続くDJタイムでは、PCが立ち上がらないトラブルがあったものの、DJブースでMCをしていたAFRAがヒューマンビートボックスやコール&レスポンスで会場を盛り上げ、熱気は持続。いよいよ、今夜の主役、韻シストがステージに登場すると、フロアはみるみるうちに人で埋まっていく。

DJのFENCERのプレイからシームレスに演奏を引き継ぐ形で始まった韻シストのライブ。BASIとサッコンがこれまでのパーティーを盛り上げてくれたGAGLEとDJに対する感謝を話し、「韻シストのライブは一方通行ではありませぬ」と繰り返した後、始まったのは“一丁あがり”だ。2MCの「一丁あがり!」のコールと、オーディエンスの「You Got It!」のレスポンスが何度も繰り返され、一方通行でなく、バンドとオーディエンスのコミュニケーションで成り立っていく濃密なライブ空間が一気に出来上がっていく。続いてスムースなパーティー賛歌の“PARTY SIX”が始まると、オーディエンスと共に大合唱が巻き起こる。

韻シスト「PARTY SIX」MV

「今日の韻シストのセットはみんなを上げていくことしか考えて作っていませんので、ギンギンに良い音が来たら思うまま自由気ままにノって下さい。」というBASIの言葉に続いて、演奏されたのは『CLASSIX』から“Gimmelou”。滑らかなギターのカッティングと腰にくるディスコ・ビートで、フロア全体が弾けるように揺れ動く。メンバー5人全員でパワフルなブレイクを叩き出す《weekendならbring the beat back》のラインもたまらなくクールだ。

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BASI

「1998年結成、ヒップホップ・バンド。漢字の『韻』にカタカナの『シスト』。このぶっとい漢字とカタカナの並び、ええ感じやなって98年に皆で始めて、この名前を守り続けて来年で20年になります。それを目前にして、7月に7枚目のアルバム『Another Day』が出ます。」とBASI。続く楽曲は、そのアルバムからのリード・シングル“Don’t Leave Me”だ。冒頭から会場全体のハンドクラップが響き、Shyoudogの歌声が爽やかに空に抜けていく。モータウンの名曲群を髣髴させるソウルフルな演奏に、オーディエンスはピースフルな一体感で包まれた。

韻シスト「Don’t leave me」

『Another Day』からもう一曲、といって次に披露されたのは、最初にミュージック・ビデオの撮影が行われた“Jam&Jam”だ。ビデオ撮影時に聴けた楽曲を生でもう一度見られるということで、フロアからは一際大きな歓声が上がる。CD音源と比べるとはるかに太い演奏で、特に曲中盤で響いたTAKUのギター・ソロが超グルーヴィ。MV撮影で温まり切ったオーディエンスのレスポンスも素晴らしく、この日会場に訪れた全ての人にとって、この“Jam&Jam”は忘れることの出来ない大切な一曲となったに違いない。

一転して、次曲はグッとテンポを落としたメロウな演奏から始まった“オ~シッ!”。会場全体でのコーラス大合唱を何度も繰り返し、TAROW-ONEのファンキーなドラムから曲が転がり始めてからも、一字一句シンガロングが続く。そして、最後の曲と言ってスタートしたのは、“哀愁のチューン”。特別な夜がもうすぐ終わってしまう切なさと、特別な夜を共に過ごせた心の充足感が、力強い「哀愁のチューン」のリフレイン合唱の中に入り混じり、特別な夜は幕を閉じた。その予定だった。

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TAROW-ONE
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TAKU

しかし、鳴り止まないアンコールの声に、韻シストのメンバーが再び登場。本当はアンコール無しでいこうと思っていたという話で始まり、<NeighborFood>について話していたGAGLEに触れて「やっぱり地元をリスペクトしてんのが一番ヒップホップらしいし、韻シストも東京に出てきてたら今のようにはなってなかったかもしれない。俺ら大阪から来てんのに、こんなにもいっぱい東京にマイメンがいるのは素晴らしいこと。仙台もそうやけど、東京から離れててもヒップホップはいろんなところで根付いてて、それがヒップホップの良さやと思います。」と、サッコンが言う。彼が「Studio韻シスト」と書かれたタオルを広げると、この夜の正真正銘の最後を飾る、ラッパー全員によるフリースタイルのマイクリレーが行われた。サッコンからBASI、そしてAFRAもステージに上がり、最後にHUNGERへ。“屍を超えて”の引用から「Oh Yeah!」「韻シスト!」のコール&レスポンスが巻き起こる。どこまでもピースフルで祝祭的なフリースタイル。パーティー・ミュージックとしてのヒップホップ。その日本における最良の形がそこにはあった。

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サッコン

HUNGERがライブの途中で触れたとおり、今日本のヒップホップはフリースタイル・バトルを中心に大きなブームとなっている。しかし、ヒップホップの形は何もバトルだけではなく、色々な楽しみ方の形がある。東京だけじゃなく、仙台にも大阪にも、日本のあらゆる都市に多様なヒップホップ・シーンがある。韻シストのピースとリスペクトに満ち溢れたヒップホップは、日本における多様なヒップホップのあり方、楽しみ方を教えてくれる。活動19年目にして、バンドの充実した状況を反映するような青空をアートワークにした7thアルバム『Another Day』をリリースする韻シスト。彼らの音楽とライブには、日本のヒップホップの豊かな歴史と輝かしい未来が詰まっている。

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