小細工も変化球もないソングライティングが、新世代のスタンダード

Leon Bridges – Coming Home

まず驚くのが、まんま50〜60年代の温かみあるソウル・サウンドを再現していることだ。しなやかなドラミングとコーラスで幕開けする表題曲の“Coming Home”で、《ベイビー、ベイビー、ベイブ♬》と語りかけるようなリオンの甘い歌声が耳に入った瞬間、どんな空間でもたちまち古き良きアメリカにタイムスリップしてしまう。おそらく彼の情報を何も知らないリスナーが聴いたら、26歳の青年による処女作だとは予想すらできないはず。何しろ〈Niles City Sound〉のスタジオには40〜60年代のヴィンテージ機材やリボンマイク(音質が柔らかで、広い周波数帯域を有する)がふんだんに揃っているようで、3日間のレコーディング・セッションでは徹底してアナログ録音にこだわったとか。

しかし、単なるレトロ趣味やオマージュなのかと言えば答えはNO、軽快なサックスが響きわたる“Smooth Sailin’”や、ブギウギ調の“Flowers”などの楽曲で味わえるエモーショナルな演奏は、紛れもなく「今この時代に鳴らされるべき音」を切り取ったプロダクションだ。歌詞に目をやると、神に救済を求める“Shine”や、1963年生まれの母親を主人公に当時を写実した“Lisa Sawyer”、アコギを軸にした美しいゴスペル“River”の3曲を除けば、大半が女のコ=ベイビーとの関係を歌ったシンプルなラヴソング。一切の小細工も変化球もないリオンのメッセージは、あまりにもジャンルが細分化した2010年代においてはむしろ新鮮に響く。だからこそ、本作が<第58回グラミー賞>にノミネート(最優秀R&Bアルバム部門)され、ファレル・ウィリアムスのサポートを務めるまでになったのだろう。

Leon Bridges – Smooth Sailin’

ジェイムス・ベイらと並んで出演したApple MusicのCM“Discover”でもうかがえたように、髪型も、ファッションも、身のこなしも、そしてもちろんサウンドも溜息が漏れるほど完璧なリオン・ブリッジズ。「自分が50年代や60年代のソウル・ミュージシャンに匹敵するとは到底思えない」と本人は謙遜するが、いやいや、彼こそが新世代のスタンダードになるでしょう。

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*日本盤はボーナス・トラック収録

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