東西を隔てる壁は崩壊したものの、まだ無法地帯であった2000年代初期のベルリン。そんな混沌とした時代のユートピアをパワフルに駆け抜けた元祖エレクトロクラッシュ・ガールズ、チックス・オン・スピード(Chicks on Speed。以下、COS)がついに20周年を迎えた。“ヨーロッパのゴミ”、“フェイク・バンド”と名乗り、一世を風靡した彼女たちのパフォーマンスは、ルールに囚われず、DIYかつ自由奔放なスタイルが売り。ミュージック、アート、ファッションとジャンルを超越した活動は、あのカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)やジェレミー・スコット(Jeremy Scott)までも夢中にさせるほど、とにかくリアルでストレートなのだ。

アニバーサリーイヤーを記念し、ベルリンの歴史ある劇場Volksbühne Berlin(フォルクスビューネ・ベルリン)にて20周年記念ライブ<Chicks on Speed. On Speed: Chicks flying for 20 years>が開催された。元メンバーのキキ・ムーアズ、衣装のカティ・グラスをはじめ、歴代コラボレーターたちが続々と参戦。中でも名曲“We Don’t Play Guitars”では、客席からピーチズ(Peaches)のメリル・ニスカー(Merrill Nisker)が大胆にもステージに乱入。現代美術家のダグラス・ゴードン(Douglas Gordon)をギターに見立て、豪快にかき鳴らすシーンに会場が熱気に包まれた。

そんな記念すべき一夜のためにベルリンへ帰還したCOSにインタビューを敢行。ノルウェーでのパフォーマンスを終えてベルリン入りした昼下がり、滞在先近くのカフェで20年の軌跡を振り返った。

Interview:チックス・オン・スピード
(メリッサ・ローガン, アレックス・マーレー・レスリー)

カール・ラガーフェルドが夢中!草間彌生、YMOから影響を受けた、ベルリン発エレクトロクラッシュ・アーティスト!チックス・オン・スピードが語る20年周年インタビュー interview180726_chicks_on_speed_09-1200x800
Photo by Wolf-Dieter Grabner

——20周年おめでとうございます! COSは1997年にドイツ・ミュンヘン美術院で結成されていますが、そもそも2人の出会いとは?

メリッサ・ローガン(以下、メリッサ) 私はアート系でペイント、アレックスはクラフト系でジュエリー・デザイン、実は別々の学科なの。私たちのアートスクールは学科ごとにはっきり分かれていたから、最初はお互いのこと直接知らなくて。でも、当時からアレックスは積極的に活動していて、スクール内に違法バーを運営してたよね。

アレックス・マーレー・レスリー(以下、アレックス) そう、ある日メリッサが花柄ピンクの着物を着て、私のバーに来たのを今でも覚えてるわ。それをきっかけに意気投合して、自然とコラボレーションすることになったの。

メリッサ そのとき付き合っていた日本人の彼氏がプレゼントしてくれた着物ね。彼はミュンヘンでSHINTOっていうバンドをしていたの。日本とドイツをミックスしたカルチュアルマフィアだったわ(笑)。

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“I wanna be a dj baby”(1997年ミュンヘン)
Photo by ©︎Chicks on Speed private collection
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“Electroclash tour”(2001年アメリカ)
Photo by ©︎Chicks on Speed private collection

——2人の出会いに着物や日本が絡んでいたとは驚きです。COSといえば、ミュージック、ファッション、アートとカルチャー要素を全て詰め込んだ活動が魅力ですが、影響を受けたものやモットーはありますか?

メリッサ ギー・ドゥボールを筆頭に生まれた前衛アーティストグループ、シチュアシオニスト・インターナショナル(Situationist International)の影響は大きいわ。シチュエーションによってアートを生み出す……つまりいろんな街へ移動して、その土地ごとにグループを結成していく、まるでゲームのようにね。カフェに行ったり、ナイトクラブへ行ったり、はたまた次の日は公園へ行ったり、ルールに囚われず自由に生活することが大事なの。

アレックス 解放されて自由と感じたときにベストなアイデアが生まれる。歩いているときとかね。

メリッサ それに私たちはパフォーマンスグループ。ファッション、ミュージック、アートといろんなジャンルで表現するわ。ステージでのパフォーマンスにはバンドも楽器もない、たった3人のガール以外何もないの。

