2014年10月。音楽をやるつもりなんてまったくなかった友達同士のRachelMamikoは、ひょんなことから人前でラップを披露することになった。知り合いにリリックを書いてもらい、ギャグのつもりでやったこと。しかしそれが思いのほか話題に。

周囲の反応に気をよくした二人は、しばらくしてオリジナルのリリックを書くことにも目覚め、2015年春頃からchelmicoとして本格的な活動が始まる。そのキュートでナチュラル且つエッジもパンチも効いたキャラクターがキャッチーなメロディーとフロウになって、都内を中心に、さまざまなスタイルのライブハウスやクラブのフロアを席巻。そして、2018年に入ってメジャーデビューを発表し、2枚目のアルバム『POWER』をリリースすることになった。

今回は、二人のここまでの歩みに関わった仲間や、影響を受けたミュージシャンなど、その音楽性やパフォーマンス・センスを形成するうえで欠かせない「人」を紹介してもらうことで、アルバムの特徴やメジャーレーベルに所属することを選んだ理由に迫った。“ただの友達同士”が東京のシティー・カルチャーに育てられ、今まさにお茶の間に飛び出そうとする瞬間をとらえたファミリー・ツリーをお楽しみあれ。

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Interview:chelmico(Rachel、Mamiko)

——今回はchelmicoに関わる方々や、お二人が影響を受けたアーティストの話をお伺いして、その音楽性や、ご出身である東京カルチャーの魅力に迫るという企画です。まずは、お二人の互いの印象を教えてください。

Mamiko いいヤツ!

Rachel そうだね。今も昔も一貫していいヤツ。

Mamiko Rachelは、行動力があって引っ張っていく力が強い。

Rachel Mamiちゃんは冷静だよね。私は思いついたらなんでも言うしやろうとするんで、それに対して「そっちの道は危ないよ」って、諭してくれるというか。

——ぶつかることはないんですか?

Mamiko すごく冷静に「やめとこう」って言うこともあるんですけど、ぶつかりはしないですね。Rachelのアイデアがどんどん溢れてくる感じはおもしろいですし。

Rachel Mamiちゃんがダメなら別のアイデアもあるし、って感じ。いつもMamiちゃんが正しいと思ってるんで、喧嘩はしないですね。好きだよ。

Mamiko 私も好き、ってなに言ってんだ(笑)。

——普段もよく一緒にいるんですか?

Rachel 飲みにも旅行にも行きますし、なんてことないLINEもするし、友達だもんね。

——まさに友達だからこの先、劇的に「chelmico解散します」みたいな姿が想像できないんです。辞める辞めないっていう、グループ的な感覚じゃない。

Mamiko ほんと、おっしゃる通りですね。

Rachel 友達に“chelmico”っていうチーム名が付いてる、みたいな感覚。でも、それだけにめちゃめちゃすごい大喧嘩したらなくなるかもしれないですけどね(笑)。

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——友達付き合いはいつ頃から始まったんですか?

Rachel 私が19歳でMamiちゃんが16歳の時だから、6年目です。

——当時から、音楽は共有してましたか?

Mamiko RIP SLYME(リップスライム)が好きってこと以外、そこは基本的にバラバラでした。あ、新宿Red Clothの日本マドンナ観に行かなかったっけ? 

Rachel あれ? 私は日本マドンナが大好きで何回も行ってたから、覚えてないんだけど……。あ! 行ったね。1回だけ一緒に。

——それぞれ、日本マドンナ以外で、よくライブを観に行ったアーティストは誰ですか?

Rachel 私はとにかく日本マドンナ。特にRed Clothが多かったです。その頃他によく出ていたのは、挫・人間とかOKAMOTO’Sとか。

Mamiko 私は誰が好きとかっていうより、友達のバンドをよく観に行ってました。

——そこで、お二人ともバンドをやりたいとは思ったことはなかった。

Rachel はい。そもそもchelmicoも、知り合いに「なんか出しものやって」って言われて、そのステージがもう2週間後とかで、Mamiちゃんを誘ってラップしたのが結成のきっかけなんです。

——その短期間で曲やリリックはどうやって用意したんですか?

