「パイレーツ・レディオ(海賊放送)はただみんなのためにそこに存在して、
彼らは思うがままにそれを楽しんでいた。僕は好きだな」

(2013年7月31日のフォー・テットのツイートより引用)

ーク主体でなければ成立しない日本のラジオ事情を省みると、営利・非営利問わず無数のFMラジオ局が混在する欧米は本当に羨ましい。今となってはインターネットで誰もが世界中のラジオ局にチューンインできるが、その年のブライテスト・ホープをランク付けする「BBC Sound of…」で知られるイギリスのBBC、我々もニュー・アルバムのストリーミング試聴でお世話になっているアメリカのNPRなどを筆頭に、欧米の音楽シーンにおけるラジオの影響力は未だに根強いものだ。

ハイムの素晴らしいデビュー・アルバム『デイズ・アー・ゴーン』(13年)には、フリートウッド・マックやイーグルスのような、20代の彼女達にとっては決してリアルタイムではないバンドへのオマージュに溢れていた。それはクルマ社会=カーラジオ文化のアメリカ(それもLA)育ちだからこそ、ごくナチュラルな感覚だったはずだ。いっぽう、UKアンダーグラウンドのダンス・ミュージックが常に成熟している理由のひとつとしても、ラジオの功績は大きい。公営ラジオ局ではヴォーカルもので、短く、キャッチーな楽曲が好まれるため純粋なダンス・ミュージックを聴ける機会は少ないが、ハウス、テクノ、ジャズ、ファンク、レゲエ、ダブ…etc、各音楽のジャンルに特化したラジオ局はいくらでも存在する。フォー・テットの最新7th『ビューティフル・リワインド』は、故郷イギリスのパイレーツ・レディオ(海賊放送)に対するオマージュ、そしてその美しい記憶を「逆再生」しようと試みたレコードだと言えるだろう。

『ビューティフル・リワインド』は、フォー・テットのキャリア史上もっとも肉体的で、ダンス・オリエンテッドな作品でもある。かつてのフォー・テットをタグ付けしていたジャズ、フォークトロニカ、インプロの要素はすっぽりと抜き取られ、おそらく生楽器はほとんど使用されていない。トライバルなオープナー“Gong”から終始BPM150前後で駆け抜けるビートは目まぐるしくシャッフル&シンコペーションし、男女のヴォーカル・サンプリングはひたすら恍惚を目指し、気付けば電子音の洪水とノイズに飲み込まれる。また、キエラン自身がティーンの頃に夢中になっていたという90年代初期のテクノ、ブレイクビーツ、ジャングルのサウンド/フィーリングがこれでもかと注ぎ込まれているのだ。約40分のアルバムはリード・トラックの“Kool FM”〜“Buchla”でピークタイムを迎え、“Your Body Feels”の心地よいリフレインとハンド・クラップで幕を閉じる。まるで朝が訪れたダンスフロアのように。

同じく〈テキスト(フォー・テット主宰のレーベル)〉からリリースされた前作『ピンク』(12年)は、既発の12インチ・シングルをコンパイルしたコンピレーション的な役割を担っていたが、同時に、キエランの最新モードが明らかに「ダンスフロア」を意識しているであろうことを示唆していた。それ以前にも〈ファブリック〉シリーズへの参加や、覆面疑惑も浮上したブリアル、およびトム・ヨークとのコラボレーション、あるいはボイラー・ルームへの出演など精力的な課外活動を見せていたフォー・テットだが、実に15年という活動期間、および膨大なディスコグラフィーとリミックス・ワークを経て、自らのルーツを見つめ直す段階に来ているのかもしれない。97年〜01年の未発表曲をワン・トラック38分に収めたコンピ『0181』(13年)のリリースも象徴的な出来事だったと言えるだろう。念願叶って(?)、今年の10月6日にはイギリスのラジオ局RINSE FMにて8時間丸々ラジオ・パーソナリティを務め上げ、盟友カリブーやフローティング・ポインツといったゲストも招いたのだとか。

本作に収録された11曲は、豊穣なイギリスのダンス・ミュージックの歴史をダイジェストするかのごとく、濃密な時間を約束してくれる。我々はただ、頭をカラッポにして踊ればいいのだ。

(text by Kohei Ueno)

Release Information

Now on sale!
Artist:Four Tet(フォー・テット)
Title:Beautiful Rewind(ビューティフル・リワインド)
TEXT/Hostess
HSE-60167
¥2,490(tax incl.)
※日本盤はステッカー封入