“モッシュ”といえばヘヴィメタルやパンク・ロックのライブで発生するのが常だったが、いまやHIPHOP界隈でも新世代のアーティストのライブでは定番となりつつある。そしてもし「その先駆けは?」と問われれば、多くのHIPHOPリスナーは「kiLLa」と答えるのではないだろうか。

kiLLaは東京・渋谷を中心に結成された20代の新世代HIPHOPクルー。ラッパーのYDIZZY、KEPHA、Arjuna、BLAISE、DJのNo Flower、ビートメイカーのacuteparanoia、デザイナーのYESBØWY、空間デザイナーのYuki Nakajo、マネージャーのRYOSUKEの9名で構成され、小学校時代から幼馴染みだったYDIZZYとNo Flowerをはじめ、みな同じ街で出会い、育った。

ストリートバスケや自主ブランドの立ち上げを経て、2015年から楽曲制作をスタートすると、kiLLaの音楽やファッションは瞬く間にキッズたちを魅了。これまでEPを3作リリースし、昨年はYDIZZYとArjunaのソロ作も話題に。そしてとうとう、1月24日に1stアルバム『GENESIS』がリリースされた。

kiLLaがパリから帰国した同日に行ったインタビュー。BLAISENo Floweracuteparanoia、そして最終的にArjunaも加わり、アルバムの話はもちろん、昨年末から行ったライブのエピソードや、彼らのルーツである渋谷についてなどたっぷり話を聞いた(撮影にはKEPHAも参加)。

kiLLaが『GENESIS』を通して提示する世界基準のHIPHOPとは?

Interview:kiLLa

【インタビュー】 渋谷が生んだ新世代クルー・kiLLaが、1stアルバム『GENESIS』で提示する世界基準のHIPHOP killa-pickup6-700x993
左から:No Flower、acuteparanoia、Arjuna、BLAISE、KEPHA

——パリから帰って来たのは今日ですか?

No Flower 今日ですね。遅くなってすいません。

——ライブで各地を飛び回っていたと思うので、だいぶ疲れてますよね。

No Flower パリで2日ぐらいゆっくりできたんで、そんなことないです。

——VISION(東京)から福岡へ行ってパリですよね?

No Flower そうですね。

——それぞれの場所でお客さんの反応はどうでしたか?

BLAISE ……各地での違いですか? 

acuteparanoia パリとか特に違ったんじゃない? 私はいなかったけど。

BLAISE カッコいいと思ったら素直に反応してくれるし、微妙だと思ったら喋っちゃったり。。わかりやすくて楽しかった。

No Flower まだ俺らも映像見てないんですが、撮影した映像が次の日のASICSのイベントで流れたらしいんですよ。それも楽しみです。

——なるほど。その前の福岡でのライブはどうでしたか? お客さんは若い層が多かったですか?

BLAISE 若い人が多かったです。

——ライブ中の反応は?

BLAISE いい反応だった。

No Flower 新しいセットを組んだり、地方は特に毎回挑戦してる感じがする。その場その場でやるまでわかんない印象はあります。

BLAISE 地域によってけっこう変わるんだなっていうのを実感することも多いです。

——アジアもライブで行ってますが、また印象は違いますか?

No Flower アジアの中でも中国は昨年、YDIZZYがANARCHYさんとかとフェスに出た時にいっしょに行ったんですけど、向こうのメジャーのHIPHOPグループとかも出てたりして、盛り上がりは強く感じましたね。

【インタビュー】 渋谷が生んだ新世代クルー・kiLLaが、1stアルバム『GENESIS』で提示する世界基準のHIPHOP killa-pickup7-700x494

——kiLLaはこれまでEPを3枚、そして去年はYDIZZYさんとArjunaさんのソロ、それらを経てようやく今回1stアルバムをリリースするわけですが、ここまでの展開は意図していたものなのか、それとも流れの中で決まっていったものなのか、どちらでしょう?

