80年代にMTVの登場によって、音楽を彩る宣伝素材であると同時に一つの表現方法として定着し、現在に至るまで様々な実験が行われ続けているミュージック・ビデオの世界。そんな中でも、本コーナーでは全編がワンカットによって撮影された“ワンカットMV”をフォーカスし、各種の映像作品を紹介しつつ、それらが音楽にもたらす効果について徒然と思いを巡らせてみます。

始まりから終わりまで一台のカメラを回し続けることで、この世に生み出される一発撮りのワンカットMV。キワキワの緊張感に満ちたものからユルユルな脱力感に満ちたものまで、構成美に満ちた芸術性の高いものからユーモアに溢れたポップなものまで、様々な映像がMVの世界には存在していますが、記念すべき(?)本コーナーの第一回で紹介したいアーティストが、先日の来日公演も好評だった米国のOK Goです。

思わず魅了!ワンカットMVの世界を紐解く①OK Go video150526_okgo_jk

家庭用ビデオで撮影したようなラフな映像の中で、メンバーがチャーミングかつビザールなダンスを繰り広げる“A Million Ways”のMVがインターネット上で話題になり、インディー・ポップファン以外のより広い層にもその名前を知らしめたOK Go。

OK Go – “A Million Ways”

その後も、ユーモアとセンスに溢れた数々のワンカットMVを世に送り出し、ポップ・ミュージック・シーンの人気者となりました。その人気とセールスの高まりと共に、ビデオでメンバー4人が繰り広げるパフォーマンスと撮影規模はどんどん巨大化していっていますが、その中でも一際印象に残っている作品といえば、やはりこのビデオです。

OK Go -“Here It Goes Again”

固定カメラの前に、複数台のウォーキングマシンを利用し、メンバーがコミカルなダンスを交えながら前後左右へと移動を繰り返す“Here It Goes Again”のMV。着眼点の素晴らしさと完成度の高いパフォーマンスが強いインパクトを与えるこのMV。“A Million Ways”で見せたダンス要素に、ウォーキングマシンというギミックをプラスしたアイデアが素晴らしいです。

例えば、空き缶をキックしてゴミ箱に一発で蹴り入れる映像。例えば、コートの端から超ロングシュートを放ち、バスケットボールをゴールさせる動画。YouTubeに投稿される練習と回数をこなせば自分でもできるのではないかと思わせるような……しかしながら、絶妙な難易度の高さを誇る素人投稿者によるパフォーマンスの数々。

このOK GoのMVも方向性としてはまさにそうした内容で、この映像が世界中で「いいね!」や「ツイート」によって拡散された理由の一つになっているように思います。そういう意味でも、SNSやインターネットとの親和性が高い映像であり、時代性にマッチしたエポックメイキングなワンカットMVだと言えるでしょう。

決して、“ロックスター”然とした華やかなビジュアルを有しているとは言い難い4人の男性による低予算な映像ではあるのですが、それでもアイデアとセンス、そして地道な練習を繰り広げる根性があれば、インターネットとSNSによって、これだけのプロモーションができるのだというお手本のような映像作品。ネット時代における傑作ワンカットMVの一つです。