サーストン・ムーアのニュー・アルバム『ロックンロール・コンシャスネス』が素晴らしい。

彼らしくノイジーで実験的でアバンギャルドではあるが、しかし美しく官能的なギター・サウンドと、ポップでキャッチーなメロディが自然に融合し、彼にしかできないオリジナルな世界を作っている。彼のデビュー以来35年にもわたるキャリアの集大成と言っていい見事な傑作である。3月に単独来日したサーストンに、新作について訊くことができた。その時の発言を引きながら、サーストンのこれまでの歩みと、新作について足早に走査してみよう。

Interview:サーストン・ムーア

【インタビュー】ロックンロールは決して死なない。現状に安住しないサーストン・ムーアの独自世界 interview_thurstonmoore_interview_thurstonmoore_1-700x466

サーストンのプロの音楽家としてのキャリアは1981年、彼が23歳の時に結成したソニック・ユースに始まる。10代のころパティ・スミスやテレヴィジョン、リチャード・ヘルといったパンクの登場に衝撃を受け、それに続くトーキング・ヘッズなどのニュー・ウェイヴ、コントーションズやリディア・ランチなどの「ノー・ウェイヴ」といったアンダーグラウンドなロック動きに激しく触発され、フロリダからニューヨークに移住。まもなくキム・ゴードン、リー・ラナルド、スティーヴ・シェリーといった連中とソニック・ユースを結成し、82年にデビュー。そのノイジーで実験的な型破りのサウンドで、華やかなメインストリームのポップスやロックに抗する「もうひとつの価値観=オルタナティヴ」という概念を提示し、80年代アメリカのアンダーグラウンドなロックシーンを代表するバンドとして成長していく。

そして1988年に発表した5枚目のアルバム『デイドリーム・ネイション』が高い評価を受け、メジャー移籍。アンダーグラウンド/オルタナティヴの象徴だった彼らのメジャー進出は、それまでの既存のロックの価値観が音を立てて崩壊し、傍流=オルタナティヴが主流となる新たなロックの時代に突入したことを示していた。彼らの開けた風穴から、たとえばニルヴァーナや、ベックや、ダイナソーJr.や、イギリスからもレディオヘッドやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのようなバンドが現れ、世界のポップ・ミュージックを変えていった。サーストン・ムーア及びソニック・ユースは、そうした80年代から90年代ロックの流れの最重要アーティストのひとつと言っても過言ではないのである。

その後もソニック・ユースはコンスタントに活動を続け、数多くのオルタナティヴなアーティストに影響と勇気を与えてきた。サーストンは日本を始め世界中のアンダーグラウンドなアーティストたちと積極的に交流を持ち、ソロ、ユニット、セッションなど、バンドという枠組みに囚われない自由な活動を展開してきたし、また博覧強記のレコード・コレクターとして、ジャンルを問わない古今の様々な音楽を紹介するキュレイターとしての役割も果たしてきたのである。

ソニック・ユースは2011年に活動を停止。サーストンは2014年にリリースしたアルバム『ザ・ベスト・デイ』でソロ活動を本格化させる。ソニック・ユース時代から変わらぬノイジーなギター・サウンドを基調としながらもよりパーソナルで叙情的な新境地を開拓した。『ロックンロール・コンシャスネス』は、それ以来2年半ぶり通算5枚目のソロ・アルバムとなる。

Thurston Moore – Smoke Of Dreams

『ザ・ベスト・デイ』のレコーディング、そして続くツアーでも参加したマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのデブ・グージ(B)、ソニック・ユースの盟友スティーヴ・シェリー(Dr)、若手ギタリストのジェイムス・セドワーズ(G)が今回も参加、息のあったバンド・サウンドを聴かせる。

「自分のグループをどうしたら一番いい形で見せることができるだろうか、ということを考えた。前作を録音して以来、このグループは僕にとってとても重要なものになっていたからだ。2年ぐらい一緒にツアーしてみて、ジェイムスというギター・プレイヤーや、スティーヴとデブのリズム隊がいかに優れているかを実感していたから、彼らが自由に呼吸してもらえるような曲を書きたいと思ったんだ。」