Mamiko Rachelの友達にGOMESSっていうラッパーがいて、リリックを書いてもらいました。

Rachel トラックはGOMESSと同じ〈LO HIGH WHO?〉のDJ6月さんが作ってくれました。封印した幻の1曲で、どんな感じでラップしてたんだろう? でも、ぜんぜん緊張しなかったことは覚えてます。どうせ誰も観てないだろうし、ギャグのつもりでやってたんで。

Mamiko でもはまっちゃったね(笑)。反響がけっこうあって、ライブのオファーをもらって出てみたらそこでまた誘われて、どんどん広がっていきました。

Rachel そこで欲が出てきて、最初のGOMESSくんに作ってもらったリリックは自分の言葉じゃないし、書いてもらっといて納得がいかない、って偉そうなことを思い。

Mamiko で、試しにトラックを誰かにもらって、オリジナルのリリックでラップしようって、それもGOMESSの友達のペイジ(ヒイラギペイジ)くんに頼みました。

——GOMESSさん、DJ6月さん、ペイジさんと最初に関わって、そこからどういう過程を経て、今のchelmicoができていったのでしょうか?

Rachel 転機になった人って、今ぱっと思い浮かべただけでも、いっぱいいるんです。よし、細かく言っていこうぜ。

Mamiko 今までで一番細かく言おう。まず最初にGOMESS。そこから繋がったヒイラギペイジくんは最初のシングル『ラビリンス’97』のトラックメイカー。この曲は、それより前から知ってた、栗原ゆうさんっていうシンガーソングライターの人がいて、「ラップやってるんだったら企画に出てよ」って誘ってくれて、そこに向けて出来た曲です。で、それを知った恵比寿BATICAの斉藤さんが「ウチでもやってよ」って誘ってくれて、その次にはもう「今度は主催でパーティしない?」って。

Rachel そう。『ラビリンス’97』が出来てから、斉藤さんに自主企画を提案してもらうまでの間が、とにかく早かった。2015年の5月から7月だったかな? ほんの2カ月くらい

chelmico/チェルミコ – 「ラビリンス’97」

——そして同年9月に開催したのが<白ギャル祭り>ということですね。

Mamiko 私たちラップのことなんて何も知らないし、誰に出てもらうか、斉藤さんに候補を出してもらったんです。その中から、パブリック娘。、Enjoy Music Club、ZOMBIE-CHANGとか、いろんな人たちに出てもらいました。そこで、パブリック娘。の斉藤達也が、とにかくいろんな人を紹介してくれたんです。

Rachel いまトラックを提供してくれてるRyo Takahashiとか、バックDJの%Cもそうだし。

Mamiko で、当時Enjoy Music Clubの担当だった、〈ULTRA-VYBE, INC.〉の神保さんが、CD出そうって言ってくれて。

Rachel 天狗になった(笑)。「ウチら売れたわ」って、超見切り発車。

Mamiko でも嬉しいことに、そこからさらにどんどん広がっていって、もう言い切れないよね。

Rachel あ、別のラインで大倉くん(大倉 龍司)も大きいよね。chelmicoのアートワークをやってくれてるんです。今回のアルバム『POWER』のジャケットもそう。もともと私がsuzzkenくんっていう映像を作ってる人を、テレビかなんかで観て、「この人いいね。Mamiちゃんと同い年だよ」って、二人で一緒にTwitterのアカウントをフォローしたら、返してくれたのが最初の出会い。

Mamiko で、suzzken のTumblerから大倉くんにも飛べて、そしたら、コイツのセンスが凄かった。写真もうまいしデザインもカッコいいし。suzzkenと大倉くんは、美大を目指して同じ予備校に通っていて、私も同じ状況だったから、二人は受かって私は失敗したんですけど。そういうこともあって仲良くなって。

Rachel 4人で会うようにもなって、その頃から、グッズを出すこととかがあったら、絶対に大倉くんにお願いしようって、Mamiちゃんと話してました。

Mamiko あとは北岡さんだね。私の友達で、chelmicoのアー写とかを撮ってくれる人。ここまででやっと、初期メンバーの説明が終わった感じ。それでも足りない部分もあるかも。

