——先日のエキシビジョン『WEAPONS - 音楽に関連するアバンギャルドなオブジェクトの小さなしかし強力なエキシビジョン -』の際に発表となった「The Visitor」は、あなたがずっと使っていたTR-909を改造したというのは本当ですか? 数々の名曲を生み出してきたテクノ界の国宝とも言えるような楽器を改造しちゃうなんて、なんだかもったいないというか、ちょっとショックでした。後悔はないですか?

後悔は全然ない。逆に「The Visitor」に改造する工程で内部の機能は本来より良い状態でキープすることができたんだ。テクノ・ミュージックに様々な軌跡を残した音がさらに活躍する新たなチャンスを与えられた。マシンの魂が輪廻したようなものだ。アンダーグラウンド・レジスタンス時代に作ったほとんどの曲、また<Axis>からリリースしてきたすべての楽曲を生み出した機械が生まれ変わったことは、自分の音楽の性質、生と死のサイクルにとてもマッチしている。もしできれば、遠い将来「The Visitor」を解体してその魂をまた別の形で継承していきたいね。

——本作を見ていて非常に気になったというか、いまさらで恐縮なのですが、あなたはDJミックスをする時に、クロスフェーダーを使わないのですか?

そうだね、あまり使わない。ボリュームを使うほうが、時間が長く稼げて(曲と曲の)移り変わりが長くなるから好きなんだ。

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——同じく素朴な質問で恐縮なのですが、あなたはヘッドフォンを付けてはいますが、いったいどのタイミングでどうやってモニタリングしているのかまったくわかりませんでした。いったいどんなことをやっているのですか?

ヘッドフォンのオーディオ・キューはほとんど常にオンになっているが、かけている曲によって違ってくるんだ。例えば、オーディエンスに3分以上聞いてもらいたい曲があるとする。その場合はメインシステムだけを聞いて、キューは聞かない。でも曲を重ねてるときはキューを迅速に使う。

——楽曲制作のドキュメンタリー(スタジオ・ミックス)もとても面白かったです。まるでライヴやDJミックスのような感じで曲ができあがっていく過程にとても興奮しました。頭の中にあるイメージを具現化していくというよりも、即興性が強いというか、むしろあのように音を出しながら導かれるように作っていくほうが多いのですか?

だいたいそんな感じだ(即興的に作る)。音楽を作ることに加えて、その瞬間を捉えるようにいつもしている。あまり考えすぎないようにしているんだ。つまり、その曲がどのようになるかはわからない。プロセスの中で結論を感じながら決断していくことが必要なんだ。

——楽曲制作のドキュメンタリーにおいて、「曲と曲は関係していて、新しい曲もずっと昔に作った曲のセグメントである」というあなたの発言がとても興味深かったです。そう考えるとあなたは自分の人生を使って何か壮大な作品をずっと作り続けているようにも感じるのですが、いかがでしょうか?

具体的にはスタジオで楽曲制作をしているとき、途中でやめてまた再開するときにはセッティングやプログラムは同じままで残しておくんだ。次にパワーをオンにするときに前のレコーディングの印象が残っているように。

——ドラマーのスキート・ヴァルデスとのコラボレートも非常にスリリングでした。このコラボを通してあなた自身が発見したことなどがあったら教えてください。

まさしくスリリングだった。収録はワン・テイク、ウォームアップもリハーサルもなしで行われた。(僕のセットに)彼はスムーズに入ってきた。スキートは本当にすばらしいドラマーで、今回ゲストに迎えられて本当にラッキーだった。

——ピエール・ロケットとのコラボも非常に興味深いものでした。ピエール・ロケットとの出会いはどういうものだったのですか? またこの人のどういうところに惹かれたのですか?

10年以上前、『エキシビショニスト』のためにダンサーを探していたんだ。シカゴの<Axis>のオフィスのすぐそばにピエールが所属していたジョフリー・バレー団というダンス・カンパニーがあった。リハーサル・スタジオを訪ね、自己紹介してこの小さなレコード・レーベルのダンス・プロジェクトに協力してくれる人はいないかと聞こうと思ってドアをノックしたとき、開けてくれたのがピエールだった。名刺を渡して誰か興味を持ってくれる人がいれば連絡して欲しいと伝えたんだ。僕がオフィスに帰る間もなく、彼自身から連絡があった。そうやって僕たちはダンサーを獲得したんだ。コンセプトとして、彼にはビデオ収録のときまで音楽を聞かせなかった。そうやってリハーサルなしの自発的な動きが可能になったんだ。

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ピエール・ロケット

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