“和彫りが全く浸透してない街で、自分がどこまでやれるか挑戦したかった。”

ベルリンでの活動は2年目を迎える和彫り専門のタトゥーアーティスト俊英(Toshihide)氏。和彫りというのは、ベルリンだけでなく、おそらくドイツ全体においても唯一無二の存在と言える。取材時に見せてもらったのは、色入れの段階だった。細い棒状の鑿(のみ)で、ミリ単位の細かさで、とても丁寧に彫っていく先には何とも鮮やかで、力強い鷹が描かれていった。

ヨーロッパの多くの人はタトゥーを入れている。飲食店であろうとスーパーのレジ係であろうと、学校の教師でさえ入っている。ライフスタイルであり、ファッションの一部であるタトゥーに対して、誰1人抵抗などない。取材中にも20歳そこそこの若い女性がフラっと入ってきて、足首に1ポイントタトゥーを入れて帰って行った。タトゥーマシーンで手軽に彫っていく文化が浸透している街で、もっと深い、重みのあるように思える“和彫り”を始めようと思ったきっかけは何だったのだろうか?

“服飾の専門学校に通っている時に、刺青を彫ったのがきっかけですね。何となく自分の中で、ファッションではないと思ってた部分があって、自分の身体の一部になっていく刺青を見ながら、“これだ!”と思ったんですよね(笑)その時、僕の刺青を彫ってくれたのが今の師匠の彫俊氏(御歳70歳を超える現役の彫り師であり、日本を代表する和彫りのレジェンド。)で、専門学校を辞めて、20歳で弟子入りしました。昔から絵を書くのが好きだったから、そういった点からも興味を持ったんだと思います。”

偶然にも俊英氏と私は同じ専門学校で世代も近い。当時、ファッションの道に進むことしか考えていなかった自分と、和彫りという全く違う道を選んだ彼。巡り巡って17年後にベルリンで知り合うのだから人の出会いと言うのは本当に不思議だ。

俊英氏のベルリンでの活動は2年目となる。一風変わったクラブやバーが立ち並び、厳ついリアルパンクスとオールドスクールなグラフィティーが存在感を増すエリア、Warschauerにあるタトゥーショップ“Für Immer Tattoo”に席を置く。メタルバンドのボーカルだった片目しかない厳ついパンクススタッフから日本人女性のスタッフまで、ジャンルレスでインターナショナルなこのショップは、ベルリンでも有名店の1つ。安定しているかのように見えるが、唯一無二ならではの苦労は想像を超えたと言う。

ワンアンドオンリーな生き方から何を感じるか!? ベルリン在住の和彫り師に迫る column150309_km_4

Für Immer Tattoo

ワンアンドオンリーな生き方から何を感じるか!? ベルリン在住の和彫り師に迫る column150309_km_3

俊英氏のデスク

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