画監督であるチャーリー・エーハンと、元グラフィティライターであり本作の重要キャラクターの一人、フェイド役としても出演しているファブ・ファイブ・フレディの二人によって’80年頃に企画が立ち上げられ、ブロンクスを中心に撮影が行なわれた史上初のヒップホップムービー『ワイルド・スタイル』。まだ“ヒップホップ”というカルチャーの存在が世に知られる前に製作、そして上映されたこの作品の価値及び与えた影響の大きさは計り知れない。このコラムでは、その“価値”と“影響”を「今ワイルド・スタイルを観るべき3つのワケ」として紐解きます。

目次:
1.ヒップホップ黎明期を記録した貴重な資料であること
2.この作品によってヒップホップ4大要素が定義されたこと
3.ヒップホップを世界に知らしめた作品であるということ
●各著名人達による『ワイルド・スタイル』レコメン コメント

1.ヒップホップ黎明期を記録した貴重な資料であること

’70年代半ばにサウス・ブロンクスにて誕生した“ヒップホップ”というカルチャーだが、その初期の形を作り上げた本物のラッパー、DJ、ダンサー(=Bボーイ)、そしてグラフィティライターが『ワイルド・スタイル』には多数出演している。主役のレイモンド/ゾロ役を務めたリー・キュノネス以外にもゼファー、ドンディ、クラッシュといった伝説的なグラフィティライターが手がけたピースが風景の一部や時に作品のアートワークとしても登場。さらにクラブでマイクを握るビジー・ビーとそこでブレイクダンスを披露するロック・ステディ・クルーの面々、バスケットボール・コートでのコールド・クラッシュ・ブラザーズとファンタスティック・フリークスの対決シーン、自宅キッチンでDJプレイをするグランド・マスター・フラッシュなど、’80年代初期の生々しいブロンクスの空気感の中で動く彼らの姿を観られることは、歴史的記録物としても非常に重要な意味を持つ。

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