「あの『気持ちだけある。技術ゼロ』みたいな感じがめっちゃ好き」

——今回、事前に挙げてもらった影響源の中にソランジュの『A Seat at the Table』が入っていて、「作品全体のムードに影響を与えた」と書いてくれていたことに「なるほど」と思いました。姉妹でもあるビヨンセの作品がパンチ力の強い人が思い切り振り切った作品だったのに対して……。

それは「派手」ということですよね(笑)。

――ソランジュの方はもっと侘び寂びのような魅力がある作品だったと思うので。

そうそう。あの作品って、ちょっとアメリカンじゃない雰囲気があるんですよね。サンファを呼んでいるのもそうですけど、下げるところは下げたりして、“Cranes in the Sky”のような曲も全体の流れで聴かせるような雰囲気がすごくいいなと思って。あと、終盤にケレラが参加している“Scales”とかも、構成要素が少ないのにちゃんとカタルシスがあって「すごいなぁ」って。今回はそういうことがやりたいなと思っていたんです。

SOLANGE –“CRANES IN THE SKY”

――そんな作品に『FANTASY CLUB』というタイトルをつけたのはなぜだったんでしょう? これは以前雑誌でやっていた連載『ガチ恋ファンタジークラブ』や、ハウス・レジェンド=DJピエールのピエールズ・ファンタジー・クラブを連想させるタイトルです。

アルバムに入っているセルフライナーノーツにも書いたんですけど、ピエールズ・ファンタジー・クラブの“Dream Girl”は、僕が生まれて初めて聴いたシカゴハウスだったんです。あの「気持ちだけある。技術ゼロ」みたいな感じがめっちゃ好きで(笑)。『ガチ恋ファンタジークラブ』という連載名もそこからつけたし、その後“FANTASY CLUB”という曲もできて、自分にとって大事な曲のひとつになっていて。あと、今回は「ポストトゥルース」について考えていたんですよ。あれってつまり、「よくわからない」ということじゃないですか? 「いいか悪いかがわからない」でもなく、「何が問題かもわからない」。それで、そういう流行り言葉を使いたかったんですけど、「ポストトゥルース」ってつけるのはダサいな、と(笑)。「そういう気持ちをもっとフワッとまとめられないかな?」と思ったときに、『FANTASY CLUB』という言葉が出てきました。今回は「想像力」も大きなテーマだったんですけど、「想像力」と言うとちょっと強制感が出てしまうんで、「CLUB」をつけてよりフワッとしたいな、と。

Pierre’s Fantasy Club –“Dream Girl”

——今回のようにメロウな作品を作ると「これが本当のtofubeatsだ」と深読みされることもあると思うので、シリアスにし過ぎるのにも違和感があったのかもしれないですね。

自分の中では、大枠では今回のアルバム『FANTASY CLUB』も『POSITIVE』もやりたいことは結局一緒なんで、そういうことが伝わったらいいな、と思うんですけどね。でも、内容的にそう思われないだろうなということは分かっていたんで、『FANTASY CLUB』ぐらいがちょうどいいのかなって。実際は、「どっちも本当の自分だ」というだけの話なんですけど。

——ジャケットは『FANTASY CLUB』というタイトルと何か関係があるんですか?

これは、アルバムが6割ぐらい出来てきたタイミングで山根さんに送ったらこれが返ってきて、ジャストミートだと思ったんです。まさに空想しているような雰囲気のイラストになっていますけど、山根さんとは(『水星』のデジタルEP以来)5年近く一緒に仕事をしていることもあって、「流石だな。めっちゃ絶妙だな。」と思いました。ボートの絵になっているのは、山根さんがもともとボート部だからなんですよ。山根さんの実体験に繋がっているところがすごくいいなと思ったんです。それに、僕は山根さんの絵の中でもボートのイラストがずっと好きで、『POSITIVE』のブックレットの絵も、僕が「ボートの絵が好きだから、いいところで使ってくれ」と言った結果、(歌詞が少なくて)イラストを大きく見せられる“STAKEHOLDER”のページに載ることになったりもしていて。

今のtofubeatsが思うポップ・ミュージックとは?『FANTASY CLUB』インタビュー interview_tofubeats_2-700x467

——今回のジャケットは、これまでよりパーソナルな雰囲気になった作品の音にもすごく合っていますよね。

そうですね。それに、今回はアナログなイラストでいこうということをTamioさん(GraphersRock:デザイナー)から言われていて。加えて、「人の顔のアップはやめてくれ」とオーダーしました。今回はそういう、売れる/売れないで選ぶことは避けましょう、と。つまり、「作品に合うものを選ぶ」ということですね。それに、船って流れるものですけど、音楽も流すもので、その中で制御しようと頑張るけど、同時に時流には抗えないところがあって……。そういうところが似ているとも思ったんです。実際、メジャー以降に僕のことを知ってくれた人たちは今回の作品を聴いて「新鮮だ」と言ってくれますけど、やっぱりこのアルバムって(インディーズ時代の)『lost decade』や、その頃bandcampで出していた曲に似てると思うんですよ。それを今の感じにしてメジャーで出した作品というか。