BLAISE 展開は個々に考えてただろうけど、別にちゃんと決めてたわけではなくて。ソロの作品とかも含め、タイミングを見て出した感じだと思う。

acuteparanoia 最初のころは何となくスタジオに集まってやってたんだけど、アルバムに関してはもう少しちゃんとやらなきゃって。アルバムの要素として何が足りないかとかも考えました。

No Flower 僕と彼女でビートを作ったんですが、まずアルバムに入れたい曲をピックアップして、あとアルバムに足りない曲を狙い打ちで作って。誰にラップを入れてほしいかイメージして投げて、あとは任せるっていう感じです。

——アルバムの制作はいつから始まったんですか?

No Flower 前半後半みたいな感じだったよね? 9月とかに録るだけ録った時期があって、11月ぐらいから詰めました。

acuteparanoia 『(kiLLa vol.2)Summer –EP』を作った時からアルバムに入れる曲をイメージし始めた。

——今回のアルバムは客演アーティストなしで、kiLLaのクルー内で完結させた作品になっていますが、それも早い段階で決まってましたか?

No Flower そうするかみたいな話さえしてないですね。

BLAISE kiLLaはこれまでも誰も入れてないから、必然的に。

——No Flowerさんとacuteparanoiaさんは、アルバムをトータルでプロデュースするのは初めてですか?

No Flower そうですね。EPとかMIXTAPEはありますが、そういうのは寄せ集めといえば寄せ集めなので、全体の流れとかを考えてっていうのは……。

BLAISE 適当……にね。

No Flower (笑)

acuteparanoia そんなに適当じゃない。

BLAISE これまではビートも出来てるやつを、みんなでスタジオに入って「これやりたい」みたいな感じだったじゃん。

No Flower まあ『Summer –EP』とかは完全に夏っぽいビートを集めて、これでやってくれって感じでした。ただアルバムに至るまでにみんなけっこうレベルアップじゃないけど、変わっていってる人もいて。

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——成長と変化があったと。アルバムのテーマのようなものは決めてない?

No Flower 最初にテーマみたいなものは決めてないですね。

BLAISE 確かに。でも、作品としてっていうイメージはあった。

No Flower 個人的には、クールな……何て言うんだろう。

BLAISE 作品的な。

No Flower そうそう。作品として、音楽として、見てもらえるようなものにはしたかった。

BLAISE まあでも結局フィーリングですからね。

No Flower そしたらけっこうダークな感じにまとまった。

acuteparanoia 音楽のイメージで曲が繋がってるアルバムだと思う。

——通しで聴きたいアルバムだと思いました。前半の『MURASAKI』などの激しいボースティング・ソングはkiLLaらしいですが、後半に向かうにつれて曲調がメロウかつスロウに変化していって、同時にリリックの内容もクルーのことや、それぞれの内面描写などが現れてくる。そのあたりはいい意味でkiLLaっぽくなくて、アルバムだからこそ生まれた曲なのかなと。

acuteparanoia それはアルバムの目的のひとつだったかな。

No Flower たぶんアルバムを聴いた後のライブは、みんなが想像してるものとは違うと思う。だからそれを観に来てほしい。曲だけ聴いたらあんまパワーないって感じる人もいると思うんだけど、それはライブに来てくれればわかる。

acuteparanoia 出来るだけいろんな曲を入れて、kiLLaは激しい曲だけじゃないっていうのを見せたかった。

BLAISE 振り幅をね。

Murasaki (prod. by No Flower) – kiLLa (official music video)

——「そもそもkiLLaとは?」という部分も改めて聞きたくて。みなさんは渋谷を中心に結成とありますが、取材のやりとりでレーベルの方と話してて「彼らが渋谷で溜まってる場所とかはない」って聞いて興味深かったんです。

BLAISE 渋谷の? 街中で?

