──シンガー以外にも、今作には多くの気鋭ミュージシャンが参加していますね。特に2曲で名を連ねているテイラー・マクファーリンは、いちミュージシャンとしてもサンダーキャットやフライング・ロータスと共演/共作し、リーダー作品でも高い評価を受けているアーティストです。彼との作業はどういう経緯で行われたのですか?

彼とは、前にニューヨークのブルーノートでロバート・グラスパーと一緒にライブをしたことがあって、その時に仲良くなったんだ。たまたまツアーでLAにいた時に、2日くらい空きができたから連絡したら、彼もLAにいて、自宅に機材が全部あるっていうから行って一緒にレコーディングした。“エクリプス”はすでにドラム以外のパートに関しては俺が全部作っていたから、「これにドラム欲しいんだけど、どう?」って言って。そしたら、その場で彼が手打ちでドラムを打ち込んでくれたんだ。彼のリズムはちょっと浅めのところですごい気持ちよく響くような組み立てになっていて、それが本当に綺麗にハマったよ。

──もう一曲の“ミッシング・ワンズ”も同じ日に作ったんですか?

“ミッシング・ワンズ”は、その場でゼロから何かやろうぜっていうことで作った。彼が元々持ってたマーカス・ギルモアのドラム・ループを流しながら、彼が作ったシンセのフレーズを俺が弾いて、そこで思いついたアイデアを入れながら流し録りして音を重ねて、それを彼が後でチョップしてエディットして出来ていった。全部合わせて4・5時間くらいかな。“ミッシング・ワンズ”については、完全に共作という形になるね。

──今作の制作を進める上で、目指していたイメージというのはどういったものでしたか?

自分の好きなものに対して妥協しないっていうのだけは、最初から決めていたことだね。俺はトラップとかも好きなんだけど、ああいう音圧と同じレベルで、聴いても全く遜色のないものが作りたかった。例えば4曲目の“バーント・ン・ターント”とかは、ミキシング前のつくりかけの段階でエイサップ・ファーグの曲と交互に聴き比べたりして、インパクトを出すには何を足せばいいかを考えたりした。前作の『グリーク・ファイア』は生演奏ありきの作品だったけど、今回はそうじゃなくて、プロダクションで時間をかけるからこそ出来る音作りを妥協せずにやった。

──具体的にインスピレーションを受けたアーティストや作品というのはありましたか?

特定の一つ、というのはないかな。ただ、もちろん普段からいろんな音楽を聴いて常に刺激を受けているから、そういうものが制作途中でヒントになることはある。今回一緒にやったルーベン・ケイナーはUKのアンダーグラウンドなエレクトロとかがすごく好きな人で、有名所だとジェイミー・xxとか、もっと深いエレクトロニック・ミュージックもよく聴いてた。あと、ジェイムス・ブレイクが出てきた時はすごい衝撃的だったし、レディオヘッドの『キッドA』で、声のように聴こえるシンセの音とかも凄いと思った。最近聴いたものだと、シカゴ出身のスミノっていうラッパー/シンガーの作品がカッコ良かった。そういったものが全部混ざりながら同時進行していった、という感じだった。

──それがボーダーレスな作品性に繋がっているわけですね。

あとは、今回は人の声によりフォーカスするようにした。人間の耳って、どんなに他の音が鳴っていても、人の声が聞こえるとそこにフォーカスがいくようになっていると思うんだよね。歌やラップだけじゃなく、サンプルであってもそこが一番のフォーカス・ポイントになる。今回は生演奏に縛られず、スタジオ・ワークにこだわって作ったから、そういった声のサンプリングとか歌を多く使っている。

──タイトルにもなっている「ケイローン」というのはケンタウロスの名前ですが、このタイトルにはどういった由来があるんですか?

元々ケンタウロスにちなんだタイトルを考えてたんだよ。例えば、今はもうスマートフォンが脳の外付けハードドライブのようになっている。それが腕時計になり、眼鏡になり、近い将来には、直接埋め込むようなシステムになっていくと思う。それがSiriのようなAIになって、脳のエクスパンションとして機能していく。不具合を補ったり能力を向上させるために、テクノロジーを体の中に有機的に取り入れる時代が何十年か先には確実に来ると思うんだよね。

でも、一方でAIに関しては、悪魔を召喚しているのか、神を作っているのかというような議論もある。シンギュラリティに達したときに、AIは人間をどのように認識するのか。排除するべき存在なのか、共存するべき存在なのか。そういった状況をシンボリックに表現するのに、半人半獣のケンタウロスがいいなと思ったんだ。

──なるほど。ケンタウロスの中でもケイローンという名前を選んだのは何故ですか?

ケンタウロスっていうのは酒飲みで乱暴なイメージなんだけど、その中でケイローンというのはとても理性的で賢い存在で、指導者的な役割も担っていた。人間がテクノロジーと融合していく未来が、人間にとって良いものであるように、という願いを込めて『リーチング・フォー・ケイローン』=ケイローンになれればいいね、と付けたんだよ。それはテクノロジーだけじゃなくて社会的な状況にも通じる話で、今は宗教とか人種とか、自分のカルチャーとは異なるバックグラウンドを持つ人達が狭い世界の中で隣り合っている。それがうまく共存して、より良いものになっていければいいと思う。

──その願いは、様々な音楽の影響がボーダーレスに混じり合った音楽性そのものにも表れていると思います。

本当に新しいもの、今までに存在すらしなかったようなものっていうのは、もう今の時代にはないんじゃないかと思う。これからは、昔のものを再発見して再構築して、他のものも取り込んでリミックスしていって、結果的にそれが新しいものになっていく。そういう意識だね。

──ただ、情報が並列化した時代だからこそ、自分の生活の範囲外にある物事にアクセスしづらい、入っていきづらい状況にもなっていると思います。興味が出たとしても、情報が溢れすぎていて、どこから手を付ければいいか分からない、というような。最後に、そういった人に向けて、自分の世界を広げるためのアドバイスを頂けますか?

今は、水平線上に全ての情報が横並びに並んでいるような状況で、全ての情報にすぐにアクセスできる。だから、何でも聴いたらいいとも言えるし、一方で何から始めたらいいか分からなくもなる。そういう時には、今自分が好きなアーティストを起点にして、その人のインフルエンスや好きなものを掘り下げていったらいいんじゃないかな。ジャズに限らず、アート全般には脈々と続く歴史がある。

例えば、ジェイムス・ブレイクはゴスペルにすごく影響を受けているから、ジェイムス・ブレイクが好きなら昔のゴスペルも聴いてみて、その共通点を探してみるのも面白い。他にも、ハービー・ハンコックからウィントン・ケリー、とか。最初は感覚的にカッコ良いと思うものから始めて、そこから掘っていけば、世界はどんどん広がっていくと思うよ。

BIGYUKI – New Album Teaser

RELEASE INFORMATION

リーチング・フォー・ケイローン

【インタビュー】オノ・ヨーコを超える快挙も。BIGYUKI ロバート・グラスパー、Qティップから賞賛される男の見る世界 interview_bigyuki_1-700x700
2017.11.01(水)
BIGYUKI
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text & interview by 青山晃大