「音楽フェスティバル × アートミュージアム」を融合させた完全招待制の体験型イベントとして今年日本にローンチしたバカルディによる世界初のプロジェクト<BACARDÍ Over The Border>。東京、大阪、名古屋、札幌、福岡にて開催され、今後も日本をベースに継続的に開催されていくことになっている。

本題に進む前に、ちょっとだけバカルディの歴史を振り返っておこう。バカルディ社(Bacardi Limited)はスペインからキューバのサンティアーゴ・デ・クーバへ移住してきたワイン商、ドン・ファクンド・バカルディ・マッソが1862年に設立した世界最大のラム酒のブランド。お馴染みのコウモリのロゴは、創業者夫人が初期蒸留所の樽木にフルーツコウモリの一群を発見したため(またスペインのシッチェスにある郷里では長年、コウモリが健康、幸運、家族団結の象徴とみなされていた)、覚えやすいシンボルとしてコウモリのマークを採用したのだという。いまやこのコウモリのロゴは世界中に羽ばたき、ラム愛好家のみならず、キューバリブレ、ダイキリ、モヒート、ピニャコラーダなど人気カクテルのベースとしても多くの人たちに愛されていることは、みなさんもご存じのことだろう。

海外では音楽プロデューサーのスウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)によるプロジェクト<NO COMMISSION>をはじめ様々なカルチャーイベントを繰り広げるバカルディだが、ここ日本でカルチャーに歩みを寄せるのは初の試み。今回は、バカルディが音楽やアートと深く関わってきた歴史を、海外で展開されている<NO COMMISSION>にフォーカスしつつ紐解き、今年大盛況のうちに幕を閉じた<Over The Border>を振り返りたい。

画期的プロジェクト<NO COMMISSION>とは

BACARDÍが音楽×アートに変革を。日本の<Over The Border>、世界の<NO COMMISSION>の歴史を辿る bacardi-feature6-700x467

バカルディが展開する新たな取り組み<NO COMMISSION>は2015年にBACARDIのCCC(Chief Creative for Culture)に就任したスウィズ・ビーツが中核となって押し進めているプロジェクトで、アーティストが作品を宣伝し、販売するための“プラットフォーム”のようなもの。と、ここまでなら珍しくもないのだが、なんとこのプロジェクトによる売り上げは100パーセント、アーティストに還元されるというスキームになっている。一般的なギャラリーのように中間マージンを抜かれることがない。スウィズ・ビーツは言う。「100%アーティストのためのアートフェアを開いたらどうだろう? と思ったんだ。世の展示会はギャラリー、コレクター、そして展示会が甘い汁を吸って、アーティストはせいぜい帰りの電車賃がもらえる程度なのさ」(引用元:CITIZENS of HUMANITY

Swizz Beatz – It’s Me Snitches

この画期的なプロジェクトは、世界最大手の非上場スピリッツ・メーカーがありきたりの広告展開に愛想をつかし、ミレニアル世代を取り込むための野心的な戦略に踏み切ったというだけではなく、音楽やアートのフィールドにも大きな影響を与える可能性を秘めているという点で、非常に興味深い。<NO COMMISSION>は、スタートしてから18ヶ月ですでに3億円程の売り上げを達成しており、推測ではこれが2倍になると目されている。

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まず<NO COMMISSION>を説明するうえで注目したいのは、2015年にBACARDIのCCCに就任したスウィズ・ビーツことカシーム・ディーンの存在だ。スウィズ・ビーツと言えば、1990年代後半から、DMX、Eveらが所属するラフ・ライダーズ専属のプロデューサーとして多数のヒット曲を手掛け、ホイットニー・ヒューストン、グウェン・ステファニー、ジェイ・Z、ドレイク、ケンドリック・ラマ―、さらには彼の妻であるアリシア・キーズからも称賛されるスーパー・プロデューサーである。(出典元:CITIZENS of HUMANITY

