第196回 君の残響

写真から音楽を作ってくれる人がいるという。早速僕はアルバムの中から特に好きな写真をいくつかと、妻と僕が大ファンだったジェイムスブラウンの写真を持ち出し、とある音楽スタジオに向かった。僕を残してこの世からいなくなってしまった妻との最後の思い出を作るために。古いアパートの一室を改築しただけの質素なスタジオの看板には「YOURS」とだけ書かれている。笑顔で出迎えてくれたのはアラブ系の若者だった。

彼は受け取った写真を何も言わずに眺め続けている。そしてピアノの前に座った。ああ良かった、と僕は胸をなでおろした。何か聞かれたらすぐにでも泣き出してしまいそうだったから。僕の方を見て軽く頷き、彼はピアノを弾き始めた。僕たち夫婦が出会ったあの時のように、静かで柔らかな音楽が流れ始める。

ピアノが上手だった彼女はどんな顔でこの演奏を聞いているだろうか。「こんな古い写真どこにあったの?」と驚いてるかな。「なんでこんな時にジェイムスブラウン持ってくるのよ」と笑ったのは間違いない。でも悲しい旋律は聴きたくなかったんだよ。わかって欲しい。演奏が終わると彼も泣いていた。まだ部屋に残響が残っている。「あなたは死なないで」と彼は小さく呟いた。

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photo by normaratani