【前作からの4年間と新作での原点回帰】移り変わるシーンとEDM隆盛を横目に再燃したビート・メイクへの情熱

そして‘11年から4年間、プレフューズは沈黙を続ける。一部のリスナーの中には、「もうプレフューズも潮時か?」と感じた人も少なくないだろう。とは言え、スコット・ヘレン自身はこの4年の間に何もしていなかったわけではない。リシルやピアノ・オーヴァーロード名義でのリリース、ティーブスやフレーミング・リップスなど相変わらず幅広いコラボレーション活動を粛々と続けていた。一方、プレフューズ不在の間におけるビート・ミュージックのシーンはといえば、何よりも全世界的なEDMの席巻が最大のトピックだったわけだ。

当代随一の天邪鬼=スコットがプレフューズでのビート・メイクに情熱を再び取り戻したのにはこのメインストリームの動きが無縁ではない。EDMという商機にかこつけた同類のサウンドが蔓延するなか「EDMによってヒップホップやエレクトロニック・ミュージックのこれまでの成果が放棄されたような気がした」という怒り、だからこそ「美しいサウンド・レイヤー、メロディとヒップホップ的なビートを持つエレクトロニック・ミュージックを取り戻す」というモチベーションがあったと本人は言う。また彼自身はこうも言っている「プレフューズ73の土台は、音、リズム、ビートの構築の細かいディティールにフォーカスすることから始まった。そして今、そのプロセスに立ち返り、新たな生命を吹き込んでいる。僕は今のサウンドに最も自信を持っている」と。正に原点回帰である。

文字通りのビート・ミュージックへの原点回帰であると同時に、これまで別名義も含めて体得してきた様々なサウンド・メイク/プロダクションの集大成的な結実となるのが、今月末4年ぶりにリリースされる『リヴィングトン・ナオ・リオ・プラス・フォーサイス・ガーデンズ・アンド・エヴリカラー・オブ・ダークネス』。(アルバム『リヴィングトン・ナオ・リオ』と前後して発売される2つのEP『フォーサイス・ガーデンズ』『エヴリカラー・オブ・ダークネス』をコンパイルした2枚組アルバム) アルバムのタイトルはスコットのキャリア出発の地でもあるNYに関連しているし、EPについてもNYでの体験や思い出がインスピレーションになっているという。その意味でも名実とともに明確な原点回帰作と言えるだろう。

プレフューズ73など様々な名義で活動をするギレルモ・スコット・ヘレンがどんな人物なのかまとめてみた music150424_prefuse73_-sub

Ableton Live、MPC、Pro Toolsという慣れ親しんだセットアップをベースに、生楽器、ボーカル(そして「ボーカル・チョップ」も!)、ピアノ・オーヴァーロードで成果を見せてきたフェンダー・ローズとこれまで培ってきた技術がこれでもかと詰め込まれている。かといって色んな要素をゴチャ混ぜにして放り込んだだけでは全くない。特に近作2枚で個々のトラック単位というよりは、アルバムトータルで1曲を織り成すような構成に見られるように、新作においてもトラック毎のテクスチャは連なり統一感がある。そしてデビュー作の頃とは比べものにならない音質の良さで、サウンドの繊細なニュアンスが伝わってくる丁寧な作りだ。アルバムとEPを各々ざっくりまとめるなら、アルバムは近作で確実にモノにしたアンビエント/ドローン的なテクスチャによりフォーカスされ、EPは正に原点回帰の強烈なビートを軸とした作り。また本人も言う通り「夜」というコンセプトが感じられるメランコリックな趣がある。

アルバム『リヴィングトン・ナオ・リオ』ではピンバックのロブ・クロウを起用した“Quiet One”において最新版のフォークトロニカとでも言うべき”歌もの”を聴かせてくれるし、“140Jabs Interlude”ではバスドライバーのポエトリー・リーティング的フローから始まり、マイロとのラップの共演に雪崩込む様は垂涎のカッコよさだ。EPの方は2曲目“Infrared Remix”のアッパーなビートを聴くだけでワクワクさせてくれる。そして“Still Pretending”や“Search the Sky”で見せる「ボーカル・チョップ」は傑作『ワン・ワード〜』ほどの分かりやすいキャッチーさ、派手さは無いが、全体の構成の緻密さにおいてはっきりと20年近いキャリアに裏付けされたアップデート感がある。またアルバムとEPを合わせて28のトラックがあるものの、あっという間に聴けてしまう見事な作りでもある。

本作を前にしてまず真っ先に言えることは「我らがプレフューズ73の帰還を喜べ」ということだろう。どんどんとスピードを上げる流行の趨勢の中、メインストリームには流されず、自らの音楽の向き合い方への信念を通すこと自体が今は本当に難しい時代だ。それに加えてキャリア初期に一時代を築いたことで、その呪縛から逃れることも難しかったに違いない。それでも純粋な音楽的探索を続け、キャリア20年目近くにして第2の最盛期と言える作品を作れたことは実に稀有なことだし、いちファンとして非常に嬉しいところ。

ただプレフューズ73、そしてスコット・ヘレンの諸作と接するときに最も重要なのは「オープン・マインド」に新しい音楽の可能性を受け入れることだ。それはスコットが自身の最大のルーツであるヒップホップから学んだことであり、彼がプレフューズ73でメッセージしてきたことでもあるから。そのアティチュードを忘れなければ、プレフューズの音楽はオールド・スクール・ヒップホップからインディー・ロック、カタルニアン・フォークやブラジリアン・サイケからアンビエント/ドローンまで時代や場所、音楽スタイルを縦横無尽に横断しながらあなたを何処にだって連れていってくれる。まずはこの新作で見事戻ってきたビートに身体を預けてみるのが第一歩だ。

Release Information

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