「ヒップホップ/R&B曲を元ネタに生バンドで一発録りする」インスト・ヒップ・ホップ・ジャズ・バンド、RF(アール・エフ)。彼らの通算6作目『New Birth』が、早くも完成!!
UKのレコード・ショップで1位となったザ・ファーサイドの“Runnin’”のカヴァーを収録した1stアルバムやDE DE MOUSEとのコラボ作などを経て、13年の5作目『Fill The Bill』では1作目からの集大成とも言える作風を確立した彼ら。だからなのか、なんと本作には新たなチャレンジが多数! 結成時からのコンセプトだった一発録りを離れて編集作業が加えられている他、これまでRFの曲には使われてこなかったエレキギターやウッドベースなど様々な新機軸を披露。ジャズ・レジェンド、バーニー・ケッセル自身が愛用していたビンテージ・ギターまで使われているというのだから、その気合は推してしるべしだろう。また、これまでヒップホップ/R&Bに寄っていたカヴァー曲は、サン・ラを筆頭にしたフリー・ジャズも加わってより多彩に。他にもファレル・ウィリアムスの“Happy”やジェイムス・ブレイクの“Limit To Your Love”から、初のオリジナル曲“Trane”まで、自由で風通しのいいアンサンブルが全編に広がっている。
RF – “Happy(Promotion Video)Pharrell Williams cover”
ムムム……この変化が起こったのは、一体ナゼ?! そして新作を出して本格的なツアーを始めた今、彼らが感じる「新たなバンド」の姿とは? メンバー全員に訊いてみました!
Interview:RF
[鈴木郁(Ds)、Farah(Producer)、板谷直樹(Ba)、成川正憲(Gt)]
――まずは前作がみなさんにとってどんな作品だったかを振り返っていただけますか。
鈴木郁(以下、カオル) 前作『Fill The Bill』まではエンジニアの澤田(悠介)さんがメンバーとして参加していて、あの作品は彼が関わった最後のアルバムになりました。だから、今回のものとはそもそも作品の録り方が違っているんですよね。それに音楽的な面では、前作の方がヒップホップを意識した選曲だったと思います。今回の新作はよりフリー・ジャズ的なものを取り入れているので。
板谷直樹(以下、板谷) そういう意味で、前5作目は1作目から4作目までの集大成ですよね。これまでのRFには「一発録りで作品を録音する」というコンセプトがあったわけですけど、『Fill The Bill』は1作目から続いていたその方法で作られた最後のアルバムになったわけで。
――では、そこから今作への変化はどのように生まれたものだったんでしょう?
カオル カヴァーの元ネタは基本的にプロデューサーのFarahが持ってくるんですけど、彼はヒップホップ的なものとは別のこともやってみたいという話を以前からしていて、それが今回フリー・ジャズという方向性として出てきたんです。しかも、その「フリー・ジャズ」というのは、彼曰く「ダンス・ミュージック」なんだということで。だけど僕らからするとフリー・ジャズという言葉の印象が強すぎて、最初はそのままフリー・ジャズをやろうとしていたんです。そうしているうちに「ちょっとおかしいぞ」という話になって。そこから「フリー・ジャズはダンス・ミュージックだ」というテーマを考えて、そこに寄せていった感じでした。
――Farahさんは今回、なぜフリー・ジャズをテーマにしようと思ったんですか。
Farah そもそも、RFの開始当初に僕が「ヒップホップ」という言葉を使ったのは、そうすることで色んな音楽が含まれるからだったんです。だから、僕の中ではもともとそういう意味でヒップホップをやろうという風には思っていなかったんですね。ところが作品を重ねて「RF=ヒップホップを生音で演奏するバンド」というイメージが付いて来たので、それを少し変えたいなと思ったんです。僕はフリー・ジャズがクラブで盛り上がる現場もDJとして沢山見てますし、有名なところだとジャイルス(・ピーターソン)もかけてますけど、今回のアルバムではそういうものをバンドの軸にできないかな、と考えました。あとは、偶然ですけど今年ってサン・ラの生誕100周年ですよね。彼はフリー・ジャズの中でも一番人気のあるアーティストなんで、それをRFでやったらどうなるかなと思ったんです。
――最初にその提案を聞いた時、他のみなさんはどう感じましたか?
