手紙の交換が始まった当初、ロリは『パラダイス・ロスト』の公開によって多くの人々がダミアンの存在を知り、裁判の不当性に気づき始めている事を伝えた。獄中のダミアンはロリからの手紙を通して知る一筋の光に一喜一憂した。そして手紙のやりとりの中で、信頼関係を築いていった2人は次第にお互いを語り合い、惹かれ合っていく事となった。刑務所の中と外の世界ではあったが、2人は時間を合わせて同じ映画を観たり、同じ本を読んだり、そして手紙を通して交流を深めていった。そして最初の手紙から1年後、ロリはある大きな決断をした。ダミアンとの面会の数を増やす為、働いていた建築会社を辞め、ダミアンが収監されているアーカンソー州へと引っ越す事に決めたのだ。

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アーカンソー州に移った頃のロリ・デイヴィス(Photo:Grove Pashley)

アーカンソー州に移ったロリの生活はより一層ダミアン中心の生活となっていった。新しく見つけた仕事の給料は以前と比べると4分の1となったが、ロリにとって毎週金曜日に3時間だけ会えるダミアンとの面会時間は何ものにも代え難かった。そして週末の面会を始めてから2年半後の1999年12月、ついに2人は獄中結婚を決意する事となったのだ。近親者のみで行われた獄中での結婚式で2人は始めてお互いの手を触れ合う事となった。この時点ですでに6年間の獄中生活を過ごしているダミアンはロリに初めて触れた時、発汗し、手は震えていたという。

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刑務所内で行われた結婚式(Photo:Grove Pashley)

ダミアンとの結婚後、妻となったロリはダミアンを含む3人の釈放を求める支援運動を精力的に続けた。その運動にはロックバンドのパールジャムや俳優のジョニー・デップも参加、3人の釈放を求めるムーブメントは全米に拡大していった。そして2007年に行われたDNA分析の結果、被害者の1人が縛られた靴紐に付着していた体毛がまったく別人の物と判明。このDNA分析は事実上、ダミアン含む3人の無実を証明する形となったのだ。そして再審が可能か否かを決定するための公判が行われることが決まった矢先、3人は突然釈放されたのだ。3人は無罪を主張しつつ有罪を認める「Alford Plea」と呼ばれる司法取引に応じたのだ。再び裁判で争えば無罪を勝ち取れたかもしれない状況でありながら司法取引に応じた理由には、死刑執行が迫っていたダミアンを救うという事情があったのだ。死刑を回避するために応じたこの司法取引には州当局を訴えないという条項があったとされている。

West Memphis Three Are Free

釈放を伝えるニュース映像

18年間に渡って獄中生活を余儀なくされたダミアン・エコールズは現在、妻のロリと共にニューヨークで暮らしている。しかし自由を手にしたダミアンだが記録上は有罪のままのため、2人はドキュメンタリー映画の制作や執筆活動などを通して事件の不当性を訴え続けている。ウエストメンフィスの3人の戦いはまだ終わっていないのだ。

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ダミアン・エコールズ 今年8月ブルックリンのバーにて

映画『デビルズ・ノット』予告編

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今年6月に出版された2人の15年間に及ぶ手紙のやり取りが収録された著書
「Yours for Eternity: A Love Story on Death Row」

デビルズ・ノット

11.14(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
監督:アトム・エゴヤン
製作:エリザベス・フォウラー、リチャード・サパースタイン、クラーク・ピーターソン、クリストファー・ウッドロウ
キャスト:コリン・ファース(ロン・ラックス)、リース・ウィザースプーン(パム・ホッブス)、デイン・デハーン(クリス・モーガン)、アレッサンドロ・ニボラ(テリー・ホッブス)、ブルース・グリーンウッド(バーネット判事)
原題:Devil’s Knot/製作年:2013年/製作国:アメリカ
配給:キノフィルムズ/上映時間 114分/映倫区分 PG12