Kana ホントにそうですよね。世界中のアーティストやレーベルが使用しているSoundCloudを活用しないで、一体何を活用するんだと思ってしまいますね。私も音源を盤やデータでもらう以外は、どこのアーティストもプロモーターも必ずSoundCloudで送ってきてくれます。リリースごとに毎回きちんとプレスキットを送ってくれるところ、ギグがある度に必ず連絡をくれるアーティストやキュレーター、全く音沙汰ないところ、ここにも大きな差が出ますよね。私に送ったところで何の得もないと思われてるのかもしれませんが(笑)。

Anri 何がチャンスになるか分からないのに何もしないなんて本当に勿体ないことだと思います。先日、ギグでスウェーデンへ行った時にプロモーターの方々から聞いたんですけど、”ベルリンにAnriって日本人のDJがいるんだけど、すごいヤバいんだよ! 次回パーティーするなら絶対ブッキングした方がいいぜ!”って、3回耳にしたらしいんです。それで今回オファーを頂きました。だから、良いプレイをして、胸を張って、ひたすら真っ直ぐ頑張っていたら評価してくれてる人は絶対にいるんですよね。自分の身を持って証明しました(笑)

Kana 説得力ありまくりですね(笑)。でも本当に、街を歩けば右も左もアーティストという環境に焦るんじゃくて、逆に満足しちゃって何もしなかったら本末転倒ですよね。ベルリンは良くも悪くも影響されやすい環境が整ってると思うんです。クラブカルチャーも日本と全然違うし、著名なアーティストも気さくに接してくれるから、自分が何者にもなってないのに、何かになれたと勘違いしてしまう危険性があると思ってます。インプットすることはすごく大事だけど、それを何かの形でアウトプット出来なかったら意味がないですからね。

Anri アウトプットの仕方も大事ですよね。ただMIXを作ればいいわけじゃない。例えば、綺麗なMIXとか極端な話ベルリンのDJだったら誰でも作れますよね。うわー、すごいな!とか、その人のオリジナルスタイルとかサプライズを起こさないと印象にも残りません。自分が作った音楽こそが答えだから、ギグが1回、2回と続いていくってそうゆうことだと思います。

Kana そんな環境の中でAnriちゃんは着々とギグを取っていって、自分のスタイルを築いていったと思うんですが、何か大きな転機のようなものはあったんですか?

Anri 2014年の<ADE>の時に、自分オーガナイズでパーティーをやったんですけど、そこでUKのDecoded Magazineから取材を頂いたんです。英語も話せなかった日本人の女性DJが単身でオーストラリアに留学して、そこで語学とDJを磨いて、今度はベルリンへ移住してきて、ADEでは自身のパーティーを主催する。そこに感銘を受けてくれたみたいで、私のドキュメンタリーを作ってくれたんです。他にも<ADE>開催中にはTom Hadesのパーティーにも出たんですけど、そこでのプレイもすごく評判が良くて、そこからいろいろギグが入るようになりましたね。いろんなところからPodcastを頼まれる機会も増えてきたんです。

それに、DJは1本、1本100%でやれなかったら意味がないと思っているんです。だから、いつもものすごいプレッシャーの中でやってるんですけど、女だからってなめられたくないって気持ちもすごくありますよね。昔から“女だからギグを取ってきた”って言われることがあって、悔しい思いをしたので、絶対実力で見せたいと思っていたし、納得させたかったんですよね。

ベルリンで生きる女性たち【DJ編】 reanri3

Kana やっぱりそこには長年のストーリーがあるわけですよね。はい、ベルリンへ来ました!っていうだけでなく、さっきの農業の話じゃないですが、ものすごく根性もプライドもあると思うんですよ。プレイを見ていても感じるし、かなりストイックですよね。

Anri ベルリンへ来てから、自分はテクノがやりたかったんだって気付いたんですよ。プレイしていて一番しっくりくるし、深みが出て、自分の満足のいくプレイが出来るようになったんです。日本って、DJ1人の持ち時間が1、2時間ぐらいしかないじゃないですか?しかも、スターターだったら”緩めにお願いします”って言われてしまうし、女性DJはラウンジにブッキングされることも多いんです。それが決して悪いわけではないけれど、やっぱり自分のやりたいプレイは100%は出来ないんですよね。その点、ベルリンはどの時間もメインで、持ち時間も最低3時間はあるし、スターターでもラストでも何時でも自分のやりたいことをやりたいように出来る。それを見てもらえて、評価してもらえるってすごく大きなことなんですよね。あとは、ここ2年間はリリースもしていたので、そこでまたレスポンスも変わってきました。

Kana 日本はクラブの営業時間も短いし、メインDJのタイムテーブルに合わせて来るお客さんも多いから仕方ない部分はありますが、以前インタビューしたNina Kravizも”本当は6時間ぐらい回したい。それでやっと自分のストーリーが作れるし、フロアーと一体感が作れる”って言ってましたね。でも、ベルリンって一回ギグでこけたら二度と呼んでもらえないじゃないですか?それってめちゃくちゃプレッシャーですよね?