Rachel 超DIYないいチームだよね。

Mamiko で、斉藤達也があちこちで「chelmicoいいよ」い言ってくれて、TOKYO HEALTH CLUBとかJABBA DA FOOTBALL CLUBとも仲良くなれて、ジャバのノルオブくんも「chelmicoまじやべえっ」って、毎月主宰してたライブに呼んでくれて輪が広がっていったんです。イベントだと<ピスタチオスタジオ>も大きかったな。そうやって、ひとつのラップシーンみたいなものが出来ていってる感触がありました。

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——では次に、曲を作るうえで影響を受けたアーティストについて訊かせてください。お二人とも、chelmicoを結成するずいぶん前からRIP SLYMEが好きだったと公言なさっていますが、自ら表現の場に立つようになって感じたRIP SLYMEの凄さとなると、なんでしょう。

Rachel あり過ぎます。ラップがうまい、でも「うまい!」っていう感じではなくて、すんなり馴染んでくるんですよ。聴きやすい。ワードセンスも抜群、すげえ曲いっぱいかける。いろんなジャンルに挑戦してる姿勢、決め打ちのタイアップとかになると、「もう筋トレは済んでるんで、きたら打ちまっせ」くらいにバッチリはめてくるところ。

——“ラップがうまい”って、どういうことですか?

Rachel 要素がありすぎて、言葉にするのは難しいなあ。どうだろう。Mamiちゃんは5lack.が好きだよね。なんで?

Mamiko 凄く好き。でもなんでかと言うと……。グルーヴですかね。そもそもラップをそんなに聴いてきてなくて、歌のほうがたくさん触れてきたから。Rachelが好きなラッパーは?

Rachel 最近Topaz Jones(トーパス・ジョーンズ)とか聴いてる。Goldlink(ゴールドリンク)も昔から好き。早口言葉も好きだから、Flo Rida(フロー・ライダー)とかすげえなって思っちゃう。でも私もMamiちゃんと一緒で、ラップ自体そんなに聴かないんですよね。

——では、お二人は“ラッパー”ですか?

Rachel はい。やっぱり“ラッパー”ですね。もともと「ラッパーっていう職業あまりなくね?」って、じゃあ名乗ってみたいみたいなノリで始めたし。

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——曲はいろいろと話し合って作ると思うんですけと、リファレンスとして大きなものとなると、なんでしょう。

Rachel トラックに関して言うと、「こういうのやりたいって」のがあっても、トラックメイカーから、その通りのものってほとんど返ってこないんですよね。リファレンスでいちばん多いのは、やっぱりRIP SLYMEなんですけど、そういう曲もないし。じゃあどう乗りこなそうって、そこがおもしろいんです。

Mamiko そこでchelmicoになれるからいいよね。楽しい。

——今回のアルバム『POWER』はアフロやラテンなど、ワールドワイドなテイストの色合いが強くなったことが特徴になっています。RIP SLYMEからの影響なのか、夏っぽさを演出したのか、たまたまそうなったのか、もしくは海外のポップ音楽において、そういった要素が今とりわけ注目されている状況に触発されてのことなのか。どうでしょう。

Rachel そっち系ビートはryoくん(ryo takahashi)の曲が多いんですけど、彼の気分かな。今なにが流行ってるかとか、そういうことにも敏感な人だし。今までそういう曲もなかったからやりたいねっていう話もあったし、夏に出るからっていうのも感覚的にあったと思います。

——トラックメイカーの個性とお二人のマッチングに注目して聴いても、とてもおもしろい作品だと思いました。ESME MORIさんは、レトロな時代感と今を繋ぐ表現力が凄い。ノスタルジックの塩梅が絶妙で、“OK, Cheers!”はそこにハマ・オカモトさんの生ベース。

Rachel たまらないですよね。

chelmico – OK, Cheers! 

