もブランドの看板と審美眼に陰りなし、インディー・ロック~クラブ・シーンの最前線を紹介し続けるフランスの〈キツネ〉。この名門レーベルが以前から精力的にプッシュしてきたロンドンの3人組、イズ・トロピカルが新作2nd『アイム・リーヴィング』を引っ提げてカムバック!

09年のデビュー以降、エレクトロ・サウンドを軸にパンキッシュな攻撃性からトライバルなリズムまで取り込み、過激に攻めまくる彼ら。2011年のデビュー作『ネイティヴ・トゥ』でも斬新なアヴァンギャルド精神と無手勝流スタイルが存分に発揮され、ミステリアスな覆面キャラとともに大型新人として注目されることに。日本でも新進バンドのショーケース・イベント<RADARS>の第一弾に登場したり、〈キツネ〉の10周年記念で昨年開催された<KITSUNE CLUB NIGHT>でライヴを披露したりと、知名度は上昇の一途。ネクスト・ブレイクは目前に迫っていた。

そしてインスト&エレクトロ主体で実験的な内容となったEP『Frags』を挟んでの2作目。イズ・トロピカルは正に王道といえるソングライティングで勝負に出た。『アイム・リーヴィング』でも持ち味のカラフルなシンセ音を相変わらず前面に出しながら、伝統的なブリティッシュ・ポップのエッセンスがそこかしこに詰まっている。ノスタルジー時々サイケな、万人に訴えかけるメロディー。フォールズ、デペッシュ・モード等を手掛ける名匠ルーク・スミスが手掛けたオーガニックなプロダクション、女声ヴォーカルも積極導入するなど、押し一辺倒だったサウンドからの飛躍という点でレーベルの同僚トゥー・ドア・シネマ・クラブの姿勢と重なるところも。

こう書くと「大人になったんですね…(遠い目)」と誤解されるかもしれないが、そんな心配は全くご無用。大胆でひねくれた根性が健在であることを証明するのが先行トラック“ダンシング・エニーモア”のMVだ。イズ・トロピカルの名を一気に波及させた『AKIRA』インスパイア系MV“ザ・グリークス”を筆頭に、マドンナ、メトロノミー等に遊び心満載のイイ映像を提供してきたメガフォース。今回のお題は「ヴァーチャル童貞ウォーズ」!? というわけで、気になる要素てんこ盛りな新作について、本人たちにインタビュー!

Interview:Is Tropical

Is Tropical – “Dancing Anymore”

IS TROPICAL – “Dancing Anymore” / NEW SINGLE! from Maison Kitsuné on Vimeo.

――前作『ネイティヴ・トゥ』で新人バンドとしては破格の成功を収めたわけですが、今振り返ってみて勝因はなんだったと思います?

ファースト・アルバムを制作したときって実はそんなちゃんと考えてなくて。というのも、初期の僕らのサウンドを紹介するちょっとしたいい機会かな、くらいに思ってたから。デモ制作にはホントに時間かけたけど、曲の大半はセルフ・プロデュースで周りに気を使う必要もなかったしね。

――こうして2作目が届けられて嬉しいです! まずはアルバムを完成させた今の気持ちを聞かせてください。

今回のアルバムは、作品としてより首尾一貫してる内容になっている。曲もアルバム用に書いたんだよ。前作が一曲一曲をうまくまとめたような作品集のようだったのと対照的にね。それに詞や曲を書く原点にまで立ち返って、最も基本的なやり方を試したけどそれが功を奏したよ。その制作アプローチはある意味古典的だったけどね。それから、僕らは友達から借りたアナログ・シンセ、たとえばアープのオデッセイ、ミニモーグや(コルグの)MS20sなんかを実験的に使ったんだ。

――アルバム・タイトル『アイム・リーヴィング』の由来やコンセプトについて教えてください。

このタイトルを選んだのは、その言葉自体にいろんな解釈が出来るから。「何かの終わり」って意味にも取れるし、それこそ文字通り「いってきます」って意味にも。あるジャーナリスト数名からは「音楽的な旅立ち」(以前の音楽性との決別)を表現してるんじゃないか、なんてうまい事も言われたりね。このアルバムの背景にあるコンセプトはたったひとつ、“バンド”アルバムを作る事を目指したこと。つまり、ジャンル云々のかわりに演奏のパフォーマンスを重視したんだ。ギターとドラムが鳴ってる、文字通りのブリティッシュ・サウンドを僕らはやりたかった。

――鮮やかに花が咲き誇るアートワークも印象的です。このデザインを通じて、どんなことを表現したかったのでしょう?

