本とアイスランドには数多くの共通点がある。島国、火山、温泉、地震大国、治安の良さ、捕鯨国、そしてオリジナルの言語……といった代表的なものを挙げればキリが無いが、同時に、日本人ほどアイスランドの音楽に深い理解と愛情を持って接している国民も他にいない。現地では最大規模となる音楽フェス<Iceland Airwaves>のレポートをQeticで予定していることもあり、改めてアイスランド音楽と日本の蜜月を振り返りながら、そのバラエティに富んだ音楽性/魅力を紹介していこう。

■ 日本人はなぜ、アイスランドの音楽に心惹かれるのか

「アイスランドの音楽」と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべるのがビョークやシガー・ロス、あるいはムームといった存在だ。今や世界的な歌姫であり、13年の<フジロック>と日本科学未来館でのコンサートも記憶に新しいビョークは、大の親日家としても有名。ヒューマンビートボクサーのDOKAKAとコラボレーションしたり、デザイナーのMAIKO TAKEDAによるヘッドピースをステージ衣装として採用するなど、積極的に日本のアーティストをフックアップしているだけに、次回作の動向も気になるところ。

Bjӧrk – “Mutual Core”

全編アイスランド語のアルバム『タック…』(05年)で一躍時代の寵児となったシガー・ロスは昨年、日本武道館でのライヴを成功させており、ムームは度重なる来日を経てあの原田知世の作品に参加、09年の<TAICOCLUB KAWASAKI>で共演も実現している。前者はポスト・ロック/シューゲイザーの文脈で、後者はエレクトロニカ/ドリーム・ポップの文脈でシーンに登場しながらも、なぜだか多くの日本人リスナーの琴線に触れることとなった。その理由は、ノスタルジーを感じる幻想的なサウンドや美しいアートワーク、および寓話的な詩世界などに強く想像力をかきたてられるから――というのが筆者の推察だ。もし彼らが東京に住んでいたなら、まったく別の音楽になっていただろう。

Sigur Rós – “Varðeldur”[Official Music Video]

いっぽうで、02年の<サマーソニック>で入場規制を記録し、“金太郎(Kintarou)”という楽曲まで作ってしまったカラシのようなミクスチャー・バンドがいれば、SólstafirHAMといった純国産メタル・バンドも数多く輩出する懐の広さも魅力。アイスランドの音楽シーンにスポットを当てた『スクリーミング・マスターピース』(05年)や、FMベルファストのメンバーが発起人となり自宅の裏庭でミニ・フェスを開催するまでの模様を収めた、『バックヤード(原題:Backyard)』(10年)といったドキュメンタリー映画をチェックしてもらえば、想像を超える充実ぶりが伝わるハズだ。

『Backyard』Trailer

■ 箱庭的なエレクトロニカから、より開かれたソングライティングへ

重鎮ヨハン・ヨハンソンやキラ・キラなどが主宰する共同体/シンクタンク<キッチン・モーターズ>と、07年に設立された〈キミ・レコーズ〉のような「レーベル兼ファミリー」が長らく牽引してきたアイスランドのインディペンデント・シーン。ヨーロッパとアメリカの中間に位置し、それぞれの影響を受けながら独自の文化を発展させてきた彼の地だが、近年は意識的に「英語」を操り、一気に世界へ飛び出そうとするアーティスト/バンドが増えてきたのは興味深い事実である。

その先陣を切ったのが、男女混合の5人組オブ・モンスターズ・アンド・メン。アメリカではメジャー大手〈ユニバーサル〉とサインし、マムフォード・アンド・サンズやザ・ルミニアーズ以降のフォーク・ロックの潮流にピッタリとハマった彼らは、デビュー作『マイ・ヘッド・イズ・アン・アニマル』(12年)が母国アイスランドをはじめ世界中でチャート上位を獲得。代表曲“Little Talks”のMVが<MTVビデオ・ミュージック・アワード2012>にノミネートされ、ここ日本では13年の初来日公演が即完、<フジロック>でも超満員のオーディエンスをシンガロングで沸かせた。不思議だけど普遍的なソングライティングと、「ヘイ!」の掛け声でどんな会場でもひとつにしてしまう彼らのブレイクは、多くの後進バンドを勇気づけたものだ。

Of Monsters and Men -”Little Talks“

続いて彗星のごとく現れたのが、人口40人余りの集落=ロイガルバッキ出身のシンガー・ソングライターであるアウスゲイルだ。自身の1stアルバム『Dyrd í dauðathogn』(12年)が驚異的なセールスを樹立し、翌年のアイスランド音楽賞主要2部門を含む全4部門を受賞という快挙を達成。14年には英語ヴァージョンのアルバム『イン・ザ・サイレンス』をリリースし、<Hostess Club Weekender>での初来日、<フジロック>のホワイトステージ出演、さらに来年は単独のジャパン・ツアーも控えるなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでファン・ベースを拡大している若き才能だ。「北のボン・イヴェール」とすら形容される繊細な歌声と、50歳以上離れた父が書いたというリリック(英訳はジョン・グラントが担当)、クラブ・ミュージックを咀嚼したフォーキーなメロディの融合は、ダブステップ以降のトレンドとも共振。アイスランドがタイムレスな「歌心」を持った国なんだと、改めて世に知らしめた彼やオブメンの功績は大きい。

Ásgeir -”King And Cross“

★次ページ:オブメンやアウスゲイルに続くネクスト・ブレイカーは?