アレックス そして彼女たちはとてもパワフル(笑)! でも気付いたの、3人だけじゃステージが大きすぎるって。だからステージを彩るオブジェクトや衣装、ジェスチャーを取り入れたの。既製品にちょっと変で不思議、違和感のあるものを加えてみる、例えばハイヒールをエレキギターに改造しちゃうとか。

——いろんな土地で活動するスタイルとパワフルなパフォーマンスの源はそこにあったんですね。パフォーマンスではいつもオリジナリティ溢れる衣装を纏っていますが、今回の20周年ライブ衣装もスペシャルだとか。

アレックス いつも2人でシルクスクリーンプリントとかコラージュをしてテキスタイルをリメイクしてるの。それをベルリン在住のカティ(元メンバー兼衣装担当、カティ・グラス)が衣装に仕上げてくれる。今回は私がニュージーランド滞在中に見つけたハンティング、フィッシング服がベース。ネオンカラーを基調としたカモフラージュ柄フリース生地なんだけど、現地農家やその子供たちがこぞって着てるまさにニュートレンドなアイテムね。ワイルドでファッショナブルな衣装になるわ。

——20周年を迎えた現在、それぞれサイドプロジェクトをしてるそうですね。

メリッサ ブードゥー・チャネル(Voodoo Chanel)、通称Voochaっていうグループを組んで活動してるわ。ちょうど先日に新曲“Robot Love”のMVと音源がリリースされたところ。あとCOSとしてアーティストのプラットフォームを作ろうと動いているわ。私たちが今までやってきたことを再考して、新しいシステムを作りたいの。

アレックス インディペンデントなアーティストをサポートしていきたいよね。ネオ・サイケデリック、クィア、フェミニスト、サイボーグアーティストとか。私個人では陸上、水中でパフォーマンスできるウェアラブルなハイテクシューズを研究してる。私のインスタグラムで作品を見れるからチェックしてみて。COSのステージでももちろん履くわ。

Chicks on Speed – Text, Vodka & Le Rock’n’Roll

——常に挑戦し続ける姿勢が素敵です。当時ミュンヘンからベルリンへ移ったのはいつ頃ですか?

アレックス 結成して3年後だから、2000年くらいかな。ベルリンで面白いシーンが生まれてるって聞いたのがきっかけ。私がベルリンへ行くって決めたら、メリッサも「一緒ついて行くわ」って。それで一緒にベルリンへ移住したの。今は無くなっちゃったけど、ラブパレードに何度も参加したわ。あれはベルリンのテクノシーンにおいてスペシャルなパーティーだった。私たちにとってもね。

メリッサ それからアレックスは2005年にバルセロナへ、私は2007年からケルン、ハンブルグを拠点にしているの。

——実際にベルリンではどんな生活をしていましたか?

メリッサ 住んでいたけど、ほとんどツアーで離れていることが多かったかな。ライブだけじゃなくて、インスタレーションとか展示も。とにかくいろんなことに取り組んでいたから、今までの活動をまとめるためにアートブック『It’s a Project』を出版したのもその頃。コンセプトや“フェイク・バンド”についての説明、面白いプロセスやオブジェクト楽器の発明とかね。

アレックス 基本的にファッション、テキスタイルの制作に取り組んでた。カティとの出会いもベルリン。彼女の通っていたファッションスクールの卒業コレクションに行ったとき偶然出会ったの。髪の毛も服装も全てグリーンのカティを見て、すぐに声をかけたわ。それから彼女が衣装を担当してるし、4年くらい一緒にパフォーマンスもして。今回の20周年ライブで久々に同じステージでパフォーマンスするの。

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(2003年ベルリン)
Photo by ©︎Chicks on Speed private collection

——2000年代前半は壁崩壊から10年くらいですよね。当時のベルリンはどうでした?

メリッサ 当時はかなりめちゃくちゃ(笑)。よく地下のバーや友達のペントハウスのパーティーに行ってたわ。パーティーで出会った人に後日招待されて訪れたウェアハウスパーティーとか、ボロボロだったけど、クレイジーなアーティストたちが集まってたの。多種多様なレベルの人が混在してたり、ファッション、ミュージック、アート、カルチャーが融合されてたり。貧乏でカオスだったけど、そこには確実にエネルギーがあったし、シーンが生まれてた。まだベルリンが確立される前だったし、とにかくそういうことが多かったわ。

アレックス ピーチズやミス・キトゥンといったエレクトロ系アーティストたちがベルリンに集まっていて、とてもワクワクした! ピーチズは通りで出会ったら、「ギター弾くから後で遊びに来てよ」って気さくに誘ってくれてたわ。

Chicks on Speed – We don’t play Guitars

——いい時代ですね。2人にとって2018年現在のベルリンはどうでしょう?

