【インタビュー】ロックンロールは決して死なない。現状に安住しないサーストン・ムーアの独自世界 interview_thurstonmoore_interview_thurstonmoore_3-700x700

また、アデルやポール・マッカートニーなどを手がける屈指の売れっ子でありながら、オルタナティヴな音楽への理解も深いポール・エプワースがプロデュースを担当しているのも興味深い。

「彼のスタジオを訪れたら、広い大聖堂で、見事なヴィンテージのアナログの卓が2台あった。片方はピンク・フロイドの『ウマグマ』、もう片方はローリング・ストーンズの『エモーショナル・レスキュー』を録ったものだった。部屋自体が美しい教会だし、ポールの誕生日は僕と同じだったし(笑)、もう、ここでレコードを作らなきゃ、と思って、その場で決めたよ。ポールはすごく集中して、僕が録音するものをひとつ残らず、あのスタジオの機能を最大限に駆使して形にするよう、気を配ってくれた。実に機能的なスタジオでね。そこで僕が思い切り作業に没頭できたのも彼のおかげだ。僕の作業に必要なものは何でも気前よく提供してくれて……すべてがきちんと機能するようにしておいてくれた。しかも、即、てきぱきと対応してくれるから、作業が滞るようなこともなかった。素晴らしい経験だったよ。」

今作のテーマは、サーストンが仏教系の大学のワークショップで現代詩の講座を持ち仏教哲学に興味を持ったことから生まれたという。

「仏教関係の文学をいろいろと読むようになり、僕にとっての瞑想とは何だろうと考えるようになったんだ。仏教の知覚(consciousness)、ダーマ(法・道徳)の知覚、みたいなことをね。それで考えてみると、僕にとっての精神世界はロックンロールにあるのではないか、とすれば僕にはロックンロールの知覚というものがあるに違いない、ロックンロールこそが僕のダーマなのだ、と考えるようになったんだ。そして僕にとっての師匠は、イギー・ポップであり、パティ・スミスであり……(笑)、そういう人たちが僕の先生だったわけだ。ロックンロールとは非常に精神性を意識した芸術形態だと確信をもって言える。ブルースのマディ・ウォータースやロバート・ジョンソンに始まり、ジャズのビリー・ホリデイ、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、サン・ラ、そしてロックンロールのドアーズ、ストゥージズ、パンク・ロックのパティ・スミス……と続いていくロックンロール・ミュージックの様々なヴォイス(声)は、どれも非常に精神性を意識したものが多かったように思えるんだ。というわけで、この『ROCKN’N ROLL CONSIOUSNESS』というタイトルを思いついた。そして、タイトルを思いつくや、これでレコードを作らなければ、と思い、そこから長い時間をかけてじっくりと、たくさんの音楽を作曲していったんだ。」

歌詞の半分はラディオ・ラディユーなる人物が書いている。これはさる著名な詩人のペンネームだという。彼(あるいは彼女)がテーマにしたのは「フェミニスト的な神秘主義」だと言う。

「このレコードの本質をかなりの部分、定義づけているように思うよ。要は、新たなエネルギーのことを歌っているんだが、今まさに、そういう新たなエネルギーがとても必要とされている時代だからね。僕らは古い様式のカオスに取り仕切られ、抑圧されているからね。」

ラディオ・ラディユーの性別を尋ねたところ、「トランスジェンダーだ」とサーストンは答えた。

「このアルバムは女性性を肯定するような。性格がある。僕のレコードはどれもそうだったと思うよ。僕の作品に常に一貫している発想だ。性別に関する意見交換、性別に関する均衡、性別に関する尊厳、性別に関するあれこれ……僕自身、ずっと男女混合グループで活動してきたし。男ばかりのバンドには興味が向かない。そもそもニューヨークに越したのも、ニューヨークで聞こえ始めていた新しい女性のヴォイスに惹かれたからだった。パティ・スミス、デビー・ハリー、スージー・スー、ザ・スリッツ、ザ・レインコーツ……(どれもパンク/ニュー・ウェイヴ期の女性アーティスト/バンド)の声……そしてそういうヴォイスが取り立てて変わっているとか悪目立ちするとかいうのではなく、男性の声と同等の評価を得ていたんだ。ある意味、パンク・ロックやニュー・ウェイヴやノー・ウェイヴのシーンは性別のバランスがちゃんととれていた、ということだね。僕が惹かれたのは、ああいう、音楽における異性間の意見交換みたいなものなんだと思う。僕にとっては、そこからずっと続いている男女のコミュニケーションというのが音楽のあり方なんだろうな。」

