音楽のために何かをやりたくて、その方法を模索したけれど、理不尽な状況で正面突破はできない。それでも音楽のために何かをしたい。やれることはちゃんとやるけど、そこに多少のグレーゾーンがあっても、突き進むしかない。それでも尚、潰される。今回Hidden Agendaが直面している、似たような八方塞がりが、香港のインデペンデントなバンドマンたちにも降りかかっている。

昨年、自分のレーベルから日本盤をリリースしたtfvsjsというツインドラムのインストバンドがいる。8月には<SUMMER SONIC>に出演し、ジャパン・ツアーも行った。この連載のvol.1でも彼らのインタビューを交えて、彼らと香港のミュージックシーンについて、記事を書いたのだがそこにこんな言葉があった。

tfvsjs「何度も何度もリハーサル・スタジオを転々としていて、2013年の秋なんかは、tfvsjsのドラマー2人がやってたドラムショップ兼リハスタを、1ヶ月後に撤去しろ、と突然通知が来てマジで絶望した。そんな、リハスタを転々として終いには撤去させられてしまうような経験から、レコーディングや練習もできるスタジオも持つ、レストランを作ることにしたんだ。経済的にもサステイナブルだしね。それが今やっている「談風:vs:再說(tfvsjs.syut)」というレストランで、tfvsjsが生まれた場所でもある”Ngau Tau Kok”という工業地帯の、Dai Yip Streetにあるんだ。ここは、家賃も比較的安くて、たくさんのミュージシャンや、アーティスト、デザイナーや職人が集まっているよ。同じ理由で今最もアクティブなライブハウス「Hidden Agenda」もここにある。」

アジアン・インディー・ミュージックシーン 〜号外「香港」TTNG&Mylets香港公演・Hidden Agendaへのガサ入れと、香港ミュージックシーンの困難と希望〜 Re_tfvsjs-700x516
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音楽活動を続けるために始めたこのレストランは、彼らの努力もあって予約をとらないと入れないくらい、大繁盛する名店になった。機材も持ち込み、スタジオも創り上げ、音楽を続ける環境を自ら整えていったのだが……、お察しの通り今年3月、政府からの立ち退き命令で閉店となった。先述の数十年前に制定された工業地帯では工業のみ、というルールによって、だそうだ。

ルールはルールかもしれないが、実際はtfvsjsの言葉にもある通り、工業以外にも使われていることは多々あるグレーゾーン。その中で、何らかの影響力のあるモノが選ばれ、潰されているように思える。そして、ルールはルールかもしれないが、そのグレーゾーンを突破してでも、行動すべきと思い、表現し、形にしていく者たち。困難な状況でも表される、Hidden Agendaやtfvsjsのような純粋なる表現に自分は興味を持つし、この状況下で活動を続ける彼らのような者たちがいる香港は、大きな希望にしか思えない。絶望や抑圧から生まれる表現や、負の感情が創り出す表現ほど、大きくて醜く、心に突き刺さるどぎつい色をした花を咲かせるものはない。それは純粋なる大きな希望。

もし、ここまでの話に興味を持てたなら、ぜひtfvsjsのインタビューを交えた、vol.1の記事を読んでみてください。いろんなことが繋がると思います。奇しくも来週、5月17日(土)にtfvsjsの2nd Album『在 / zoi』が、日本で発売されます。今作は訳あって自分のレーベルではなく、関係のない別のレーベルからリリースされるので、宣伝目的ではありません笑。単純に、かっこいいと思えるなら聴けばいいし、こういった機会に、今まであなたにとって所縁のなかった香港のミュージックシーンを知って、聴いてもらえれば、それが音楽にとって力になるのだと、思います。

tfvsjs – 殖+Battle from the bottom

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最後に、本日のTTNG&Myletsの声明とHidden Agendaの声明より。

TTNG&Mylets「イベントの後、香港ではミュージシャンが生き残っていくのは、究極に難しいことを学んだよ。途方もない強さと情熱が要求される。自由と多様性の国際都市・香港は、クリエイティブな活動がもっと繁栄していく余地をもっと創るべきだ。とはいっても、僕らは気を落としているわけではなく、自分たちの音楽を世界に広めていくために旅を続けるよ。また、香港で将来的にライブをやることがあったら、警察たちなんかじゃなく、より多くのファンやミュージックラバーに迎え入れられることを心から願ってる。思いやりと親切心をくれた香港のみんなに、感謝しています。」

Hidden Agenda「Hidden Agendaにとって、今の状況は絶望的ですが、私たちは次に何をすべきかを模索しています。私たちはただ、素晴らしい世界中のアーティストを香港に持ってきて、香港の文化形成に貢献したいと願っています。それを続けるために、まだ私たちができることが他にもあるのでしょうか?」