10年代の新しい街の音楽=シティポップの誕生を告げた、傑作にして既にクラシックなファースト『(((さらうんど)))』(12年)から一年弱…(((さらうんど)))が、7月17日(水)にセカンド・アルバム『New Age』をリリースした。近年はヒップホップ・アクトとしてだけでなく鴨田潤名義での弾き語り等、マルチでクロス・オーヴァーな活動も賑々しいイルリメと、今、ヒップなパーティーに顔を出せば必ずこの人達ありという、DJ・ユニット=Traks Boysが結成したバンドだっただけに、二組とも売れっ子過ぎて、(((さらうんど)))はテンポラリーな活動で終わっちゃうんじゃないの? なんて、余計な心配もしたのだが、それは全くの杞憂だったらしい。自らのサウンドとスタンスへの確固たる自信を感じさせる、(((さらうんど)))印な“新時代”ポップスの大名盤がここに堂々完成した。コラボレーターには、アチコ(Ropes)、Kashif(PanPacificPlaya)らお馴染みの面々に加え、今回は後関好宏(在日ファンク)、澤部渡(スカート)、荒内佑(cero)、砂原良徳も参加。日本のポップスの最前線を切り取る一枚としても、エポックなものになった。

ディスコ・ポップスという特に80年代に流行した音楽のフォーマットを踏襲しながら、最新型のポップスとして結実させる…ファーストでもみられたその手法に劇的な変化は無いものの、ヒップホップ・アクトとしてあるいはクラブDJとして「ポップスを作った」という趣だった前作とは異なり、今作は(((さらうんど)))というJam&Lewis(80年代に活躍した米国のプロデューサー・ユニット)ばりにカラーのあるポップス制作集団が、明確なテーマをもって制作に臨んだという強い意志が作品全体から感じられる。夏の訪れ、恋の始まり、新しい時代の幕開け…そんなポジティヴなエネルギーを感じさせる、今回のアルバム『New Age』を、どのような想いの元、(((さらうんど)))は作ったのか、鴨田潤とCrystalの二人に話を聞いた。

Interview:鴨田潤、Crystal(((さらうんど)))

空中分解するアイラビュー

――『New Age』、本当に素晴らしい作品でした。(((さらうんど)))印のポップスを、確信と自信をもって打ち出している作品だ、と思ったんですが。

Crystal そうですね。ファーストの時は「ポップス」を作ろうっていう、(((さらうんど)))として設定した大きな目標に対する気負いみたいなものがあったので、おっかなびっくりやった部分はありました。でも、ポップスを「作って、届ける」っていうことが実際に出来たので、『New Age』では、そこまで大上段に構えなくても普通に新曲を作るみたいな感じでやれたんです。自分達の手法や、やってきたことに対して確信をもって制作に望みました。

――ファーストには、鴨田さんとTraks Boysが、(((さらうんど)))というユニット自体、そしてポップスという振り切った音楽ジャンルを自ら楽しんでいるという印象があったのですが、今作では(((さらうんど)))のオリジナルなポップスのスタイルが完成し、アルバム全体として調和がとれた一貫性のある作品になったような気がするのですが。

鴨田 ファーストを作って、ライヴでバンドやシンガーの方々と共演していく中で、色々考えたんですよ。自分たちが守っていくべきものとか、自分たちの持ち味は何なのかとか。…例えば、「サポート・メンバーにドラマーを入れよう」とか一度は検討したりもしたんですけど、でも、よくよく考えてみると、自分達のルーツや目指そうとするサウンドは、やっぱり打ち込みがベースにあるんですよね。だから、生ドラムを導入することはやめて、打ち込みでいこうと。そういう色んな試行錯誤を繰り返しながら、(((さらうんど)))としてのスタンスに確信をもっていって…それが結果的に『New Age』に繋がった気がします。

――なるほど…。制作開始当初から『New Age』のコンセプトやテーマなんかも明確にみえていたんですか?

