――歌詞の部分から新作について伺いたいのですが、“国歌コーラン節”を聴いた時、まず始めに歌詞を見ないで聴いたら「コカコーラ」と歌っているかと思い、歌詞を見たら「国歌コーラン」と。その空耳的な部分と、歌詞を見た時で違う2度味わえる面白みを感じましたが、そのような言葉遊びの側面からも歌詞を作ったりしますか?

歌詞を作る際には歌になった時に言葉に飛躍力があるかどうかという事、あとはその歌にちゃんと詩情があるかどうかという部分をものすごく大事にしています。例えば“国歌コーラン節”だったら僕は意味もちゃんと込めたいと思い作ったんです。“国歌”は国の歌でその国に住んでいる人にとってすごく大きな歌。一方“コーラン”はイスラムの経典で、その地域の人達にとっての大事な宗教の歌。でも、コカコーラという飲み物は全世界で飲まれているぐらい浸透していて、コカコーラ自体が国歌やコーランを上回るぐらい、ものすごく大きな歌になっているんだなって思ったんです。その時に言葉遊びの部分と言葉の意味と響きとが全てが合わさり“国歌コーラン”になった。歌詞を見た時の意味と耳で聴いた時の意味がごちゃごちゃになる感じがすごく面白いなと思っていて、“国歌コーラン節”はそういう作り方をした1曲でしたね。だから僕の歌を、最初は歌詞を見ずに聴いて、後で歌詞を見るという聴き方は僕にとってすごく嬉しいです。もちろん歌詞を見ても見なくとも、歌詞だけ見ても、僕は「国歌コーラン」という部分に国歌とコーランの気持ちも込めて歌っているので、音だけ聴いた時にちゃんと僕の気持ちが伝わるようにしています。

――なるほど。その他にも新作の中で特に印象的で頭から離れなかった言葉が“オレらは肉の歩く朝”というタイトルでもあり、歌詞でした。肉というのは生々しく感じるものですし、その肉が歩くとは一体どういうことなのか考えさせられますよね。また、社会的な部分で“ジョギングしたり、タバコやめたり”で「ホーシャモーは見えない」って歌っており、これは放射能のことかな、と考えさせられる歌詞もありましたが、本作のテーマや意識して作った部分はありますか?

アルバムのタイトルの「オレらは肉の歩く朝」というフレーズは僕の感情の中で一番新しい気持ちです。震災が起こって放射能など自分の感情が揺り動かされる大きい問題を実感した時、9.11などでは感じなかったような、その最新の感情をちゃんと表明しなきゃいけないな、と。強いメッセージで「避難した方が良いよ」とか「反原発」という人もいますしそれはもちろん大切なメッセージだと思うのですが、表現者、特に詩人はもっと新しい言葉や意味、勇気づけられるフレーズが生み出せるんじゃないかと思ったんです。だから、僕のやるべき仕事は、その時に自分の知っている言葉で詩を作ってあたらしい意味を見い出すことで今の僕が居る雰囲気を表すことだなと思って。

そこで「自分って何なんだろう、人間って何なんだろう」というのを確かめたかった時、通勤もまばらな早朝6時にだんだんと人が駅に向かっていく情景を見ていて「なんか肉が歩いてるぞ」と思ったんです。「俺らって肉の塊が歩いてる。所詮人間って肉じゃん」ってパーンと弾けたんですよね。だから、今回のフレーズ「オレらは肉の歩く朝」は知っている言葉でもう一回新しい意味、感情を出したい、歌いたいよっていうのを少しやれたかなという気がします。意味が分からなくても、なんとなくでも良い。でもそういう言葉遊びの部分もありつつ、なんかわからないけど気持ち悪い感じもありつつ、でもポップでありたい、明るくありたい。「オレらは肉の歩く朝」って俺はポップだと思ってるんですよ、キャッチーではないですけど。その言葉はけっこう僕の中で今作でぶつけたい言葉ではありますね。口に出して言ってみて欲しい「オレらは肉の歩く朝」って。

【Interview】前野健太、Qeticに初登場! 新作『オレらは肉の歩く朝』とは? その歌詞世界に迫る!! music130122_maeken_3041-1

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――まさしく詩の破壊力を感じさせるフレーズですね。近年文字離れが進んでると言われているほど言葉を磨かなくても住める環境に居る中で、“言葉”を味わう面白みを見つけていくにあたってアドバイスがあれば、是非教えて下さい!

一回スローガンとかをちゃんと疑うこと…ですかね。例えば「反原発」っていう言葉自体を一回疑うとか。反原発って感情がみんな一緒になっちゃうと思うんですよね。でも感情は皆少しずつ違うので、その感情からメッセージを発して欲しいって僕は思うんですよね。一人ひとりがもう一回自分の言葉で新しい意味を見つけ出すこともけっこう攻撃力になるんじゃないかと思うんですよね。だから僕は「オレらは肉の歩く朝」という風にしたかった。最初は「肉」だけとか、「ベニス」とか他にも色々あったんですけどそこは丁寧にしたかった。ベニスとかふざけてるって思われそうですが、あったんです。タイトルなどに対してもあまりにもみんなが無自覚だと感じたし、もっと面白いタイトルいっぱいあってもいいなって。映画のチラシが大量に置いてあってもタイトルだけで見る気無くすのばっかりで。

――そうですね。タイトル、あとは先程の「反原発」じゃないですけど、スローガンにしても、特に一昨年から皆が誰かの声を求めるようになっていると思います。前野さんは有名になったことで「導く声として求められるような立場になっている」というように感じることはありますか?

僕は「俺について来い!」というようなメッセージは無いので、最近はそこがジレンマではあります。誘導して欲しいとか、洗脳して欲しいとか求められている気がするけど、俺はすごく良い歌を作りたいという部分が重要なので、そこは分けて冷静にいたいですね。やっぱり歌の中で、詩が立っているかどうかが一番大事だと思いますし、作品が面白かったら豊かになる。もっともっともっと、どんどん良い歌作っていきたい、だけかな。

interview & text by Yuka Yamane
photo by Ken Suzuki

前野健太 ニューアルバム『オレらは肉の歩く朝』予告編

Event Information

前野健太 ニューアルバム『オレらは肉の歩く朝』発売記念ツアー
2013.03.23(土)@北海道 札幌Sound Crue
2013.03.30(土)@長野 MOLE HALL
2013.03.31(日)@山梨 甲府桜座
2013.04.04(木)@福岡 天神VooDooLounge
2013.04.05(金)@広島 横川シネマ
2013.04.06(土)@大阪 梅田Shangri-La
2013.04.07(日)@愛知 名古屋APOLLO THEATER
2013.04.21(日)@東京 恵比寿LIQUIDROOM

前野健太 ニューアルバム『オレらは肉の歩く朝』発売記念インストアライブ
2013.01.24(木)19:30@タワーレコード福岡店
2013.01.31 (木)19:00@タワーレコード名古屋パルコ店
2013.02.02 (土)14:00@タワーレコード梅田NU茶屋町店
2013.02.10 (日)15:00@タワーレコード新宿店
2013.03.22 (金)18:00@タワーレコード札幌ピヴォ店

RELEASE INFORMATION

オレらは肉の歩く朝

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Track List
01.国歌コーラン節
02.伊豆の踊り子
03.興味があるの
04.看護婦たちは
05.オレらは肉の歩く朝
06.海が見た夢
07.東京の空
08.ジョギングしたり、タバコやめたり
09.街の灯り
10.東京2011
11.あんな夏
12.女を買いに行こう