——街中でなくても渋谷のどこどこによく行くとか。

No Flower あまり行かないですね……ずっと住んでる場所だし。

BLAISE 中学生の時とかは遊んでたけど。

acuteparanoia みんなで家とかにいる方が楽しい。

No Flower 家を調子良くしてます。

acuteparanoia ライブが仕事になってるから、終わってからわざわざクラブとか行こうとは思わないですね。

No Flower クラブ行かないね、みんな。

——それって根っからの東京の人しか持ち得ない感覚だと思うんですよね。東京を特別視してないというか。

BLAISE 特別視する方が変なんだよ、普通に。

No Flower 遊びに行ってもね……楽しくないでしょ?

BLAISE 楽しく……ない。

No Flower ライブは楽しいよね。

BLAISE ライブは楽しい。

【インタビュー】 渋谷が生んだ新世代クルー・kiLLaが、1stアルバム『GENESIS』で提示する世界基準のHIPHOP killa-pickup11-700x494

——kiLLaのある意味、東京への冷めた距離感が、自然とクールなイメージに繋がってる気がして。そうじゃないとどこかにダサさが出るはずなんで。

No Flower まあこれからですよね。このアルバムからスタートっていう人も多いと思うし。

BLAISE 時間の問題。

——時間? それはどういう時間を指してるんですか?

BLAISE どういう時間?

——周りが“気付く”時間ってことですか?

BLAISE まあいや別に自分たちらしい曲を出していけば、みんなすぐわかるだろうなっていう。それにかかる時間。

acuteparanoia かかりそう。

No Flower かかりそうって予想が。

BLAISE けっこうわかりやすくないですか? これ以上わかりやすくは出来ないってぐらい。

——曲を作る際のモチベーションとか原動力の中に、伝わり切ってないことへのいらだちやもどかしさのような感情はあるんですか?

BLAISE いや……そんなことないです。

——フフフ……。

BLAISE ビートを聴いて感じたものなので、原動力とかは特にないっす。自分が感じたものと作った人の意図を混ぜて作る。フィーリングなんだよね。

【インタビュー】 渋谷が生んだ新世代クルー・kiLLaが、1stアルバム『GENESIS』で提示する世界基準のHIPHOP killa-pickup1-700x494

——kiLLaのラッパーはそういうタイプが多いですか?

No Flower そうですね。そうなるべきというか、そうでないとっていう感じじゃない? 感覚的に音楽の話を出来るかどうかで違うと思うし、曲に対して自分のイメージを持つ人じゃないといっしょに作るのは難しいので。

BLAISE でもArjunaはちょっと違うタイプ。みんな個性が強過ぎるし、それが良いとこでもある。

——Arjunaさんはどんなタイプなんですか?

BLAISE Arjunaは自分の世界観が強い。

No Flower 自分に合うかどうかの判断ですね。

BLAISE 自分の世界観を出すことに徹底してる。Arjunaがベースを作って俺がやるっていうのはやりやすいけど、俺がベースを作ると世界観が違ってきちゃうから。それだけ強いイメージを持ってる、彼は。

acuteparanoia それはそれでいい。

——例えばYDIZZYさんは?

No Flower 感覚系だよね。100感覚、考えない。全然合わないビートがある一方で、普通出来ないビートで出来たりする。

——KEPHAさんは?

No Flower KEPHAは完璧主義。

BLAISE 完璧系。

acuteparanoia 一番こだわって録り直すのはKEPHAだよね。

BLAISE 波形とか見るからね。普通にやってるけどけっこうすごい。あとすごい繊細なんだけど、マインドは誰よりHIPHOPなんだよね。

No Flower それArjunaも言ってたわ。「Niggaの心を持ってる」って。

——すごい無口な方なんですよね?

BLAISE 絶対にそういうことを言ってこないからね。心に秘めてる。

No Flower 侍だね。

【インタビュー】 渋谷が生んだ新世代クルー・kiLLaが、1stアルバム『GENESIS』で提示する世界基準のHIPHOP killa-pickup2-700x494