Anri 本当にその通りです。ベルリンのクラブは本当に緊張します。これだけパーティーがあったら当然なんですけど、オーディエンスの耳が肥えてるし、何より反応がダイレクトですよね。グルーヴが作れてなかったらフロアーから人がいなくなるからすぐ分かっちゃうんです。逆にオーディエンスと一体感を得れてるなって瞬間も分かるから、そのためにはやっぱりある程度の時間が必要なんです。それに、どのDJもみんな当たり前にうまいんですよね。最近は自分のスタイルが築けてきたから、テクノの中でも無機質なものだけじゃなくて、メロディックなものを入れて、飽きさせないように心掛けてます。

Kana うーん、私はDJではなく踊る専門で本当に良かったです(笑)。「Chalet」のレジデントになった経緯は何だったんですか?

Anri ChaletはNiconeのパーティーに一度出たことがあったんですけど、その時にChaletのブッカーが自分のプレイを気に入ってくれて、そこからちょくちょく出演するようになりました。しばらくして、“お客さんからの反響がすごく良いから、Anriをレジデントにした日本人アーティストをフィーチャーしたレギュラーパーティーをやりたい”と話をもらったんです。

ベルリンで生きる女性たち【DJ編】 Chalet

Chalet official

Kana それは光栄な話ですよね。Salon Zur Wilden Renateの「Tokyo Red Light」の第一回目の時もすごく反響良かったですよね。ブース脇で踊ってたら“あのDJは誰? 何て名前?”って、何人にも聞かれましたから。

Anri あの時も実は緊張がすごかったんですよ!憧れのJerome Sydenhamの後で、フロアーもすごい盛り上がってて、“ああ、この後かあ……。”って。でも、自分の中でベスト3に入るプレイが出来たので本当に良かったです。

Kana 他に印象的だったギグはありますか? ベルリンだけでなく、世界各地に行っていると思いますが。

Anri イタリアでのギグですかね。自分がヘッドライナーで、フロアーもパンパンに入ってて、クルーもすごい盛り上げてくれてたんです。“あ、ここで失敗は絶対にないな”って(笑)。しかも、関係者もみんな初めましてだし、ベルリンみたいに友達が一緒にいるわけじゃないから、もう緊張がMAXでした。あと、やっぱりベルリンのクラブは特別ですね。ChaletもRenateもそうですが、Ritter Butzkeはお客さんとして遊びに行っていたクラブだったので、そこからオファーをもらえたことは本当に嬉しかったですね。

ベルリンで生きる女性たち【DJ編】 anri4

This is not party in Italy 2015 February

Kana 異国での名誉は嬉しさの度合いが違いますよね。その分、失敗した時に受ける度合いも違いますが……。

Anri 本当にそうですよね。FacebookとかSNSって楽しいことしか投稿しないじゃないですか?だから、みんなから良いねって言われるんですけど、実際、海外暮らしなんて辛いことの方が多いじゃないですか(笑)? ホームシックになったり、いろいろ悩んでた時に、DJギグが支えてくれたんですよね。私はDJを“仕事”とは思ってないんですよ。もちろんお金をもらっているからそういった意味では仕事になるんでしょうけど、それ以前に自分のパッションであって、生き甲斐なんですよね。

Kana パッションを感じれるものに出会えてるか出会えてないかで人生ってだいぶ違うものになりますよね。最後になりますが、今後の目標や夢を教えて下さい。

Anri うーん、やっぱりDJでもっともっといろんな国に行きたいですよね。やっぱりそれが生き甲斐なんです。

Kana 今後の活躍も楽しみにしています!ありがとうございました!

ベルリンで生きる女性たち【DJ編】 anrikana

13年というキャリアと一流DJに囲まれた街でここまで活躍しながら、それでも“DJ一本でやっていこうと思ったことはない。”という彼女。それほどシビア世界であり、自分にも厳しいということだ。奇抜なヘアカラーに抜かりないメイクは、個性であるとともに、本当は繊細でシャイな彼女自身を守るためのものなのかもしれない。ようやく春が訪れたベルリンは、全クラブのガーデンがオープンする最高の季節がやってくる。DJ ANRIのDJを初めて聴いたシュプレー川沿いのオープンエアーパーティーを思い出した。

▼DJ ANRI officail SoundCloud

EVENT INFORMATION

Between The Lines」at Chalet(ベルリン)

2016.04.05(木)

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photo by Katsuhiko Sagai