――アナログ・プレスの話をちょっとお聞かせ頂きたいんですが、今回ドイツのベルリンの会社にお願いしたという事ですが、これはどういった経緯でそうされたんでしょうか?
O 第1弾はCalmさんに教えて頂いたハーフ・スピード・カッティングという凄い音の良い手法でカッティングしたんですが、今回も、それに負けないくらいものをやりたいなと。ハーフ・スピードのインパクトが強くて凄い悩んだんですけど、今回は名門と言われているベルリン「Dubplates& Mastering」という会社のチーフエンジニア CGBさんにお願いしました。Calmさん、Gonnoさん、仕上がりはどうでした??
G 以前にリリースしたレコードも、「Dubplates&Mastering」では何度もやって貰った事があるんですけど、今回が一番良かったですね。クラブでプレイするにもこうリズムのメリハリとかも出てるし、リスニングでもバッチリいけるし、両用途にうまく成り立ててる気がしました。
C その辺のディティールは最終的に本人しか判らないんで。どういう風に仕上がったとかは。普通の人は客観的にしか聴けないし、主観的に聴けるのは唯一ひとり、本人だけだから。
――Calmさんでも聴けない?
C わかんない。主観的には聴けないですね。
G 原音に忠実、且つちょっと味付けが入ってるぐらいの感じですね。
――Calmさんは、客観的に聴いてどうでしたか?
C そうですね。基本的にさっき言ったように本人にしか判らないことなんで。まあ、でもちょっとハーフ・スピード・カッティングでの音も聴いてみたいなと思いました。両方聴いてみたい。贅沢ですけど(笑)。
G また全然、違うでしょうね(笑)。
O ホントは同じところでカッティングしていった方がわかりやすいかなと思うんですけど、色んな処でやっていった方が面白いかなっていうのもありつつ。その辺は悩み中です。
――今回はハーフ・スピード・カッティングとはまた違った結果が上手くでたという感じでしょうか?
O そうですね。名門と言えども相性もあるので、アーティストが音に対して満足してくれるのが一番嬉しいです。
――ちなみにハーフ・スピード・カッティングとはどういったものなんでしょうか? カッティングする時にスピード落としてやるということでしょうか?
C そうです。基本的にテープでしかできないんですけれども、半分のスピードでマスターを流して、カッティングするマシーンも半分のスピードで動かすという。エラーが少ないんですよね。
――遅い分だけ、じっくり彫れるっていう感じでしょうか?
C 45回転と全く逆の考え方なんですよ。45回転の場合は情報量を多くする。早く進むから、1秒間のスピードは33回転よりちょっと速いんで、「ドン」というキックの音でも溝が長い分だけ情報量が多くなって音が良いって言われてるんですけど、でも早くなればなるほど、何でもそうなんですけどエラーが起きやすい。CD-Rとかを家で焼く時に48倍速でやるのと、2倍速でやるのとじゃ全然音が違うんですよ。それと一緒で33回転の更に半分のスピードで再生して、カッティングも同じ半分のスピードでやる。
――これは主流なカッティング方法なんですか?
C いやマイノリティですよ(笑)。だって単純に時間も倍かかるし、どういう音が鳴ってるかって作業中は判んないじゃないじゃないですか。半分の速さなんで、『うぉーん』みたいな感じで鳴ってるんで、物凄い技術が必要なんですね。できる人はもう殆ど居ない。
O ハーフ・スピード・カッティングをできるのは世界に何人かしかいないんで。ヨーロッパは1人か2人しか居なくて。
C アメリカにも数人しか居ない。
――成程、それは貴重な手法ですね! 最近、アナログをリリースをする動きがちょっと増えてきていると思うんですが、プレスの際、混んでたりとかはなかったんでしょうか?
O 混んでますね。混んでるのと、アクシデントが凄い多い。第1弾の時なんか1年ぐらいかかってる。今回は半年ですね。
――どういったトラブルだったんでしょうか?
O ハーフスピードカッティングの職人さんが少ないので、2ヶ月待ちだったんですね。で、ようやく順番がきたと思ったら、職人さんがそのスタジオ辞めちゃったりとか。その後もやっと別のエンジニア探してカットしてもらったんですが、プレスの段階で、マスターが割れてしまって、もう一度、最初からやり直しとか。。。踏んだり蹴ったりでしたよ。結構凄かったですね(笑)。
――やれる工場もやれる方も少なくなってしまってるんで、集中してるみたいですね。重労働で休みたいみたいな事なんでしょうか?
C 基本的にレコードのマスタリング・スタジオとかがドッと一気に潰れちゃって、でもいま中途半端にアナログの需要が増えちゃってるんで、一斉にそこへ注文がいってるから。でもエンジニアさんって、俺も向こうでカッティング立ち合ったりしてるんだけど、凄い良いエンジニアになればなるほど1日やったら1日やらないみたいな、耳を休めるんですよ。若手とかビジネスを凄いする人とかは毎日やるんですけど、本当の職人さんは絶対やらないですね、1日やったら次の日は休む。クラブとかライブハウスとかそういう所にも絶対に行かないって言うし。音楽は好きだけど、仕事としてちゃんと区別してやってるから。そうなってくると順番待ちも出てくる。普通だったらその倍の仕事量できるのにやらないっていう。
O その辺はホント徹底してますよね。休む時は必ず休むっていう。こっちがどんなに焦ってても、いやちょっと俺、ホリデイだからとか(笑)。ホントにそこは絶対にスタンス崩さないですね。めっちゃ待たせられましたね。
――クオリティを維持する為には徹底してるという感じでしょうか?
C まあ職人ってどこの国でもそういうもんですよ。日本だって、凄い人はそうだし。レコードのカッティングとは関係ないですけど、カートリッジ・針を作ってるメーカーで日本に「光悦」ってところがあるんですけど、そこの針を修理に出すと1ヶ月ぐらいかかるんですよ。他の処だったら1週間ぐらいで返ってきたりするんですけど、1ヶ月ぐらいかかって。何でそんなに掛かるの? って聞くと、温めたり冷やしたり、温めたり冷やしたり、そういう作業を繰り返しやって最終チェックして、すぐに聴ける状態にして渡してくれて、その為には1週間とかでは絶対できないからって。「急いでください!」ってお願いしても、いや絶対できないからって。それはもうこっちが納得する状態にしてからしか渡せないっていう、職人ってそういうもんだと思いますね。
――そういった『技』を代々継承し、維持する為にも〈RETALK〉のように最高の状態のアナログをリリースしていく活動は重要ですね。
O 小さなことなんですけど、そういう事に貢献できたらいいなあってのはありますね。