たまに、「生まれてくる時代を間違えたんじゃないの?」と思うようなアーティストがいる。ジャック・ホワイトは言わずもがな、近年ならエイミー・ワインハウス、アラバマ・シェイクス、ウィリー・ムーンといった連中が鳴らすサウンドは、50〜60年代のロックンロールやR&B、ソウルを参照点としているだけでなく、明らかに当時の「空気感」を(ルックスも含め)身にまとっているからだ。この度日本デビューを飾ったリオン・ブリッジズもまた、その系譜に連ねることができるだろう。

Discover – Leon Bridges

「サム・クックの再来」と呼ばれる青年のバックボーン

ニュー・レトロ・ソウルの新星!リオン・ブリッジズに気をつけろ! music161022_lb_2

ローリングストーン誌やNMEがもっとも注目すべきアーティストとして太鼓判を押し、「サム・クックの再来」とさえ称されるリオン・ブリッジズは、米テキサス州フォートワース生まれの26歳。黒人インディアンの祖母を持ち、幼少期はごく自然に教会でゴスペルやサザン・ソウルに触れていたそうだ。とはいえ厳格なクリスチャン家系だったわけはなく、ジニュワインやアッシャーへの憧れから11歳でヒップホップ・ダンスを始め、学校でもダンスを専攻、一時期は振り付けを学んでいたこともあるという。そんな彼が本格的に音楽の道へのめり込んだのは、女友達から「授業の間、ギターを預かってほしい」と頼まれたことがきっかけだった。

その女友達からAマイナーとEマイナーを教わったリオンは、さっそく2つのギター・コードを使って曲作りをスタート、皿洗いのアルバイトをしながらオープン・マイクで歌うようにもなる。そしてある日、母親に捧げたバラード“Lisa Sawyer”を口ずさんでいたところ、知人から「サム・クックにインスピレーションを受けたのか?」と訊かれたことで、それまで特に詳しくもなかったサム・クックの存在を強く意識するようになったという。こうして自らの「ルーツ」を発見したリオンは、50〜60年代のソウル・ミュージックを深く掘り下げ、それがソングライティングにも色濃く反映されるようになっていく。

きっかけはラングラー。オースティン・ジェンキンスとの運命の出会い

White Denim – Pretty Green Video

ターニング・ポイントとなったのは、地元のとあるバーでのこと。ひとりの若い女性がリオンの穿いていたラングラーを褒めちぎり、「彼氏のファッション・センスと近いからぜひ紹介したいわ!」と言ってきたのだが、その彼氏こそが元ホワイト・デニムのギタリスト=オースティン・ジェンキンスだった。

ホワイト・デニムといえばサイケもブルーズもソウルもエトセトラも飲み込んだテキサスのインディー・ロック・バンドで、彼もまたリオンのカリスマ性やパフォーマンスに一目惚れ。バンドのドラマーでもあったジョシュア・ブロックと、ツアー・マネージャーのクリス・ヴィヴィロンの3人で発足したチーム〈Niles City Sound〉として、リオンを全面的にプロデュースすることを買って出た。そうして完成したのが、デビュー・アルバムの『カミング・ホーム』である。

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『カミング・ホーム』ジャケット

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