趣向を凝らしたアイデアに溢れたワンカットMVの世界。優れたパフォーマンスや実験的な表現によって構築された非常に完成度の高い映像作品が数多く存在していますが、ワンカットMVの中にはもっとグッとラフで、良い意味で“緩い”MVも存在しています。

今回、ピックアップをしたいバンドが、リプレイスメンツ(The Replacements)。80年代に活躍した米国のミネソタ州はミネアポリス出身のロックバンドです。

80年代のアメリカといえば、後のグランジやオルタナティヴロック勃興の原点となったハードコアパンクのムーヴメントがインディーシーンを席巻していた時代です。このリプレイスメンツもそうしたシーンから飛び出したバンドで、初期は荒々しいガレージパンクと評すべき非常に攻撃的なサウンドを鳴らしていました。

しかし、キャリアを積み重ねるに従って徐々にポップなメロディーを志向し始め、更にカントリーなどの多様な音楽性を取り込むことによって、パンクロック出身らしい疾走感と良質なソングライティングのセンスを併せ持つ優れたロックバンドへとコンテンポラリーな発展を遂げました。

リプレイスメンツは、90年代の初頭に解散。日本での知名度は後続のグランジ、オルタナ勢に劣るかもしれませんが、アメリカでは高い人気を誇っており、幾度か再結成も果たしています。2012年にも再結成し、以降、数々の大規模なロックフェスにもヘッドライナーとして出演するなど精力的な活動を行ってきました。

しかし残念ながら、つい先日、Vo&Gのポール・ウェスターバーグによって再度の解散宣言がアナウンスされたようで……いつか、日本のロックフェスにも登場して欲しいバンドだったので、ファンとしては悲しい気持ちで一杯です……。

The Replacements – “Bastards Of Young”(Video)

そんな、リプレイスメンツがリリースしたワンカットMVがこちらの“Bastards of Young”。オリジナルアルバムとしては、4枚目。メジャーレーベルからのリリースとしては、1枚目となる名盤『Tim』収録曲です。

MVの内容は、見ての通り、レコードを再生するプレイヤーとスピーカーが延々映っているだけ! 一応、カメラとプレイヤーの距離が徐々に移動したり、最後の最後に映像の中でアクションが起こったり…と、アクセントになるようなポイントもあるにはあるのですが、基本的には非常にミニマルな映像だと言えます。

MVには、リスナーの購買意欲を刺激する為のコマーシャル的な意味合いもあるわけで、しかもそれが80年代ともなると、そうした要素が新しいプロモーションの手法として特に重要視されていた時代です。

そんな中で、このひたすらにローファイなMVを作ったリプレイスメンツ。その意図は謎ですが、圧倒的なインディースピリッツとパンキッシュなアティチュードをこのビデオからヒシヒシと感じるのは私だけでしょうか?

極端にシンプルで、極端にローコスト。だからこそ、強く印象に残るワンカットMV。それが、この“Bastards of Young”です。そして、それは、パンク、ハードコアシーン出身という出自を持ちながら、いつしか普遍的なメロディーとポップフィーリングを持つロック・ミュージックを世に送り出すようになったリプレイスメンツというバンドの特異なの魅力ともストレートにリンクする部分だと思います。

難しいこと、テクニカルなことが何一つやっていませんが、これまた”ワンカット”によって生み出される映像のおもしろさを体現する名作MVの一つです。