――お二人ともバンドの時代を経て、それぞれ電子音楽家として活動していくようになりますよね。その入口の部分を聞いてみたいんですが。

moshimoss 僕はバンドが上手くいかなくて、でもとにかく何かをやりたかったんです。じゃあ一人で何が出来る?と考えたら、シンセを使って何か出来るかなと思い浮かんで。そこからテクノに興味を持って聴き始めたんですよ。だから、元々テクノを聴いていて作り始めたというよりは、一人で電子音楽をやりながら色んな音楽を聴くようになったという感じですね。余儀なく一人で活動するようになったという感じもありますけど、バンドに対する憧れは常にどこかにありますね。

mergrim 僕も打ち込み自体は全く電子音楽を意識していたのではなく、単純に機材を買ったのはバンドのデモを作るためだったんですよ。ケンイシイさんが使っていたMC55というシーケンサーを買ったんですけど、当時僕がやっていたバンドでは、それが全くハマらなくて。速攻で売り払って、今度はPrefuse 73とかが使っているMPCを買って、リアルタイムでスタートボタンを押して録音できるタイプになったら、結構自由にバンドのライヴ感がある感じで録音できるようになって、それが面白かったんです。でも、同時に一人二人とメンバーがいなくなり、バンドが解散してしまって。また新しくバンドを始めてはデモを打ち込んでまた解散、ということを繰り返していったら、打ち込みのクオリティが上がってしまい、「もう、これでいいや」という感じで、一人でやり出したんですね。

――電子音楽の特徴として、風景を連想させるサウンドスケープという側面がありますよね。例えばmoshimossさんは、『endless endings』のトレイラー映像に、自身が暮らしている山梨の美しい自然風景を使っていますよね。

moshimoss 映ってはいないけど、湖の水面にヘラブナの死骸とか浮いてたんですよ(笑)。でも、それって紙一重じゃないですか。特に何も意識はしてないですけど、「ああ、夕日綺麗だな」と思ったりする感じと同じというか。

mergrim そういう風に美しく見える場所が、普通の所だったりすることはあるよね。例えば、ドイツのクラブに凄まじいワンダーランドというイメージを持っていたけど、実際に行ってみたら、東京のクラブと全然変わらなかったりするし。そこでしか出来ないものは何かしら存在するとは思いますけどね。そういう焦点みたいなものって、moshimossくんのフィルターを通すことによって、面白く映るのかなというのはありますね。

moshimoss 音楽を聴いていると、何でもない毎日過ごしているような街が最高に見える時ってあるじゃないですか。それを目指しているわけではないんですけど、自分の音でそうなったらいいなって。そういう退屈か綺麗はすごく紙一重だけど、音楽があることでスペシャルになる場合があるじゃないですか。そういう雰囲気を無意識のうちに追いかけているのかもしれないですね。薄皮を剥ぐというか。普段と同じ景色だけど全然違って見えるという感じを。

mergrim 音楽って抽象的なものだから、言葉にしちゃうとすごく照れくさいようなことでも、自分が良いと思うものを臆せずに表現できるよね。

moshimoss そうそう。引っ括められるからいいんですよね。言葉で説明しきれない気持ちってあるじゃないですか。そういうものも音楽を通して表現するとすれば「そういうことだよ」「わかった」みたいに会話できるというか。すぐ言葉で説明しがちなんだけど、せっかくだから、ふわふわとした感じで聴いてもらえればいいかなと。

mergrim moshimossくんの音は丁寧。その丁寧というのを別の言葉に置き換えるのが難しいんですよね…。それが言葉に出てこないから、お互い音にしているという部分はあると思うんだけど、月並みな表現で言うと、ほっこりするというか。音の紡ぎ方という意味では、どうやって作ってるのか分からないぐらいに羨ましい。あのノイズ感というか、僕自身も音楽を作る上で空気感とか温度、湿度みたいなものを曲の中に閉じ込めるということをすごく意識しているんだけど、moshimossくんの音は、まさに質感の塊という感じがして、一つひとつのニュアンスがずるい。パラでトラックをもらいたいぐらいですよ。

moshimoss いやいや、そんなことはないですよ、先輩。ミツさんは話しているとコミカルな感じなんですけど、根がしっかり者というか。今回のアルバムも相当気合いが入ってるなというのは感じましたよね。ミツさんはロック出身だからなのかは分からないけど、実はすごく熱い。

mergrim もうエモさを抑えることで必死ですよ。

moshimoss そこは抑えなくていいんじゃないですか?

mergrim そうなのかなあ。

【インタビュー】mergrimとmoshimossによる特別対談(前編)。音楽家、レーベルオーナーである二人が語る「エレクトロニカってなんだろう?」 music130608_mergrim-moshimoss_23882-1

――Ametsubさんは長い付き合いのある二人の音楽をどう捉えていますか?

Ametsub それこそ二人とは8、9年の付き合いになりますけど、その人たちが作った作品には愛しかないというか。もちろん、アドバイスとして「客観的にこうしたら?」とは言いますよ。特に、ミツさんには今までそうやって接してきていますし。だけど出来上がったものは、なかなか客観的には聴けないですね。僕は元々ミツさんのライヴmoshimossの本名名義のヴァイナルを聴いて、「あぁ、これはすごい」と思って声を掛けて、そこから始まった繋がりで結ばれてきたから、その人がどんな音楽を作っても信頼できるというか。

moshimoss 僕は割と音楽よりも人間のほうに興味が出ちゃうんですよね。「これを作った人はどういう人なんだろう?」というところにすごく興味が湧く。だから、あまり良いリスナーではないのかもしれないけど。それに全然音楽に詳しくもないんですよ。常に新しい音楽を追いかけているわけでもないし、入ってきた情報の中から良いものを聴くという感じで。

――冒頭にあったmergrimさんがクライミングをやっていたという話は、まさに人そのものへの興味ですよね。

moshimoss そうですね。その当時は、今以上に「どういう人なんだろう?」と気になっていましたよね。「ミツさん、朝飯何を食ったんだろう?」とまでは言わないですけど、「どんな小学生だったんだろう?」とか。僕、ジブリがすごく好きなんですけど、それは作品だけじゃなくて宮崎駿とか関わっている人も好きなんですよね。だから、作ってる人のほうが気になるんです。

mergrim これは本当なのか分からないけどさ、ジェイムス・ブレイクが1stアルバムと2ndアルバムの間に童貞を喪失したっていう話があるじゃないですか。それを聞いてから2ndの聴き方が変わったんですよね。

moshimoss それは絶対変わりますよ。アルバムを作る際に影響は出ると思う。

mergrim そうだね。2ndは24歳にしてすごく落ち着いた感じがするもんね。

moshimoss そこに人間っぽさが出てると思うんですよ。

mergrim うん、人間臭さとか生活感とか。流行を完全に追いかけないわけじゃなくて、たまに意識する時はあるけれども、いちリスナーとしての自分は、一期一会という感じに音楽を聴いていて。この人はどういうシーンの人というよりも、「どんな国で育ったんだろう?」って、moshimossくんと同じように追求しようとしていますね。

★インタビューまだまだ続く!
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