あなたは『Free Soul』を知っているだろうか。

90年代に日本の音楽シーンを席巻し、レアグルーヴと共に音楽の聴き方を変えたこのコンピレーション・シリーズが近年再び注目を集めている。選曲、監修するのは橋本徹。元々bounceの編集長を務め、伝説的なディスクガイド『サバービア・スイート』の発刊や、自身が経営するカフェ、カフェ・アプレミディのBGM的に提案しカフェミュージックのムーブメントを巻き起こした『カフェ・アプレミディ』シリーズなど、数々のコンピレーションを手掛ける選曲家だ。

そんな橋本徹の代表作ともいえるのが『Free Soul』だ。70年代のソウルミュージックを軸にしながら、テリー・キャリアーのようなフォークやSSWの領域にも踏み込んでいたソウルミュージックや、逆にフォークの側にいながらファンキーなソウルミュージックに影響を受けていたスティーブン・スティルスのような90年代には埋もれそうになっていたサウンドだったり、またアリス・クラークのようなマイナーなソウルアルバムだったり、ジョージー・フェイムのようなモッズが聴いていたような英国の白人によるR&Bアルバムだったり。そんな様々なダンサブルでメロウなクラブで映えるサウンドをFree Soulという名のもとにジャンルを超えてコンパイルしたのが『Free Soul』シリーズだ。渋谷系のムーブメントやDJカルチャーの台頭共に『Free Soul』は大ヒットをしていくが、徐々に同時代の音楽をも取り込み懐古趣味に陥らなかったのが『Free Soul』の強みでもあった。『Free Soul 90’s』シリーズをリリースし、エリカ・バドゥをはじめとしたネオソウルや、ATCQなどのヒップホップ、更にマッシヴ・アタックからシャーデーまでのUKのサウンドまでをも橋本ならではの選曲でFree Soulとして聞かせてしまっていたことも特筆すべきだろう。その後も橋本は常に同時代に目を配り、コンピレーションという形で時代を切り取っていく。

そんな橋本が手掛けた『Free Soul』シリーズの最新作が『Free Soul〜2010s Urban-Jazz』だ。ずばり2010年代のジャズとして橋本が選んだのは《ロバート・グラスパー以降》と括ってもいいようなドラマーによる刺激的なビートを軸にしたジャズを中心に様々なアクセントを加えたものだ。

現代ジャズの今が凝縮!ジャズ入門として最適のコンピとは music150601_freesoul_main

『Free Soul〜2010s Urban-Jazz』ジャケ写

ジャズ界の新世代ドラマーたちの状況を俯瞰できる

オープニングのネジャム・ロズィエのイントロでのドラムのビートがこのコンピレーションのコンセプトを表明しているようでもある。今、ジャズの世界では新世代ドラマーたちが叩きだすヒップホップ/ネオソウルを経由したビートが花盛りだ。天才ビートメイカーJディラが作り出したヒップホップのビートが持っている独特のグルーヴやズレやサンプリングの質感を人力で表現することに成功したクリス・デイヴが開拓した世界を今、多くの若手ドラマーたちがさらに推し進めているような状況がある。リチャード・スペイヴン、エリック・ハーランド、マーカス・ギルモア、ジャマイア・ウィリアムスといったトップドラマーの名演が並んでいるここでの選曲はそんな状況を俯瞰できるようにもなっている。そして、そんなドラマーの動きに呼応するように自らの音楽スタイルを大胆にシフトチェンジしたフランスの名ピアニスト、エリック・レニーニやカナダの人気シンガー、エリザベス・シェパードのようなアーティストのトラック、更にはロバート・グラスパーのフォロワー的なポジションから近年才能を開花させているLAの新鋭ダニエル・クロフォードのようなところまできっちり抑えているのも気が利いている。

バラエティに富んでいる上もの

そんなリズムで統一感を持たせながらも上ものは実にバラエティに富んでいる。ビョークの名曲をビッグバンドジャズでカヴァーした“Hyperballad”から、R&Bシンガーのフランク・オーシャンの名曲のカヴァー“Thinking Bout You”と現代ジャズの歌姫ベッカ・スティーブンスが歌う全くテイストの違う2曲を繋ぎ、そこからUK産らしい軽やかな浮遊感のリチャード・スペイヴンへと流れていく前半部が象徴するように、一曲ごとに場面が切り替わっていくようにテイストの異なる楽曲が続いている。テイラー・マクファーリンとロバート・グラスパー、サンダーキャットとのコラボ曲“Already There”や、LAシーンのキーマン、ミゲル・アットウッドファーガソンとマーク・ド・クライブロウのコラボレーションによる“Sketch For Miguel”あたりからクライマックスに向け徐々にメロウに仕上げていくのも橋本らしさ。ここまでのエレピやシンセのエフェクティブな浮遊感を軸にしたサウンドから、アコースティックによる清らかな透明感や神秘性へと切り替え、ピアニスト、ギデオン・ヴァン・ゲルダーがベッカ・スティーブンスを起用して作り上げたミルトン・ナシメントのカヴァー“Pier//Cais”と、ビリー・チャイルズがエスペランサとウェイン・ショーターを迎えてカヴァーしたローラ・ニーロの名曲“Upstairs By A Chinese Lamp”へと流れていく終盤はこのコンピレーションのハイライトの一つだろう。

ジャズを基準に、ヒップホップ、ビートミュージック、インディーロック、R&B、ネオソウル、アフロビートにブラジル音楽から、シンガーソングライターまでの要素がスムースに繋がる本作は、まさに現代版『Free Soul』そのもの。そして、このコンピレーションは現代ジャズの良質なサンプラーとしても機能するだろう。ジャズの入門盤としても、現代ジャズの今をチェックしたい方にも最適なガイドとなるはずだ。

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