一通りの取材とバケーションを終えて、アムステルダムからベルリンへ戻ってすぐに開催されたのが<BERLIN ATONAL>だった。メロディアスなハウスやディスコが頭の中を占領したまま向かったメイン会場“Kraftwerk”へ入った瞬間、脳と視界全部を奪ったのがENAの音像だった。浮遊する墨黒の断片を背に、細かく刻まれた単音のレイヤー、得体の知れない物体がぶつかり合うような機械音、立ち竦みながら思考回路が消えそうになる瞬間に差し込んでくるノイズやビート。初めて知る感覚だった。
レジデントである「Back To Chill」から彼をベースミュージックのDJとして認知している人も多いだろう。しかし、ほぼテクノで固められた<rural>や実験音楽の集大成である<ATONAL>への出演、日本在住でありながら、リリースの多くは海外レーベルという一筋縄ではいかない、説明書のないアーティストである。
昨年リリースされたセカンドアルバム『Binaural』から世界のレスポンスは止まらず、その唯一無二な存在はファッション界へも響いている。
ベルリンでの<ATONAL>、イタリア・サルディーニャでの<Sun And Bass>を含むEUツアーを終えたばかりのENAをキャッチし、ベルリンの日差し舞い込むカフェでじっくり話を聞かせてもらった。
酒もタバコもやらない。ひたすらストイックに音楽と向き合い続ける。“独創的”、“ユニーク”そんな言葉だけでは言い表せない。どこまでもアブストラクトなENAを少しでも紐解きたい。
Interview:ENA
ーーENAさんは、ライブではミニマル要素の強いインダストリアル、DJはドラムンベースやダブステップのイメージが強いですが、そういった二面性を持つアーティストというのはなかなかいないですよね?
DJとライブは完全に分けてますが、ジャンルはあまり意識していないですね。アブストラクトなものはずっとやってるし、自分がやりたいと思うことをやっているだけです。
ーー今年初出演となった<BERLIN ATONAL>では、メインでライブ、アフターでDJとダブル出演でしたが、どうでしたか?
とにかく裏の仕切りが日本かってぐらい完璧でした。運営面に関しては、想像している通りのガチガチに真面目できちんとしているドイツ人のイメージそのものでした。アーティストとしてストレスがなかったのがとても良かったです。イベント自体はやっぱりあのロケーションとスクリーンの強烈なインパクトですよね。しかも、コンサートスタイルで着席だったし。
ーー確かにあのスタイルには驚きました。椅子に座って聴くんだ!という衝撃を受けました。寝転がってる人もいましたしね。今年初めて参加させてもらったんですけど、9割が全身黒のファッションで、ああ、ベルリンぽいって思ったんですが、通常の週末とは少し違った雰囲気を感じたんですよね。この美意識の高い人たちは一体どこから来たんだろう? って(笑)。人間で構成されたアートみたいでした。
去年の数倍の来場者数だったみたいですね。僕は初日から参加してたんですが、水曜からどこの会場もパンパンで、オーガナイザー陣も嬉しそうでしたよ。日本人も多かったし、アメリカからも来ていて、インターナショナルだなって思いました。フェスという認識ではなく、もはやムーブメントの一つになってるみたいですね。だから、<ATONAL>には参加しないといけない”って思ってる人が多いんだと思います。ベルリンの<CTM>も内容的に近いことやってますけど、そこまでの知名度は日本ではないですからね。
ーーCTMはもっとテクノロジー色が強くて、ギークなイメージがありますよね。確かに<ATONAL>ほどの洗練されたイメージはない気がします。会場も一カ所にまとまっていないから分かりにくいというのもあるんでしょうが……<ATONAL>への出演はどのように決まったんですか?
3、4年前に<ATONAL>のボスのローレンスのパーティーに出演したのがきっかけです。自分のレーベルの〈samurai horo〉のボスとも仲が良くて、何かと接点があったし、去年出したセカンドアルバムの『Binaural』の反応が良かったからというのもあります。そこから規模感が変わったという実感もありますね。
ーー『Binaural』の評価ももちろんあると思いますが、日本に拠点を置きながら、これほど多くの海外フェスやパーティーにブッキングされるのはなぜだと思いますか?
単純に僕の場合は、海外のレーベルからリリースすることが多いから現地のパーティーに呼ばれやすいというのはあります。知り合いのプロモーターに連絡する程度でデモを送ったり、自分から営業をかけるようなことは絶対にしないです。ある程度の年数やってたら強気でいかないと(笑)。
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