今回は、インディー・ロック系のアーティストにフォーカスしてきた過去三回とは異なり、グッとポップに、かつメジャーに寄って……しかも、ちょっと懐かしいこのガールズグループのワンカットMVをご紹介したいと思います。

90年代を代表するポップ・ミュージック・グループの一つ、スパイス・ガールズ(Spice Girls)。セクシーな女性5人組によるこの英国発のグループは、90年代半ばから後半にかけてヒットチャートを席巻。オアシスやブラーのようなブリットポップ勢とはまた異なるポジションから、90年代の英国音楽シーンの熱狂を象徴していた存在だと言えるでしょう。

インターネットが現在のようにグローバルな存在となる遥か以前、当然、YouTubeなんて便利なものがこの世に存在していなかった90年代。洋楽のMVに触れる為のツールは、まだまだテレビ(ブラウン管! 画面の比率は4対3!)が中心だったこの時代において、スパイス・ガールズやバックストリート・ボーイズといったアイドルグループは、洋楽における花形的な存在でした。

Spice Girls – “Wannabe”

そんなスパイス・ガールズによる大ヒット曲が、この”Wannabe”。男性を挑発するような扇情的なリリックと、ちょっと80’sディスコヒッツ的な匂いもする、とことんポップでキャッチーなメロディーが組み合わさり、この曲は90年代を代表するポップスナンバーとなりました。

その”Wannabe”のMVは、スパイス・ガールズのメンバーがワンカットで撮影された映像の中で芝居に歌にダンスに……と、このグループらしい溌剌とした躍動感を発揮する内容に。

4分弱の映像には、様々なアトラクションが散りばめられていますが、「一回でも誰かが失敗したら全てやり直し」という緊張感とポップアクト、アイコンとして完成されたパフォーマンスが濃密に詰め込まれており、非常に見応えのある作品となっています。

人気絶頂期に製作された主演映画『スパイス・ザ・ムービー』では、海外の”最低映画賞”として名高い<ゴールデン・ラズベリー賞>を受賞するなど、かなりトホホな演技力を見せていたガールズたちですが、このMVはシンプルにカッコ良い。やはり、この人たちのコアは歌って踊ってというミュージシャンの部分になるのでしょう。

また、室内での移動を追いかけ続けるカメラの絶妙な動きと距離感も特筆すべきポイントです。映像の中に登場するミュージシャンやエキストラの役者といったパフォーマーに加えて、その動きを撮り続けるカメラマンを筆頭に、裏方のスタッフの呼吸もワンカットの長回しには欠かせないものであることを痛感させられます。

当時、音楽専門チャンネルでもパワープレイされていたこのビデオ。90年代のノスタルジーと同時に、ポップスターによる洗練されたパフォーマンスの魅力も改めて感じさせてくれる一本です。

……しかし、まさか、この数年後にメンバーの一人がベッカムと結婚して世界的セレブの仲間入りをすることになろうとは……。時代の流れの速さも感じてしまいますね。