当初は「仕事の集中力が上がるプレイリスト」という内容でオファー頂いたのですが、ミュージックビデオのディレクターという仕事をしていると、編集中はそのMVの楽曲だけを聞き続けることになり、企画書を書く場合も、基本的にはこれから撮影することになる曲だけを繰り返し聞いてアイデアを出すことが多いため、わたし、仕事中に音楽って全然聞けないんですね。と改めて感じた次第でした。なので、今回はわたしが影響を多分に受け、今後もずっと好きだと言える「優れたMVが作られた名曲10選」を紹介します。

加藤マニ 優れたMVが作られた名曲10選

#1. The Strokes – You Only Live Once

ニルヴァーナの”スメルズ・ライク・ティーンスピリット”のMVでも知られる巨匠、サミュエル・ベイヤーがディレクションした本ビデオは、密室空間にて白い衣装を纏って演奏するバンドメンバーへ黒い汚水が降り注ぎ、みるみるうちに水かさは増すばかり。それでも演奏を続けるメンバーの運命や如何に、と思う視聴者をよそに、平然と演奏を続けるメンバーの様子はエモーショナルであり、タイトルの示す「人生は一度きり」という儚さと尊さを表現します。

The Strokes – You Only Live Once

#2. Mutemath – Typical

MTV開局以降、いわゆる「アイデアもの」と言われるMVが数々生み出されましたが、録画したビデオを逆向きに再生させることで、破壊されたものが元に戻ったり、こぼれた液体が容器に戻ったりするアナログ感ある不思議な映像、即ち「逆再生もの」というジャンルにおける最高峰のひとつではないでしょうか。特筆すべきは、ほぼ1テイク(厳密には恐らく2テイクを繋いでいると思いますが)の長回しと、卓越した技術で、譜面自体を完全に逆回しにして演奏しきるというストイックさです。ディレクターはイズラエル・アンセム。
Mutemath – Typical

#3. Franz Ferdinand – Take Me Out

「あなたの人生を変えるバンド」というのが、当時の彼らにつけられた日本でのキャッチコピーだったと記憶していますが、ジョナス・オデルによるバウハウス的な色遣いと構図、アナログの風合いを残したデジタル・コラージュのシュールにして洒脱なセンスは、多くのインディバンドが4つ打ちのキックと裏拍のハイハットを真似したがるようになったのと同じくらい、世界中のアートディレクターが真似したがったものでした。トレンドが変わる瞬間が確かにあったのです。

Franz Ferdinand – Take Me Out

#4. The Vines – Ride

映画監督としてもすっかり著名となったミシェル・ゴンドリーが監督したこのビデオは、メンバー4人だけが存在するにしては少々広過ぎるような体育館で行われるシンプルな演奏シーン主体と思わせつつ、最初のコーラスから様相は一変、フォークにカントリー、ヒップホップやガールズポップまで、ありとあらゆるジャンルのバンドが彼らを取り囲むように、同一の曲を演奏するという狂ったオーディションを思わせる大騒ぎは「俺と一緒に乗ろう」というリフレインに、これ以上ない一体感を与えています。
The Vines – Ride

#5. The Cribs – Men’s Needs

カット割を極力排した、ある意味粗野にも感じるバンド演奏に、「全く関係のない傍若無人な女性がメンバーへちょっかいを出し続ける」というワンアイデアを足すことで、パンキッシュにして記号的な男女の関係を鮮烈に描きます。本ビデオには「健全バージョン」と「不健全バージョン」があり、後者は黒い目隠しで規制されつつも女性が全裸だったり、投げた包丁でボーカルの首が飛んだりと雑なナンセンス・グロのオンパレードなので興味のある方は是非。その質感から、一見ごく若手のディレクターが撮っているのかと思いきや、当時でも10年以上のキャリアを持つベテラン、近年は1975やマイリー・サイラスとの仕事でも知られるダイアン・マーテルによるものです。
The Cribs – Men’s Needs

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