Alicia Keys – Blended Family (What You Do For Love) ft. A$AP Rocky

そんな彼がいま本腰を入れて取り組んでいるのが、<NO COMMISSION>というわけだ。スウィズは業界への圧倒的なコネクションとこれまでに数々の逸材を手掛けてきた天性の嗅覚とプロデュース能力で、アートのマーケットにも刺激を与えようとしている。

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さらに翌年、2016年にはスウィズは地元サウス・ブロンクスでも「No Commission Art Performs」を成功させる。これは4日間の無料イベントとして、ライヴ、アートの展示、インスタレーションなどがおこなわれ、Wiz Khalifa、 Alicia Keys、Pusha T、A-Trak、DMX、A$AP Rocky、Young Thug、Q-Tipらが出演した。スウィズ・ビーツ・パワー全開といった豪華な顔ぶれだ。

Insider Access | No Commission: Art Performs

「参加した98%のアーティストが作品を販売することができ、購入者の70%がアート作品を初めて買った」のだとスウィズは振り返る。アートを購入するという行為は、我々にとってまだ決して身近なものとは言い難い。しかしこうしたプロジェクトがきっかけになり、CDやレコードを購入するように我々にとって気軽なものになれば、それは大きな意識の変化と言えるかもしれない。同じ記事の中でスウィズはこうも言っている。「グラミー賞なんてどうでもいい。テーブルの上に置いて行ってもいいようなもの。そんなものはこれからなんにもならないし一瞬の偶像だよ。だけど、みんなに何かを与え続けるものを作る事が出来れば、それは本当の喜びだ」。(引用元:CITIZENS of HUMANITY

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「創業当時からバカルディ家は芸術と音楽に強い関心を持っていました。例えば1930年代、つまりアメリカの禁酒法の時代は多くのアメリカ人がラムを求めてキューバにやってきました。バカルディ家は、所有していたいくつかの建物にブラジルのアーティスト、フランシス・ブレナンデやキューバのアーティスト、フェリックス・ラモスから委託された作品を飾り、パーティをおこなったのです。そこは作品を広める場でもあり、作品を販売する場にもなりました。私たちはそのDNAを受け継いでいるのです」と語るのは、バカルディ社のhead of creative excellenceを務めるZara Mirza。

「ブランドがアートや音楽とリンクするのは今さら珍しいことではありません。が、<NO COMMISSION>はそうしたものとは少し異なります。我々の狙いは、幅広くグローバルなアーティストたちの作品を展示し、作品を販売し、彼らに100%の資金を還元できる持続可能なプラットフォームを提供すること。<NO COMMISSION>はアーティストによるアーティストのためのもの。そして人々のためのものです。展示スペースは無料で、アーティストたちは作品の100%の売り上げを確保できます。展示会場への入場も無料です。そして魅力的な作品や音楽パフォーマンスが伝統的なアートのマーケットを刺激し、ユニークで文化的な経験を来場者たちのために作り上げるのです」とZara Mirzaは続ける。スウィズ・ビーツとZara Mirzaのコンビは、マイアミ、サウス・ブロンクスに続き、Blood OrangeやLady Leshurr、Emile Sandeらがパフォーマンスを披露したロンドンをはじめ、上海、ベルリンでも<NO COMMISSION>を開催し、成功へと導いた。

Swizz Beatz and The Dean Collection Bring No Commission to London

なお、バカルディの海外での取り組みは<NO COMMISSION>に留まらない。ブランドのイメージを担う広告塔的存在としてメジャー・レーザーを大々的にフィーチャーし、パートナーシップを結び「The Sound of Rum」というプロジェクトを進めている。なんとメジャー・レーザーによるリミテッド・リカーまで発売している。

Bacardi – The Sound of Rum, feat. Major Lazer (“Run up” – upcoming single)

BACARDI Presents: Music Liberates Music

アメリカ合衆国テネシー州にて開催されている野外ロックフェスティバル<bonnaroo music festival>では、<THE OASIS: MIXED BY BACARDÍ>というステージをビーチで開催。バカルディとパートナーシップを結び「The Sound of Rum」というプロジェクト進めるMajor Lazerの他、Cherubらが出演し、Chance The Rapperは同ステージでバレーボールをプレイした。

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