。では、今の海外インディシーンは日本国内で盛り上がっているのか?という視点では疑問に思うこともあります。多くの海外アーティストの来日公演が集客面で苦戦する中で、東京オンリー公演の割合もかなり増えたような気がします。年々高まる海外のインディシーンの素晴らしさとは対照的に、一抹の寂しさを覚えます。全く他人事にするつもりはないですが、来たるべき20年代ではこうした実情を打開するアーキテクチャーが構築されることを信じています。

インディ・ロックのDJが選ぶ2019年ベスト・トラック15選 music191225indierock-besttrack-02

text by 村田タケル

EVENT INFORMATION

School In London 忘年会SP!!

インディ・ロックのDJが選ぶ2019年ベスト・トラック15選 music191225_indierock_besttrack_2

2019.12.29(日)
START 18:00 / CLOSE 23:00
Spincoaster Music Bar
¥2000(2D込)

DJ: 村田タケル
Guest DJ: 小高浩一郎 / 瀬下 譲(BADLANDS/宝宝)

※エントランスでの学生証提示で¥500off
※先着25名にフライヤーポストカードプレゼント
※当日のイベントの収入から諸経費を引いた金額とドリンク1杯につき50円をSpincoasterと協働で日本財団の災害復興支援特別基金に寄付します。

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