今年はコロナ禍の中、お家時間が増え、部屋にある漫画を読み返したり、気になってた漫画を一気読みする人も多かったのではないでしょうか? そんな2020年、アーティストたちはどんな漫画に熱中したのか、どんな感想をもったのか。

Qetic編集部では『THE BEST COMICS OF 2020』と題し、アーティストたちが今年ハマった漫画を紹介する企画を実施。お家で過ごす年末年始のお供となる作品を見つけられるかも!

今回はMONO NO AWAREの玉置 周啓(Gt./Vo.)が『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』香山哲をピックアップ!

玉置 周啓(MONO NO AWARE) – 『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』/香山哲

2年前、偶然ツイッターで見た一枚の絵、それは正確には漫画であったはずだが、まるでタロットカードのような、ビックリマンシールのような、脳を刺激して心を踊らせる全体としての強度があった。

すぐに作者の香山哲さんというひとのプロフィールから、ホームページに飛ぶ。

『心のクウェート』、『すこし低い孤高』、『香山哲のファウスト1』、どの作品も身震いするほど面白い。

当時はこれらの作品を、香山さん自身がウェブ上にアップしていて、それを見つけてからは何度も読み返した。

ファンタジー漫画でもあるし、エッセイのようでもあるし、思想書やヒーリング・ミュージックにも感じられる香山作品たちは、どれも「探していたけど見つからなかった宝物」である。

大前提として優しさや慈愛に満ちているが、それらを描くことで雲の上の話になってしまうところを、独特の嗅覚でかわしていく。露悪的な描写をせずして、人間の業というか、知らない振りをしていた数々のポイントを描き出している。

それでいて説教くさくない。

なぜなら、香山作品は「真理」を見せず、自身が抱える葛藤や、溢れ出る自意識、スマートではない人くささを、読者(僕)に見せているからである。

だから読者(僕)は、「べき」的な読後感を得ることなく、ただ娯楽として消費しながら、1コマ1コマに刻まれたささやかなメッセージを受け取っているのではないだろうか。

その点において、『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』は代表的作品だと思う。

まず、現代のベルリンという街に住む香山さん自身が主人公というだけで、旅好きやドキュメント好きの食欲をそそる。

しかも、キャラクターたちが(それこそビックリマンシールのような、いやもっと柔らかくて可愛い感じの)不可思議な造形だから、すべてのページに愛着が湧く。

その上で、ベルリンの人々の文化や生活観が描かれているから、知識欲もくすぐられる。

何より、僕が毎度感動するのは、さほど大事ではなさそうなシーンに、ベルリンの人々の「当たり前の風景」が描かれていることである。

それは、電車から車椅子のひとが降りるときにドアを抑えてあげていたり、荷物を運ぶだれかに「手伝いましょうか」と自然に尋ねていることだったり、軽く交わした挨拶ひとつひとつもそう。

これは、自分にストレスがかからない範囲で、誰かのストレスを軽減しようという優しさ。

普段、電車や道端で同じような境遇になったとき、そのひとに声を掛ける自分をシミュレーションしながら、いつの間にか機を逸している僕としては、勇気が湧いてくる光景でもある。

でも決して押し付けがましくなくて、そういうバランス感覚でいたいよね、というポイントをいちいち突いてくるのが心地いいし、仲間を見つけたようで安心してしまう。

自分も優しくしたいし、優しくされたい。

僕はこの作品を読んで、ベルリンという街に並並ならぬ魅力を感じたが、おそらくベルリンに本気で移住しようとまでは思っていない。

ただ、世界にはこういう考えのひともいて、しかもそれが自分を幸せにするためにいちばん大切なことなのではないか、と思わせてくれるのがちょうどいい。

日本だったらどういうやり方ができるかな、と考えられるし。

それは「よそはよそ」とは違うレイヤーにある、みんな違うのは当たり前で、その上で繋がっている感覚だ。

「他人の理想や考えを理解したり、邪魔せずに生きてたいな」

これは作中の香山さんのセリフである。

僕も、あのひとが何考えてるかじっくり聞いてみよう、そして僕が何考えてるか聞いてもらおう、それでいて、それぞれやってこう。

思うように動けなかった2020年に、ひととの関わりだけは大切にしようと、再認識させてくれた作品でした。

恥ずかしながら、昔は漫画にお金を払うことができず、ホームページでばかり読ませてもらっていたので、これから買えるものは買って、香山さんの製作が永いこと続いてくれるよう応援しようと思います。
試し読みはこちら

THE BEST OF 2020

PROFILE

THE BEST COMICS OF 2020|玉置 周啓(MONO NO AWARE) - 『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』/香山哲 music201102_mononoaware_2-1440x960

MONO NO AWARE

東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順は、大学で竹田綾子、柳澤豊に出会った。

その結果、ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠に囚われない自由な音を奏でるのだった。

FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”から、翌年のメインステージに出演。
2017年3月、1stアルバム『人生、山おり谷おり』を全国リリースし、数々のフェスに出演するなど次世代バンドとして注目を集める。
2019年10月16日、NHKみんなのうたへの書き下ろし曲「かむかもしかもにどもかも!」、『沈没家族 劇場版』主題歌「A・I・A・O・U」を収録した3rd Album『かけがえのないもの』をリリース。
2020年9月には劇場アニメ『海辺のエトランゼ』の主題歌「ゾッコン」を配信リリース。

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EVENT INFORMATION

MONO NO AWARE TOUR 2021

名古屋JAMMIN’
2021年1月14日(木) OPEN 18:30 / START 19:00
心斎橋Music Club JANUS
2021年1月15日(金) OPEN 18:30 / START 19:00
渋谷TSUTAYA O-EAST
2021年1月22日(金) OPEN 18:30 / START 19:30

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