第121回 LIGHTS, CAMERA, ACTION

カメラマンになるために上京して3年。僕はまだアシスタントにしかなれていない。事務所の先輩の重い荷物を運び、セッティングを済ませ、光の調節をする。斬新な構図なんていらない。相手先が求めるのは、どこの誰が見ても違和感のない写真。それを熟知したカメラマンが期待通りの写真を撮る。今日も朝から女性ダンスグループの撮影だ。手足が細く見えるように、そして可愛らしい笑顔がうまく撮れればそれで終了だろう。誰にでも出来る仕事だ。

高校の時、全国写真コンテストで最優秀賞を受賞したのがきっかけで僕はカメラマンを目指した。もらった賞金で世界中から写真集を買いあさり、僕もすぐにこんな写真集を出せるんだって信じて疑わなかった。でも現実は違う。水着に着替えている彼女達を、腕時計を見ながら更衣室の前で待っているのが現実だ。ようやく出て来た彼女達を一目見て、僕はすぐに目を逸らした。その中に同級生のナナミがいたからだ。

僕はカメラを、ナナミはダンスを本格的に勉強するために、僕たちは田舎から同じ時期に上京してきた。最近はあまり連絡も来なくなっていたから、もうダンスは諦めたのかなって勝手に思っていたけど。僕は先輩に言われるまま彼女達に光をあてた。ダンスを続けているナナミの身体はとても綺麗で、ポージング、そしてカメラのレンズを見つめる艶っぽい視線も堂々としている。ただのタレント希望の女の子なんかじゃない。彼女はもうれっきとしたプロになっていた。シャッター音が響く中、僕は彼女が眩しくて仕方がなかった。きっとそれは逆光のせいではない。帰ったらすぐにカメラを構えよう。とにかく写真を撮るんだ。誰のためでもなく。