第76回 四季を運ぶ

「もう今年の夏は満喫したかね」公園のベンチでランチをしていた私に突然話しかけて来たのは、真夏にも関わらず厚手のスーツを着こなした初老の紳士だった。私がポカンとしている間に、老人は颯爽とした振る舞いで隣に座ってしまった。この強い日差しの中、特に暑がる様子もなく涼しい笑顔を私に向けて答えを待っている。どうせ携帯でも見て昼休憩の残り時間を過ごすだけだったし、私はこの老人に少し付き合うことにした。

「先週は海に行って、今週末はみんなと花火を観に行きます。でもさすがにここまで真夏日が続くとバテちゃいますね」老人はそれを聞いて大きく頷き「そうですか、ではやはりそろそろですね」と呟いた。私はその返答が気になった。私が夏休み中では無いことは見た目ですぐに分かる。そろそろとは一体なんだろう。既に立ち上がってどこかに行こうとしている老人に「そろそろってどういうことですか?」と思い切って聞いてみた。すると老人は半分だけ振り返ってこう言った。

「今、私は秋を運んでいるんです。日本は四季があるから絶妙なタイミングを探さないといけない。特に夏から秋は様々な感情が入り乱れていて毎年悩むんですよ。でもあなたの言う通り、そろそろだと感じています」そのまま老人は階段を登っていった。変な人だったなあ、と彼を何となく眺めていたら、大きな樹の横を老人が通り過ぎた瞬間、その樹に付いていた全ての葉の色が一瞬にして真っ赤に紅葉した。私は驚いて思わず、あ!と声を上げると、老人は前を向いたままハットを少し上げて「さよなら」をした。四季がこうやって運ばれて来るなんて。たった今秋が始まったんだ。とても静かに。

写真提供:Natsuyu Fujioka

ショートストーリーの写真募集!!

毎週水曜日更新のUHNELLYS・Kimのショートストーリー。写真の情景からKimがイマジネーションを膨らませ、新たなる物語が生まれているこのコーナーで、次のテーマとなる写真はあなたの思い出の1枚ーーというのはいかがでしょうか?

現在、Kimのショートストーリーでは読者から写真を募集!! 送っていただいた写真から予想だにしない新たなる物語が生まれるかもしれません。たくさんのご応募、お待ちしております!

メールでの応募方法

以下のメールアドレスに、件名を「ショートストーリー写真」とし、下記を明記した上、写真データを添付してお送りください。

1)写真撮影者クレジット:
2)メールアドレス:

メールアドレス:uhnellys@yahoo.co.jp

※掲載時、撮影者のクレジットを入れさせていただきます。
※写真はご自身で撮影されたもの、もしくは掲載許可を得ているもののみ応募可能です。
※著作権の許可を得たものとして掲載させていただきます。