――〈RETALK〉のコンセプトとして「後世に伝えたい本物のアーティストを、いい音質で世の中に残していく。」「モノの価値について、もう一度話そう。」を掲げられていますが、今現在、リリースできる形態は沢山あると思うんですが、そこを敢えてアナログでのリリースを選択された理由をもう少し伺えますか?
O 〈RETALK〉に関して言えば、『一番いい状態で残したい』というのがあります。デジタルも解像度がどんどん上がっていってますが、現時点では、僕の個人的な見解ではアナログの音の方が優れていると思っています。解像度の問題ではなく、聴いていて心地がいいなと。なので、自分の信じている今一番良いモノを後世に残したいと思います。科学が進歩して、アナログの素晴らしさがデジタルで再現できる様になったら、もちろん話は別ですが。
――アナログとCDを顕微鏡で撮影した写真が〈RETALK〉ブログに上がっているのですが、アナログは綺麗に伸びた溝・ラインが入っていますが、CDの方は断線された溝・ラインとなっています。この辺からも音の根本的な違いが読み取れるということでしょうか?
C まあ音の印象としてそうですよ。結局、あれが凄い表していると思いますね、うん。要は引きで見ちゃうと音の塊が二つとも似たように見えるんだけど、寄って見ちゃうとああやって違うという。それが最終的に耳からハートに入ってくるかどうかの違いだと思うんですけど。そういう意味では言えば、やっぱアナログは今のところ最強の音。音質とかそういう意味でじゃないんですよね。結局、自分の心の中にまで届いてくるかという。どのフォーマットでも耳では必ず聴くことはできると思うんですけれども、MP3だろうが何だろうが。でも結局、感動するかどうかってところは、デジタルではやっぱそういうのは中々難しい。ポップなモノだったら、解りやすくていいと思うんですけど、そうじゃない音のテクスチャーとか細かな部分で聴かせるという事になるとデジタルだとちょっと伝わり難いという所があるんじゃないかなと思うんですけど。
O 知り合いのエンジニアが言ってたんですが、デジタルは個体で、アナログは液体という表現をしていました。デジタルは、どんなに解像度が上がって細かくなっても個体なので、砂どまり。アナログは液体だから、なめらかさに違いがあるのは、当たり前だって言ってました。わかりやすい表現だと思います。
――自然な音ではないですよね、デジタルは。アナログの場合だと、ありのままで物理的にこの世に存在していますし。やっぱり音は違いますか?
C 結局、世代があと五世代ぐらい下になってくるともう全てがたぶんデジタルになってると思うんですよ。そのうち、お爺さんぐらいからでもデジタルしか聴いたことないみたいな感じに世の中なってきて、その孫とかになるとアナログとかデジタルとかあんま関係ないとかになってくるかもしれないですけど、上の世代から自分達の世代は途中までアナログがあったわけで、まだたぶん身体が受け入れてくれない部分が非常に沢山あるんじゃないかと思います。
――僕が子供の頃は確かに貸レコード屋さんで、音楽をきちんと聴きだしたのはアナログからでした。中学3年生ぐらいからCDがレンタル屋さんに混じってきた記憶があります。
G ああ、そうなんですか。
――貸レコードだと色んな人に借りられてるので、僕が借りた時には既に溝がナカナカの感じになっていたりしてて(笑)。
C いやまあ、基本そうでしたよね(笑)。僕もその世代なんでそれをカセットテープに落として、それをずっと聴いて。好きになったモノをお金が溜まったらレコードを買うみたいな。
――僕がその最後の世代かなと。Gonnoさんはどうでしたか?
G 僕の場合は物心ついた時からCDでした。
C 普通にTSUTAYAとか既にあった世代?
G G そうですね。TSUTAYAにはCDしか無くて、友&愛とかにはレコードがホンのちょっとあった感じですかね。
――あぁ、でもまだ片隅にでもレコードがあって良かった! いまはもう無いですもんね。
O でもGonnoさんはレコードのリリース多いですよね?