メリッサ 今のベルリンはすでに確立されちゃったかな。例えばGoogleが進出してるし、家賃が当時と比べて70%も上がってるでしょ。会社にとってはいいけど、アーティストにはもう向かないかも。クリエイションには時間が必要。上昇する家賃のために、違う仕事をしてカバーしていくのは大変だから。

——2000年代のベルリンを知るCOSだからこそ説得力がありますね。そんな2人が思うネクスト・ベルリンを教えてください。

メリッサ みんなライプツィヒって言ってるよね。たしかに古い建物や空き家が多いわ。あとセルビアのベオグラードはおすすめ。2年前に初めて訪れたことをきっかけに、今回レジデンシープロジェクトで行くんだけど、家賃や物価も安くて住みやすいし、素敵なところ。他だとロンドンからギリシャに移る人も多いって聞くわ。

アレックス インドネシアのジャグジャカルタは、クレイジーでカオスなところがベルリンみたい。私が8ヶ月住んでいたニュージーランドは、コミューンやオーガニックファーム・カルチャーが面白いわ。いまでもWilderlandとか興味深いプロジェクトが残ってる。最近は都市よりカントリーサイドの方が面白いと思うの。

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”Cos with EURYTHMY dancers” (2006年ミュンヘン)
Photo by ©︎Chicks on Speed private collection

——話は変わりまして、これまで何度か来日していますが、日本の印象はどうでした?

メリッサ 日本は5回くらいかな。カルチャーは通じるものがあったし、大好き。リフレッシュできたし、自然と馴染んだわ。

アレックス 日本はフューチャリスティックで常に7年先を進んでるイメージ。ファッション、テクノロジー、街を歩いてる人全てが新鮮だった。あと日本のオーディエンスはかなりエキサイトでエモーショナル、最高だったのを覚えてる。

——好きな日本人アーティストはいますか?

アレックス 草間弥生にはインスパイアされてるし、もちろんYMO。OOIOOとは京都で一緒にパフォーマンスしたわ。日本のバンドだとエクスガール、シュガー吉永(バッファロー・ドーター)、メタルチックス、カツオマティックデスとかも。

メリッサ ユカリ・フレッシュ(YUKARI ROTTEN)は私のアイドルの1人。2005年にリリースされた彼女のアルバムにリミックスとして参加したわ。あと、ベルリン時代に仲良かったのは写真家の花代ね。

アレックス 花代懐かしい! 会いたいわ! よく一緒にパフォーマンスしたり、小さいバーでDJしたり、遊んだりしてたよね。彼女がアニエス・ベーと作品集を作った時にレイアウトを担当した人が私の彼だったのよ。

メリッサ 花代が彼女にCOSのこと紹介してくれたおかげで、アニエス・ベーとコラボして“Art Rules”のパフォーマンスすることになったの。パリのポンピドゥ・センター、イギリスのテートブリテン、日本では京都国立近代美術館でね。

——素敵なエピソードですね。今後コラボレーションしたい方はいますか?

アレックス excube(大阪のショップ)。前にCOSのテキスタイルを送ったらジャケットにリメイクしてくれたから。もちろん他のブランドともコラボレーションしたいわ。前はガルシアマルケス(現・クリスタルボール)と2回コラボしたよね。

メリッサ コム・デ・ギャルソンとできたら素敵ね。夢のまた夢だけど、いつでも夢は持っていたいわ。

——夢を持ち続けるスタンスが新たなコラボレーションに繋がるんでしょうね。これを機にまた日本へ戻ってきてほしいです。では最後に、今後の活動について教えてください。

アレックス 現在新しいアルバムを制作中です。あと最近オンラインショップをリニューアルしたからぜひチェックしてみて!

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Photo by Wolf-Dieter Grabner
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カール・ラガーフェルドが夢中!草間彌生、YMOから影響を受けた、ベルリン発エレクトロクラッシュ・アーティスト!チックス・オン・スピードが語る20年周年インタビュー interview180726_chicks_on_speed_08-1200x800
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