から皆のする事にはどうも馴染めない。ついつい反対の事をやってしまう。世間に対する違和感や疑問。そういったモノは誰しもが少なからず感じている事なのかもしれないが、常にそのスタンスに立ち、社会に対するカウンターを送り続けて来たアーティストがいる。それがサイケアウツGの大橋アキラだ。

80年代のアヴァンギャルドなバンド活動から始まり、90年代から現在までうつろいゆくダンス・ミュージックをその身を持って体現してきた大阪を代表するベテラン、サイケアウツG。インダストリアル的で強烈なジャングル・ビートに乗せた派手なサンプリング&ライブ・パフォーマンスで一世を風靡し、そのサウンドは海を越えKid606やSound Murderer(Todd Osborn)など、後のジャングル・リヴァイバルにも多大な影響を与え、90年代のクラブ・シーンの一翼を担い続けた初期「サイケアウツ」。その後2000年代初期の地下潜伏期を挟み、2004年に「G(ゴースト)」となって再臨。日本でもいち早くダブステップやUKガラージを作品化し、以前の派手なものより巧妙に重層化されたサンプリングとビート・メイキングで新境地を開拓した。以降ROMZから「Vikalpa」、「SIMSTIM」、「Prapanca」と3枚のアルバム・リリースを経て、実に4年ぶり4枚目となるフルアルバム『反対人間 OPPOSITE HUMAN』が届けられた。

ヘブライ文字の最初の一文字である「アレフ」から始まり、最後の「タヴ」で締めくくられる本編と、30分を超えるブレイク・ビーツ組曲と9種類のサイケアウツG印のアーメン・ブレイクス集を収録した2枚で構成された本作。90年代初期のUKレイヴから現在まで、様々なダンス・ミュージックのフォーマットを用い、サイケアウツG史上最もバラエティに富んだ内容となっており、これまで歩んで来た音楽遍歴が伺える、まさに集大成的アルバムだ。これはサイケアウツGファンのみならず、全ての音楽リスナーに聴いてほしい傑作と言っても過言では無いだろう。

今回、サイケアウツGと同世代にして同じく大阪のベテランDJ TUTTLEがレーベル・プロデューサーを務める〈NODE LABEL〉からのリリースという事になる訳だが、時代の大きな流れに疑問を投げかけ、希有な少数派としてメッセージを届けるレーベル・スタンスに見事に呼応した作品が出来上がった。そんな〈NODE LABEL〉との関係から本作について、サウンド・メイキングや活動拠点である大阪の事まで、いくつかの視点からサイケアウツGの大橋アキラに話を聞いた。

Interview : 大橋アキラ(サイケアウツG)

――これまでの作品では仏教やサイバーパンク等の用語を使用するなど、哲学・文学的なアルバムタイトルを使ってきましたが、本作『反対人間 OPPOSITE HUMAN』にはどのような意味があるのか、まずは今回のアルバムのテーマを率直にお訊きしたいと思います。

TUTTLEの発案、今の世にぴったりで付和雷同。境界がどんどん無くなるインテグラルな世界にどう向き合うか、アイロニー? ナンセンス? 意味は重層的なので音を聴いて考えてもらえれば・・・。

――国家的危機の後、国民感情は右傾化するとよく言われますが、東日本大震災~原発事故があり、現在の日本も例に習ってそのような状況にあると思います。そこに来て今回「反対人間」という事ですが、本作を制作するにあたって震災~原発事故などから何らかの影響を受けましたか。

カタストロフによりシステムに歪が生じると、負の力による連鎖反応がおきる。世界的合意の覇権が強くなると災いが災いをよぶ。それを祓うための反対人間です。

――今回、これまでリリースしてきた〈ROMZ〉から〈NODE LABEL〉に移られて4年ぶり最初のフルアルバムとなりますが、〈NODE LABEL〉になって変わったところなどはありますか。また、レーベル・プロデューサーであるTUTTLE氏との関係についてお教えください。

TUTTLEとは、90年代初頭clubNERDSでのDUB NIGHTからの悪友で同朋衆!良きアドバイザーです。変わったといえば世界は加速の一途だが、我々はその反対です。

――本作はガラージ、レイヴ、ジャングル、2ステップ、ダブステップ、ポイング(ガバの一種)など、これまで大橋さんの長いキャリアの中で培われてきたUKを始めとするダンス・ミュージックが詰まっていて、サイケアウツG史上最もバラエティに富んだ作品に仕上がっていると思います。そういった多様なジャンルを用いたのは意図的なところがあるのでしょうか。

歴史、時間、幻想等が無くなりつつある今に眩暈をおこさせる意図。不可逆的流れの大切さ!基本的大枠の発案はTUTTLEです。

――それら様々なジャンルを「ただやっただけ」でなく、研ぎ澄まされた音の鳴り、ひと捻りもふた捻りもされたビート・アレンジや楽曲の構成要素など、一聴するだけでサイケアウツGだと分かるオリジナリティを持った音楽に昇華されていますが、これら一貫した「らしさ」を出すにはどのようなところにポイントを置いているのでしょうか。