——サビの最後《笑っていようぜ》のメロディーがほかのパートと比べると異質なぶん、抜けの良さが強調されていて気持ちいい。

Rachel これは結婚ソングなんです。1回聴いただけで「明るい」って思えるように、モリジュン(ESME MORI)とMamiちゃんと話し合ってあがってきたトラックです。

——メロディーは誰が付けるんですか?

Rachel メロディーはいろんなパターンがあって、曲によるんです。“OK, Cheers!”は部分的に私が付けたところはあるんですけど、モリジュンの曲はだいたい彼が一人でやります。モリジュンが作ってない曲でも、メロディーだけは彼が付けたものもありますし、めっちゃセンスあるんですよ。“笑っていようぜ”のところは、もともと全体的に違うメロディーの流れで、ちょっと納得いかなくて、全部取ろうかという話もあったんですけど、そこだけは残すことになりました。

——“デート”はそうとうチャレンジしましたよね。タブラ奏者のU-Zhaan(ユザーン)との曲。ポップスからアプローチした民族楽器の魅力というよりは、民族楽器の魅力をより広く届けようというベクトルが強いので、今までの曲とは根本的にグルーヴが異なるぶん、そこにラップを乗せるのは大変だったんじゃないかと。

Rachel 超大変でした。「なにこれ、やったことない。こんな問題教えてもらってない!」って思ってました。

Mamiko U-Zhaanさんのタブラが大好きで、ずっとやりたかったけど、手の届かない存在だと思ってたから、夢が叶いました。確かに難しかったですけど、めちゃくちゃ楽しかったです。

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——トラックメイカーに引き出されるポテンシャル。そうやって成長していけることもまた、醍醐味ですよね。

Rachel ほんとに。過去にはペイジくんに、フューチャー・ベースにラップ乗せることってあまりないからやろうって言われて、そもそもフューチャー・ベースをよく知らないし、当時は好きに慣れなくて嫌だったんですけど、やってみたら難しさがどんどんおもしろさに変わっていって。そういうことが作品を作るごとに毎回起こるから、おもしろいんです。

Mamiko そうやって成長していけるし、『POWER』は、今までchelmicoを知らなかった人たちにもたくさん聴いてもらえるだろうし、嬉しいな。

——たくさんの人たちに聴いてもらえる、というのは今回がメジャーデビュー作ということにも関わってくると思うんですが、インディペンデントのままでもよかったんじゃないですか? 仲間にも恵まれていますし、Rachelさんがおっしゃった「DIY」を凄く楽しんでいるようにも映っていたので。

Rachel ずっとインディペンデントでいいって、そのほうが楽しいって、思ってました。でも、今までもたくさんの人とコミュニケーションを取ることで、いろんなことを吸収してきたんです。だから、そうやって私たちのことを気に掛けてくれた人の話を、メジャーだから耳を傾けないっていう理由はない。実際に、これまでの私たち二人はそんなに計画性なんてなかったんです。目の前のオファーをやるかやらないかってだけ。でも、プロの人たちは、先を見て計画してくれてる。結果、私たちだけでは考えもしなかった楽しい場所に出られたり、すでにめちゃくちゃ楽しい。

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——なるほど。chelmicoの魅力って、エッジの効いたアティチュードとレイドバックしたキャラクターのバランスだと思っていて、その個性を以てシティー・カルチャーの先端をいくなら、それは今までの活動の線上。特にメジャーである必要はないと思うんです。でも、例えば私の田舎の母がchelmicoを聴いてる、みたいな状況を想像すると、そこはメジャーに身を置いたほうがベターだとも思います。

Rachel それ、めっちゃあります。

Mamiko ここまできたら茶の間いくわって。

Rachel あと思ったのが、音楽を聴く人と聴かない人、ここが分断されて二極化してきている気がするんです。だから「もうちょっと適当に聴いてみたら? 音楽って楽しいぜ。」って。既に音楽を好きな人がほとんどの今いるシーンで言っても、なかなか届かない部分もあるじゃないですか。そこもメジャーデビューした大きな理由です。

Mamiko 老若男女、鼻歌うたって揺れてもらえたら。よろしくお願いします!

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RELEASE INFORMATION

POWER

2018.08.08(水)
chelmico
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text & interview by TAISHI IWAMI