G 確かにそうですね(笑)。Calmさんと違って、元々CDやカセットテープで音楽を聴き始めたんですけど、DJやクラブカルチャーが流行しだした90年代に活動を始めて、レコードをどんどん買っていって。で、ちょっと大人になってくると、機材とかもちょっと良い物を買うじゃないですか。針とかも良い物にしたり。で、アナログレコードって凝れば凝るほど音がドンドン良くなってくる。その伸びシロがアナログは凄いと思うんですよ。逆に、例えばデジタルの世界って全く雑音が入らないようにする事もできるじゃないですか。デジタルなので、ほとんどノイズが入らないような透明な音にも出来るんですけど、同じ音でもちょっとノイズが入るアナログ盤と、高音質のデジタル・ファイルを聴き比べると、何故かその綺麗な筈のデジタルのファイルとかCDとかって、聴いていて何だか落ち着かないなって思って。それでアナログって凄いなって思ったんです。機材を買い換えれば買い換えるほど、キャラクターも変わっていきますし。
――僕の皮膚感覚的にはアナログだと長時間聴いていても耳が疲れない気がします。デジタルだとすぐ疲れてしまうんですが?
C 単純にCDってBGMには向いていると、俺は思います。こういうカフェみたいな場でかけるとか、家で何か音楽に集中せずに他の事をやりながら音楽をかけているとかはCDやデジタルってむちゃくちゃ向いているんですよね。正直、気を取られないから。全然そっちの方に意識が向かないんですよ。でもレコードって終わっちゃったら、こうプツプツって音が鳴るから気になりますよね。CDとかって勝手に終わるじゃないですか、勝手にリピートもするし。例えばiTunesとかだと無限に続くわけだし。友達とかバーッと集まって、空間に音楽は欲しいけど皆の邪魔はして欲しくない時とか。読書とか作業してる時、邪魔をして欲しくない場合はデジタル物って凄く良いですよね。
――ライフ・スタイルの時々の状況によって、最も最適なフォーマットってあるのかも知れないですね。そんな中でも真剣に音楽に向きあうにはアナログが良いということなのでしょうか?
C BGMじゃなくて、ホントに音楽で自分が感動したりとか、もうちょっと聴き込みたいとかの場合はアナログの方が断然入ってくるというか、個人的な感想ですけどね。CDでこうやって聴いてると違うこととか考え出したりして、あんまり入って行けないっていうか。さっきGonno君がいった綺麗過ぎるっていうのも確かにあるもしれないですね。例えばCDは凄くろ過された水道水で、アナログはミネラル豊富な天然水。その土地土地によって濃度とか硬度とか違うからそこで好き嫌いが出てくるかもしれないけど、最終的に身体に入ってくるのは、そのミネラルが含まれてる方じゃないかなと。そういう印象を受けますけど。
――アナログを取り扱っているレコード店は減っていると思うんですが、その辺りは現状どうなのでしょうか? 東京はまだ何とか成り立ってると思うんですが、地方とかはどうなんでしょう?
O 潰れるのはちょっと落ち着いてきましたよね。もう現状、淘汰されてしまって、逆に結構リリース自体は増えている。
C だから、その生き残ったレコード屋さんがちょっと頑張ってるっていうか。昔からあるオジサンがやってる中古レコード屋さんとかはまだドンドン潰れていってるんですけど、新譜とか扱ってるショップとかそういう所が頑張ってくれてはいますよね。だからこそ〈RETALK〉も結構オーダーがきてるし。
O 地方によって色があって、そういうのも面白いですよね。地方だと枚数とか取りにくいと思うんですけど、それでも頑張ってくれるんで。だからお互いにフックアップしていければと思っています。
G 去年、北海道の北見にDJをしに行ったんですけど、僕のレコードをかけてくれてました。20代の子が普通にアナログを買ってくれていて、こんな所にも届いてるんだなあって思いました。
O 地方は地元のお店の人達が頑張って盛り上げてくれているのを、もの凄く感じますね。
――かえって東京よりも余計な雑音が入って来ないから、好きなことに集中し易いのかもしれませんね。
G 東京じゃない場所へDJしに行って思うのは、純粋に好きなものをみんな探して、好きなものをかけて楽しんでるみたいな印象は凄くあります。