——ANARCHYさんの人柄が伺えるエピソードですね。フィーチャリングゲストはみなさんリリース面でもすごく勢いのある人たちばかりですね。

そうですね。でも一番ヤバいのがYomi Jahってやつで……。

——これは……あのカワイイ方でよろしいですよね?

フフフ……はい、私の娘です。娘のミドルネームが「Jah’Mira」で、“Jah Love”は娘のことを歌おうと思って作った曲です。最初はフックぐらいかなって思ってたんですけど、ラップに挑戦するならやらせてみようってなって。最初は慣れない感じだったけど、面白かったのでそのまま採用しました。

——インタビューさせていただくにあたって、沖縄の『098TV』を拝見したんですが、Awichさんが卒業される回に娘さんも出演されてましたよね。

※『098TV』…Awichの制作会社「Cipher City」がプロデュースし、自ら出演していた沖縄のテレビ番組

あ〜そうですね。しかもChakiさんが作るトラックのプロデューサーの印みたいので《Husky Studio〜♪》っていうのがあるんですけど、あれ……娘の声なんですよ。

——そうなんですね! 娘さんに「やってみない?」って言ったとき、どんな反応でしたか?

なんか「ん? いいよ」って感じで、フフフ。私にだけちょっと生意気なんですよ。でも録ったときはめっちゃいい子で、素直にアドバイスを受け入れて、一生懸命やってました。……ちょーカワイイと思った。

【098TV】#92 さよならAwich ~2年間お疲れ様スペシャル~

——あとリリックについて。当初は曲の並びがアルバムトータルで繋がりがあって気持ちいいなと思ったんですが、歌詞をしっかり読むと、こちらも「闘う女性の軌跡」が1曲目からストーリーのようになっていて、まるでひとつの小説を呼んでいるようでした。

今回のアルバムは音のジャンルが幅広いので、そういう「まとまり感」をどう出すかは悩んだところで。でもやっぱりそういうストーリー性だったり、私の成長の過程だったり、曲と曲の間のTransitionだったりっていうのは凝りました。

——言葉も文学的で、でもそこに現代的な言葉も組み合わさっていて。たとえば宇多田ヒカルのような印象に残る言葉遣いをされるなと思いました。

そういうのめっちゃ好きなんですよ。

——普段、本とかは読まれますか?

本は……読むのは好きなんですけど、最初から最後まで読むのは苦手で。エロイのだったら読めるかも。でも辞書はすごい好きです。昔とかはスマホとかが無かったので、辞書は常に持ってました。あとパカッて開けるやつ。

——あれ懐かしいですね。リリックを書くときに心掛けていることはありますか?

やっぱ誰に聴いてほしいかですね、すんなり出てきて表現しやすいのは英語なんですけど。日本の子たち、それも男の子に聴いてほしいとか、女の子に聴いてほしいとか、あとこれは世界中の人に聴いてほしいとか……そういう基準でやってます。

——プロフィールには「中1のときに日本語ラップを聴いてラップを書き始め、レンタルショップで出会った2パックでヒップホップに開眼」とありますが、最初に聴いたHIPHOPは何か覚えてますか?

いや……多分Dragon Ashとか。めっちゃ流行ってたじゃないですか? 「東京生まれ〜♪」とか、めっちゃベタなやつだったと思います。それでラップを調べていくと、HIPHOPっていう文化がアメリカにあるって知ってのめり込んでいって、中学校のころに「HIPHOPが日本の文化に与える影響」みたいなテーマで作文を書いてました。

——それはまた……すごいですね。

個を重んじるのがHIPHOP文化だから、そのIndividualityとかが衝撃的だったし、太っている子がそれを武器にするとかもカッコいいと思って。そのあとに、中2ぐらいで2パックに出会いました。いとこのお姉ちゃんにTSUTAYAに連れていってもらって、そのときに「HIPHOPあるわ」と思って。わからないからパッと見て選ぼうと思って取ったのが2パックの『All Eyez on Me』でした。それでDISC1を聴いたときの最初の音と……2パックのささやき声から入るじゃないですか? あれでめっちゃ掴まれましたね。もうそこから2パックのすべてを読み漁りました。2パックの英単語ドリルとか作ってましたもん。

——2パックの英単語ドリル……ヤバイ中学生ですね。

一見、めちゃくちゃ勤勉に見えるんですけど、中身見ると「Hoe」とか「fucking」の副詞・形容詞的な使い方とかあったり、「indictment」とか「verdict」とか裁判系の単語があったり。あと2パックを沖縄の方言に見立ててみんなに見せたりもしました。「We」とか沖縄で「わったー」っていうんですよ。なので「わったーギャングスター」みたいにして……フフフ、まだあるのでいつか見せます。

——フフフ……ぜひ見たいですね。そこからアメリカに渡るわけですが、それは何歳のときですか?

19です。

——向こうでは結婚、出産、そして最愛の人との別れなど、いくつもの人生の分岐点を迎えたわけですが、いま、当時を振り返ってみていかがですか?

家族みんなで日本に帰ろうとしてたときに事件が起きて。東京で受かっていた外資系の企業とかもあったんですけど、でも……意味あるかな、どういう気持ちで働けばいいのかなって。そのあとに娘を連れて沖縄に帰ったときに、「人生何があるかわからない、やりたいことやろう」って思いました。音楽もそうですが、沖縄の地域資源をカッコ良く見せたいと思って会社も作って。それをやりながら音楽もずっと作り続けて……6年ぐらい経ってようやく、kZmやChaki Zuluに出会えたって感じです。

——Awichさんの音楽は女性としてもそうですし、沖縄という地が持つ歴史もそうだと思うんですが、悲しみの上に成り立っているからこそ、強く、美しいのだと思います。

やっぱつらいときは助けが必要だし、音楽にそれを求める人も多いと思うので、そういう面では誰かの役に立ってほしい。私も絶対に抜けられないと思う悲しみの中にいたから、いまそこにいる人たちは私の作品を聴いてもらえたら光が見えるかもしれない。悲しみとかを美化するのも大切だと思います。そういう感情ってブロックしちゃうと、喜びとかもブロックしちゃうように人間の脳ってなっているので。それを拒否しないで思いっきり浸れるようなアートも必要だし、そこから成長できるんだと思う。

——Awichさんに憧れている女性も多いと思います。そんな人たちにどういう女性になってほしいと思いますか?

女が強くてもいいと思うんですよ。それで男が下になるってわけじゃなくて。女が強くなることによって、もっと男たちを持ち上げられる環境ができる。それで男も女も、人間としての可能性がもっと伸びると思うので。だから女性は強くなることを恐れないでほしいと思うし、男性もそれを恐れるんじゃなくて、そういう大きな女性を引っ張っていける力をつけてほしいとも思う。あと私は「エロス」っていうものを大事にしているんですけど、やっぱ女の人って形や大きさとか関係なく、すべての女性の身体にはエロスが宿っていて美しい。メディアの誘導もあると思うけど、自分がいいと思っているならそれを祝してほしい。そういう流れがこれからもっとできたらいいなと思います。

RELEASE INFORMATION

『8』

【インタビュー】YENTOWNのディーヴァ・Awichがアルバム『8』で女性の強さとエロスを謳う awich-feature4-700x622
2017.08.08(火)
Awich
YENTOWN / bpm tokyo
¥2,500(+tax)
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bpm Tokyo

Awich オフィシャルサイトTwitterInstagram

Interview&text by ラスカル(NaNo.works)