鴨田 自分達は、曲作りっていうプロセスをまずは素直に楽しんだ方が良いと思っているので、最初は特にテーマとかは意識せずに、ファーストと同じ様な感じで作っていきました。ただ、そうは言っても、最終的には、やっぱり製作期間中に考えたことや感じたことが自ずと、アルバムのテーマに繋がっていきました。全体の方向性は大体、曲が7割ぐらい出来てから見えてきたかな。

Crystal 最後の方、4月ぐらいかなぁ…鴨田さんと僕の二人でミーティングをしたんですよ。そこまでは正直、それぞれバラバラに「音は音、歌詞は歌詞」で作業をしていたんですけど、アルバムとしての統一感を出す為に、お互いに今回の作品の方向性をどんな風に考えて作っているのかって言う話をして。で、結果として「バラバラに作っていたけど、同じ方向を向いていたね」っていう確認はしましたね。

鴨田 確認とそれから擦り合わせもしましたね。例えば、タイトルを決めるって段階での話なんですけど、Crystalは『イマジネーション』にしたいって提案してきたんですね。確かに、ファーストの時のモードだと(((さらうんど)))の音楽は「イマジネーションを頭の中で膨らませる」っていう感じだったんですよ。実際に、今作に収録されている“Imagination.oO”っていう曲も、ファーストの時に作った曲なんですけど。でも、今回はセカンドなんで「自分達が描いたイマジネーションを具現化する」っていう、もう一歩踏み出す為の「強さ」を込めたかったんですよ。だから『New Age』っていう「新世界」とか「新時代」を想起させるようなタイトルにしたんですね。

――既にキャリアのあるミュージシャンの方が組まれるプロジェクトって満足な活動もせずに終わってしまう事が多々ありますよね。とても生意気な言い方になってしまうのですが、今回『New Age』から、(((さらうんど)))をさらに発展させていこう! っていう、みなさんの「覚悟」が垣間見えて、正直な所、本当に嬉しかったです。

鴨田 そういう熱量は制作の時点でもメンバーの中にあったので、それが『New Age』には自然と出た気がしますね。ファーストだけだったら、遊びのような…「別にやめてもいいかもなぁ」っていう気持ちだったんですけど、セカンドを作ったことで、(((さらうんど)))を続ける意思を表明したようなものでもありますし、『New Age』は、自分達がやっていることに確信を持って作ったので、ちゃんと責任を持ち続けたいと思ったんですね。

Crystal それに、ファーストを実際に聴いて下さった方々にも、自分たちが思った以上の反応を貰えたので、やっぱりそれに対して応えよう、もっと良いものを作ろうっていう気持ちが強くなったっていうのもあります。

――今回の作品からは、(((さらうんど)))としての覚悟もそうなんですが、「ポップス」を作ること、そして、その可能性を広げていくってことへの挑戦も感じたんですけども。

鴨田 元々、ラップをやっていた人間がポップスを作って歌うっていうことになると、自分の「理想」が自ずと出てきてしまうといいますか…自分では最近のポップスのラブソングの言葉の数はどうしても少ないような気がしていて。ここまで色々な活動をしてきた中で「こういう言葉を使えば、ポップスが作れる」というようなことが大体わかってきたような感覚があるんですよね。だから、もう少し自分がポップスを作るなら語彙数を広げていきたいとか、そうしていくことで、ポップスとしてもっと表現の幅も広くなるだろうなって思って。

――確かに、(((さらうんど)))の歌詞には、例えば、“専売特許”(“空中分解するアイラビュー”)みたいな、普通のポップスの中では普段見られない言葉も多く使われていますね。でも、それとは対照的に、楽曲自体は「愛」や「恋」みたいな普遍的なテーマを、明確に歌ったものが多い様に感じられるんですが。

鴨田 率直な言葉を言うことに照れが無くなってきたんですよね。

――それは年月を経て、ということですか?

鴨田 20代の頃とかは、どうしても照れとか衒いが感じられて、ストレートなラブソングなんてとてもじゃないけど作れなかったんですよ。だから、愛や恋の歌が、天気の歌になったりしてたんですけど。でも、長年活動していく中で、どんどん歌詞を書く量が増えていって、それを言葉として伝えていくと…ちょっとずつ堂々としてくる。もしかしたら、感覚が逆に鈍くなっているというか、羞恥心がなくなっていっているのかもしれないですけど…どんどん率直な言葉が言える様になってきたんですよね。

Crystal 遂に「アイラビュー」って言ったもんね、歌詞で。初だね。

鴨田 は・ず・め・て、ですね。ははは(笑)。

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