【インタビュー】ロックンロールは決して死なない。現状に安住しないサーストン・ムーアの独自世界 interview_thurstonmoore_interview_thurstonmoore_2-700x744

そうしてジェンダーを超えた新しいロックの表現のあり方を提示しようとしているサーストン・ムーア。だが今のチャートに上がってくるような人気ロック・バンドたちの、十年一日のごとき伝統的なギター・バンドのスタイルにしがみつく保守的な姿勢には批判的なようだ。

「僕は伝統的な側面と実験的な発想が一体化した音楽が好きなんだよ。ソニック・ユースもずっとその世界にいたと思う。いつも聴いていて面白いと思うのは、超メインストリームな音楽が実はある意味すごく実験的だということ。例えばラナ・デル・レイとか、あとはR&Bには多いね、ソランジュとか、あっち方面の音楽は全体に実験的で過激なものが多い。でもロックは……U2もレッド・ホット・チリ・ペッパーズもフー・ファイターズも、優れたバンドではあるが音楽は伝統的だ。ヒップホップやR&Bの方が、メインストリームのレベルで実験的な発想を生み出しているし、はるかに成功している。ギター・バンドにおける実験的で意欲的な音楽は、あったしても、地下でやっているノイズだったりフリー・インプロだったりする前衛的な発想の音楽で、メジャーのフィールドからは無視されている。メインストリームのロックシーンでも、もっと実験的な音楽を聴けたらいいのに、と思うよ。かつてピンク・フロイドやジミ・ヘンドリックスが存在したようにね。今のポップ・ミュージックに異論があるわけではないが、そこは僕の居場所じゃないし、魅力を感じない。」

だがサーストンは決してロックを諦めたわけではない、と強調する。ロックンロールはまだまだ可能性があり、未来を失う理由なんて何もない、と。

「僕はロックンロールは決して死なないと思う。EDMだってエレクトロニクスのバンドだってロックンロールの要素をはらんでいる。DJカルチャーにしてもダンス・ミュージックにしてもそうで、根源にある欲求は同じだ。でもエレクトリック・ギターにベースとドラムという古い様式を踏まえなければいけないという自制心がロックを縛っているのかもしれないね。僕は伝統的なロックンロールの設定で音楽をやるのが好きだから、それを踏まえて実験性を追求していこうと思う。」

今年58歳になるというサーストンだが、いい意味で学生っぽい、書生っぽい雰囲気の「青臭さ」はソニック・ユース時代から変わらない。ロックの伝統的な型を疑い、古い様式を打ち破る新しいエネルギーを求め。多数派の主流とは違う表現を模索しながらも、「ロックンロールの知覚」への敬意を忘れない。ロックンロールであり続けることにプライドを持ち、伝統的なギター・バンドの形式にこわだりながら、なおかつそこでいかに実験的で冒険的な音楽を作り上げていくか、そしてその実験をいかに美しく官能的でポップな楽曲として提出するか、そんな試みをサーストンはずっと続けている。『ロックンロール・コンシャスネス』はその最新の、そして最良の成果である。

【インタビュー】ロックンロールは決して死なない。現状に安住しないサーストン・ムーアの独自世界 interview_thurstonmoore_interview_thurstonmoore_4-700x762

RELEASE INFORMATION

ロックンロール・コンシャスネス

2017.04.28(金)
サーストン・ムーア
HSU-10122
Ecstatic Peace library/Hostess
¥2,490(+tax)
[amazonjs asin=”B06XTJWN23″ locale=”JP” title=”ロックンロール・コンシャスネス”]
詳細はこちら

オフィシャルサイト