Radiohead – There, There
この頃になると、レディオヘッドのイメージはもはやロック・バンドとは大きくかけ離れたものになっていた。しかし続く03年の6作目『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』で5人が向かったのは、トライバルなビートなどを加えた肉体性への回帰。前2作とは異なり、ここではほとんどの作業がライブ録音に近いラフな形で進められ、全員がトムのデモを起点に自由にアレンジを加えていった。そうしてリリースされたアルバムは、全英チャートで初登場1位、全米チャートで初登場3位を記録。これは一度はバンドという形式への興味を失ったかに見えた彼らが、もう一度その魅力を取り戻すための作品だったと言えるだろう。
そして03年には、<サマソニ>に初出演。ステージ前方に設置した2つのパーカッションをエドとジョニーが叩く“ゼア・ゼア”を筆頭に、『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の楽曲はライブにおいても身体性を増強するような雰囲気だった。しかしこの<サマソニ>公演の目玉は、何と言っても彼らが長年ライブで封印してきた“クリープ”を解禁したこと。これは終了時間を過ぎたタイミングでバンドのプロダクション・マネージャーから運営側に申し出があって実現したもので、まさに当日奇跡的に起こった出来事だった。
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Radiohead – Bodysnatchers (Scotch Mist Version)
07年には、突如バンドの特設サイトを通して、『イン・レインボウズ』を発表。10月1日にジョニーのブログによって作品の存在が明らかにされると、その9日後に何の事前情報もなく突如作品のダウンロード販売がスタート。「リスナーが価格を自由に決定する(=It’s up to you)」というリリースそのものの革新性も相まって大きな話題になった。とはいえ『イン・レインボウズ』は、作品自体の内容も『キッドA』以降初めて誰もが認める傑作だった。ここでは、これまでバンドが別々に追求したロック色とエレクトロニカ色とを自然に融合。幅広い表情を1枚に収めることで、ふたたび黄金期を迎えていった。
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