第185回 相談する犬

「ねえ。ねえってば」買ったばかりのお弁当を食べようとしていた僕に声をかけたのは、前の座席に座るワンコだった。とても小さなささやき声で「少し話を聞いてくれない?」と言う。どこか追い詰められたような表情が気になって、僕は弁当をビニール袋に戻しながら頷いた。「なんだか飼い主の様子が変なの。あんなにいつも私に話しかけてくれたのに、最近はずっと黙ったまま。仕事にも行かないで沢山お酒を飲んで寝ちゃうし。今も好きじゃないビールを飲んで隣で寝てる。そのくせ夜中に起きて泣いたりするんだ」

そう言われて、何気なく前の席を覗くと女性は喪服を着ていた。大事な人を亡くしたに違いない。朝まで泣いていたのだろう、まぶたが腫れているのがわかる。閉じた目元には今もうっすら涙の跡があった。僕はワンコに向き直り、彼女は心から悲しんでるんだよ、もう2度と会えなくなってしまった人を何度も思い出してる、だから泣いているんだ、でもきっとしばらくしたら元気になるよ、心配しないで、と言った。「そうだったんだ、、」とワンコはうつむいた。

「誰と話してるの?」僕達の声を聞いて彼女が起きたようだ。僕はワンコに「頑張って」と目で合図をした。「どうしたの? そんなにしょんぼりした顔して。ちょっともう、顔をそんなに舐めないで、化粧が崩れるから。変な子ね」そんな会話が聞こえてきて僕は安心して弁当を食べ始めた。ワンコが好きそうなミートボールを弁当箱の隅に残しながら。

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