カオル 僕はもともとフリー・ジャズが好きなんで、「今回はそっちに行くんだな」という感じでしたね。ただ同時に、今までの流れとは違うことだし、単純にフリー・ジャズをやればいいということでもなかったんで、その音をどうやって形にしていこうかと考える部分はありました。そのバランスを取るポイントは難しいだろうな、と思いましたね。
板谷 僕の場合は「フリー・ジャズって言われても……何で?」という感じで(笑)。それで色々質問したんですよ。「サン・ラってDJの人もかけるの?」「クラブで盛り上がるの?」って。そしたら「いや、盛り上がるんですよ」という話で。じゃあどうしようか、と考えていったんです。
成川正憲(以下、成川) 僕も葛藤はありましたよ。ただ、その葛藤って毎回同じなんですよね。要は自分の中にあるものと、そうじゃないもの――つまり誰かの意見とをどう融合させていくかということで。自分の中にも「フリー(・ジャズ)大好き」という気持ちと、同時にそういう音楽をやってきていないから「果たして出来るのか」という気持ちがあって。その2つがせめぎあう状態を楽しんでいるような感じでしたね。
――ここからはそうした変化を作品に込めていく中で、それぞれの曲でみなさんがどんな工夫をしたかを順番に語っていただけると嬉しいです。まずは1曲目はファレルのヒット曲“Happy”のカヴァーから。原曲のポップな要素をとても大切に残している曲ですね。
Farah これは「ポップな要素が少ない」というアルバム全体のバランスを見て入れた曲で、最初の段階では候補になかった曲ですね。当初はフリー・ジャズでごちゃごちゃっとした後、最後に“Happy”でしめるというイメージでした。それが最終的には1曲目に落ち着いたんです。
成川 これを1曲目にするかどうかでモメたよね?
Farah そうですね(笑)。“Happy”は今回の収録曲の中でも明らかに一番有名な曲で、ポップ過ぎるかもしれないという意見もあったんです。それで、もともとは“Diamond”(元ネタはリアーナ)を1曲目にしようと思っていたんですよ。ただ、そういう方向で行くなら「もう“Happy”でいくか」と。一番ポップなものを最初に持ってきて、それでどうなるか見てみようと思ったんです。エンジニアのSugar Spectorさんが手掛けてくれた音の仕上がりも凄くよくて、この曲なら多くのリスナーの方にも受け入れてもらえるんじゃないかと、そういう判断を下しました。
Pharrell Williams – “Happy(Official Music Video)”
――続く2曲目はサン・ラの“Space Is The Place”。サン・ラは今回3曲の元ネタになっていますが、今回のテーマ「フリー・ジャズ」を象徴するアーティストでもありますね。
Farah 特にこの曲はDJの中でも一番有名な曲で、いくつもテイク違いがありますけど、今回基準にしたのはエジプトのピラミッドの前でやったライヴ盤のバージョンでした。これが雑でかっこよくて、みんなに送って「こういう感じでやりたい」って伝えたんです。そうして最初に出来たのがiTunesの特典として入ってるバージョンですね。でも本編では、最終的にゴスペル的な雰囲気を加えたものに変わりました。カオルさんの提案だったと思うんですけど、ちょっとアレンジを変えようということになって。
カオル というのも、サン・ラってよく神様に関するスピリチュアルなモチーフがよく出てくるじゃないですか。だからそれにも引っかけてカヴァーしたかったんですよ。ゴスペルにすれば、神様の種類は違うにしても、祈りの印象が出るんじゃないかと思ったんです。
Sun Ra And His Solar Arkestra – “Space is The Place”