性分、癖!もありますが、一般社会に適応出来ないという反能力が動力となっているのですかね。技術的にはサンプリング音源の切り刻みによる違和感でしょうか。

――スロッピング・グリッスルやD.A.F、ミート・ビート・マニフェストなどのアーティストをルーツに持つと思うのですが、他にも影響を受けたクリエイター、また最近気になっているミュージシャンなどいますか。

古いのだとGreater Than One、最近のだとJon&Ponchです。

――サイケアウツGの音楽といえば、ゲームやアニメーション、テレビから映画、また仏教や哲学など形而上下様々なサンプリング音が散りばめられています。気付いた人が思わずニヤけてしまうようなネタ使いですが、これらはどういう基準でチョイスされているのでしょうか。

安心できない不確実性をゲームの規則にする。というか酔っ払いの感覚!大きな流れとは反対をチョイス!好きなモノを選んでます。

――大橋さんの作る音楽は、サイケアウツ時代からの往年のファン、また海外のリスナー、さらには10(テン)年代と呼ばれる現在の若い世代のクリエイターなど、幅広い層から支持を受けています。これだけ広い層から支持される理由を、本人としてはどうお考えですか。

善哉!難しい質問ですが樗蚕の幼虫みたいな感覚ですかね。

――サイケアウツGの特徴の一つとして、世界に通用するレベルのプログラミング・スキルと、どんな環境で聴いても良い音で鳴るサウンド・エンジニアリングがあると思うのですが、音作りをされる際一番気を配る部分は一体どういった所ですか。

一音一音に魂魄をあたえて、その音民が暮しやすい世界を創造する!こんな風に音を診る。簡単にいえばバランスですが相変わらず難しいですね。生涯学習、修行。

――その表現素晴らしいですね!音に対する愛を感じます。そういえば以前、これだけフロア仕様の音楽なのにクラブのお客さん達に「踊るなと言いたい」って言っていた記憶があるのですが(笑)、これもまた「反対人間」故の発想なのでしょうか。

そうですね 反対人間ですから!パラレルに考える事も必要かと。

――2枚目のディスクは30分を超える大作“NODAL POINT”とサイケアウツGの印籠とでも言うべきアーメン・ブレイクスが9種類が収録されていますが、まずは“NODAL POINT”について伺います。これまでもライブ盤などでは全編通して聴く事のできる音源などはありましたが、この曲では様々な展開を経て最後にはしっかりと辻褄が合った帰結を迎えていて、非常に映像的、またプログレのアプローチにも通じる構成に思えます。今回この大作を作るに至った経緯やイメージした世界観など教えてください。

TUTTLEの、ブレイクビーツとサンプリング音源のみで長尺の映像的に感じる曲をやったら面白いのではという言葉がきっかけです。半ば強制的に。(笑)
世界観はウィリアム・ギブスンの「フューチャマチック」と筒井康隆の「脱走と追跡のサンバ」からサンプリング!

――なるほど、本作はTUTTLE氏のアイデアがかなり活きているのですね。では続いてこのディスク2にはサイケアウツG秘伝の、文字通り「ボーナス」なビート集が納めてあります。音作りをする人間にはこれほどありがたい物はなかなか無いと思うのですが、これらを公開した意図、またこのビートを取り扱うにあたってクリエイターに向けてコメントなどあればお伝えいただけたらと思います。

逆襲のブレイクビーツとサンプリング!消滅させてはいけないモノですから。サンプリングしてガンガン使って下さい。

――少し話題を拡げまして、サイケアウツGのホームグラウンドである大阪のお話を訊かせていただきたいと思います。最近だとD.J.Fulltono氏が率いるジューク/フットワークのレーベル〈Booty Tune〉が立ち上がったり、大阪は昔から新しいものやエッジの効いた音楽をいち早く取り入れるクリエイターが多いイメージがあって、サイケアウツGもその先駆け的な存在だと思うのですが、そういったクリエイターが登場する背景には大阪という環境が何か関係していると思いますか。

昔からよく言われる話ですが中心が東京にあるという共同幻想からそう思うのかもしれません。環境はあるとして、棲み分けが上手くいってるのかも。各々少数派ですし。

――またここ数年、大阪では風営法により深夜営業を断念したクラブが数えきれない程ありますが、大阪のクラブシーンは現在どのように見えますか? また、この様な取り締りに対して思う所あればお聞かせください。

御上の考える事は謎ですね!論理的な日本語で判りやすく説明して欲しいものです。意味不明、盲に提灯です!

――最後に、Qetic読者に一言お願いします。

限界のないオペレーショナルな世界を悪魔祓いしましょう!

後記

以前サイケアウツGのリミックスをやったGOTH-TRADが「思ったよりトラック数が少なくて驚いた」と語っていた。今回のインタビューでもそうだったのだが、音楽同様、大橋アキラは多くの言葉を使わない。それはつまり、数は多くなくとも(本人の言葉を借りて)それぞれの「音民」が最大限のパフォーマンスを見せる事によって成り立つ世界を表現しているのではないか。今回の回答も言葉数は少ないかもしれないが、その中に込められたメタファー、レイヤードされた言葉の意味も含め読んでいただけたら幸いです。

(text & interview by Michinobu Takarada)

Release Information

2013.05.25 on sale!
Artsit:サイケアウツ G
Title:反対人間 OPPOSITE HUMAN
NODE-LABEL
NODE036
日本盤2 枚組CD
¥2,100 (tax incl.)