第24回 大人の階段

ちゃんに駄々をこねて、街のお祭りに連れて行ってもらった。もう8歳だからパパやママと一緒に行くのも照れくさかったし、姉ちゃんの友達は帽子から靴の先まで真っ黒けで、なんかかっこ良かったから一緒に歩きたかったのだ。僕も、持っている服の中で一番クールな「ドクロ」のスウェットを選んだ。ちょっと特別な時にしか着ないやつだから、姉ちゃんも知らないはずだ。

姉ちゃんの友達は今日も相変わらず真っ黒だった。僕が一緒に付いて来る事を聞いても視線をこちらに向けたりしない。そんな奴だ。僕は無視されながらも、拒否されなかった事に内心喜んでいた。

外に出ると、いつもとは違う匂いが充満している。屋台で焼かれている肉の匂い、走り回る若者の匂い、いつもより化粧の濃い近所のおばさん達の匂い。そんな匂いが混ざり合って子供の僕を十分に興奮させる。姉ちゃんと奴の後ろをはぐれないように付いて行くのが必死だったけど、いつもは通らない路地や、怖そうな大人達の間をくぐり抜けるのがとても新鮮だった。

そして、国旗の色に顔をペイントした酔っぱらいの集団とすれ違った時、姉ちゃんが何かを思いついた。「ねえ、あんたの顔にも何か描いてあげようか?」僕は嬉しくて、すぐにやって欲しいと言った。もし同級生に遭遇したら自慢出来るからだ。「何を描いたら良いかな?」僕は初めて姉ちゃんの友達に話しかけた。どうして奴に聞いたか自分でも分からない、まだ一言も会話してなかったからかもしれない。すると奴は僕の事を見ないまま姉ちゃんに向かって「蜘蛛でも描いてやれよ」と言った。僕は最高にクールだと思った。なんでこいつはそんなクールな事思いつくんだろうって。

姉ちゃんが僕の顔に蜘蛛を描いている間、奴はタバコを吸って時間を潰していた。一瞬、タバコをくわえた奴の横顔に見とれてる自分に驚く。そんな気持ちを打ち消すように「姉ちゃんもタバコを吸うの?」と聞くと、姉ちゃんは奴を見上げて静かに微笑む。そんな2人にそれ以上の事は聞かなかった。どうしてって、僕はもうそんなガキじゃないんだから。