ジャケットにあるアーティフィシャルフラワー(造化)は沢山の事を表現してくれる。例えば誰かの死を悼む、愛を祝う、人生の全ての場面に登場するシンボルとして花があるように。
特に深い意味でなく、このジャケットの持つ普遍性は僕らが特に好きなデザインなんだ。音楽的な感覚をあるひとつの、または別の方向に導くような感じで。ポップ・ミュージックって言うのは、いろんな人たちの心に触れるようなものだからね。僕らは聴く人々が味わいたいと願う、様々な感情を意図したような曲を書きたかったんだ。

――今回もメガフォースは素晴らしい仕事をやり遂げましたね。“ダンシング・エニーモア”のシュールなMVは、ホット・チップ“ドント・ ディナイ・ユア・ハート”のビデオにも通じるヴァーチャル・エロスに驚かされました。あのビデオの制作に関してはどんなリクエストをしたのでしょう?

僕らはメガフォースのビジョンを信頼してるし、実生活でも良き友人だから、向こうも僕らがどんなものが好きかも知ってるんだ。このビデオの背景にあるアイデアは“ザ・グリークス”みたいに、ある特別なイマジネーションを生き生きと描いたものだよ。それが今回は思春期にあたるものだったんだけど。

――“ダンシング・エニーモア”はエリー・フレッチャー(クリスタル・ファイターズ)のコーラスを効果的に用いた、トロピカル色も濃厚なナンバーですね。この曲のテーマは?

この曲はギャリー(・バーバー/Vo・G・key)が絶対ダンスしたがらないってことについて書いたものなんだ。自分のボーイフレンドが不器用だって言うのは決して愉快な事じゃないでしょ。あるときギャリーがダンスフロアに降りようとしたことがあったんだけど、慌ててみんなで止めたんだ!

――この曲に限らず、成功を収めた次の作品って誰しも慎重になりがちなものですけど、この新作は相変わらず挑戦的な内容で安心しました。前作と今作の違いや変化した点はどこだと思います?

今回のアルバムは凄くリッチなサウンドだよね、だって楽器はギター、シンセ、マイクともみんなヴィンテージ物を使ってるし、デリケートに気を配って録音したしね。『ネイティヴ・トゥ』は素のまんまで録音したし、当時はロウファイな感じにしたかったから。

――プロデューサーのルーク・スミスとはどのように知り合ったのでしょう?

ルークとは『ネイティヴ・トゥ』のときに会って話したんだけど、その時はフォールズのレコーディングで彼が忙し過ぎて実現しなかったんだよね。で、今回は彼の時間が取れたんだ。
僕らの友人であるエイジ・オブ・コンセントのレコーディングも彼はした事があるし、僕らは彼の過去のバンド、Clorのファンでもあったしね。

――プレス資料では90年代の「ブリット・ポップに影響を受けている」とありました。最近のUKでは確かに90年代サウンドに影響を受けた若手バンドが元気ですが、あなた達にもそういう意識はありました?

音楽がある一定のサイクルで回ってるのは周知の通りで、それは過去にもあったことだけど、新しく出てくるどのバンドについても何かそこに新しい要素が盛り込まれてる。この種の進化はポジティヴなことだよ。例えばピースみたいなバンドは本当に素晴らしい。彼らは過去の偉大なバンドからヒントを得ながらも今日的なエッジが立った音楽を作ってるし。自然な進化だよね。もし僕らの新しいアルバムから、“ビデオ”や“ダンシング・エニーモア”みたいな曲を聞いてもらったら、ダンス・ミュージックから多くを学んだことや、90年代ロックに少しの影響も受けてない事がわかるよ。確かにサイケの要素はあるけど、それって僕らが他から受けた影響に比べると間違いなく二の次だし。言ったように、僕らはその時代の音楽を聴きながら育ったわけだから、無意識に何らかそこから取り入れたものがあるとは思うけど。

――なるほど。ちなみに同年代で意識しているバンドはいます?

特にTEETHと、エイジ・オブ・コンセント、ダイヴ(DIIV)、ドム(DOM)、Happy Trendy。

――リスナーに、このアルバムをどんなシチュエーションで聴いてほしいですか?

ひとりで夜、車を運転しながら聞いて欲しい。

――多くの日本のファンが再来日を楽しみにしています。最後にメッセージを是非!

ちょうど一ヶ月前に来ようとしたんだけど実現しなかったんだ。出来ればすぐにでも日本に行きたいよ。以前二回来日した時、両方ともすごく楽しかったしね。日本のファンへのメッセージは、女の子に向けてなんだけど“ダンシング・エニーモア”と“オールナイト”の歌詞をまず覚えて欲しいんだ。僕らと一緒に唄えるようにね!

(text&interview by Toshiya Oguma)

Release Information

2013.05.15 on sale!
Artist:Is Tropical(イズ・トロピカル)
Title:I’m Leaving(アイム・リーヴィング)
Traffic/Kitsune
TRCP-119
¥2,100(tax incl.)