今、三浦大知というアーティストは非常にユニークな立ち位置にいる。

おなじみの無音シンクロダンスなどをお茶の間にまで届けた去年末の『NHK紅白歌合戦』や、ダンス・パフォーマンスに意識が及びがちだが、内実、ボーカリストとしても着実な進化を見せてきたことを『ミュージックステーション』での絢香とのコラボ曲“ハートアップ”で証明。一方、国内外、ジャンル問わず真に音楽性でピックアップされる音楽専門誌の中でも硬派な路線を貫くかの『MUSIC MAGAZINE』最新号の表紙・巻頭を飾っているのだ。ちなみに最近の同紙のそれはBRAHMANであり、細野晴臣であり、ケンドリック・ラマーを筆頭とするUSヒップホップの現在といった特集だった。

つまり、百聞は一見にしかずな、テレビ出演でのダンス・パフォーマンスも、玄人筋の音楽ファンを惹きつける作品性も、各々のリスナーの専門的な知識の差こそあれ、三浦大知に対する興味は等しいのだ。そんな存在が「国民的アーティスト」だったことが近年あっただろうか。そのことが三浦大知というアーティストの新しさを物語っている。

デビュー20周年を迎えた2017年9月からスタートした自己最長かつ最多となる今回の<DAICHI MIURA BEST HIT TOUR 2017>。その追加公演として1月31日(水)には自身初となる大阪城ホール公演、2月14日(水)、15日(木)にはこれまた自身初の日本武道館2Days公演を開催した。

2日目の15日には、RHYMESTERの宇多丸、KREVA、千晴などこれまでコラボレーションを行ってきた面々や、小林武史が手がけた楽曲で共演している絢香、世界で活躍するダンサーでコレオグラファーの菅原小春、そしてFolderの元メンバーで女優の満島ひかりまでもが出演するという、サプライズが連続した内容が展開。

まさに20年の集大成を見せたわけだが、本稿ではその初日である14日の模様をレポートする。2Days公演の内容が単に違うだけではない、三浦大知というアーティストがいかに共に表現を作り上げる他者との関係を深め、リスペクトを持っているか? が、異なるベクトルで見えた2Daysかつ、ツアー・ファイナルとなったのではないだろうか。

【ライブレポ】「国民的アーティスト」三浦大知・20年の集大成!<DAICHI MIURA BEST HIT TOUR 2017> in 日本武道館 pickup180301_daichi_003-1200x800

幅広い世代のファンで立ち見まで出た満杯の武道館に溢れる興奮の中、背景のLEDビジョンに映し出されたツアー名「BEST HIT」が消えると、スポットライトが照らされ、足元はまるで雲上のようにたなびくスモーク。そこで歌い出したのは“Cry & Fight”だ。が、瞬間、暗転し、息を飲んだ直後にはステージが照らされ、6人のダンサーが出現。冒頭から切れ味鋭い演出だ。そして予想通り、早くも曲中でブレイクし、7人の無音シンクロダンスが展開し、広い会場に響くのは彼らがステップを踏む音だけという、目も耳も完全にステージに掌握するスタートを見せた。

冒頭から出し惜しみなし。そしてエレクトロニックなアレンジが繊細な“Look what you did”では、ボーカリストとしての進化を感じつつ、やはりこの人は言葉以上に「歌うように踊る」人であることを痛切に感じさせられた。幾何学的に区切られた背景がステージ上の7人をまるでイリュージョンのように、見せたり消したり(あくまでも目の錯覚を利用しているのだが)するのも、背景のビジュアルとダンスがシンクロして、ダンスのみならず、ステージ全体で楽曲のストーリーを見せていく手法も素晴らしい。水平のステージ前面には、ステージ上が映り込むような斜面も設けられ、そこに映るダンサーを含めた動きも相まって、いい意味でここが武道館であることをどんどん失念していく。

“(RE)PLAY”では、7人が一つの生物のようにしなやかにつながるダンスを見せ、ジャンルを越境した身体表現をこのチームで作り上げていることに感銘を覚えた。身体表現のプロたちも嬉々として三浦大知とともに、見たことのないエンターテイメントを作り上げている、そんな誇りと楽しさがステージから横溢してるのだ。また、巨大な可動式ビジョンの陰に隠れてはいるものの、生バンドの演奏もビビッドで、“Can You See Our Flag Wavin’ In The Sky?”でのイントロのピアノ・リフは文句なく、大知のファルセットも伸びる。

次々に繰り出される演出に一つとして同じものがないのも彼のこだわりで、“Blow You Away!”では、LEDビジョンのバーチャルな世界と現実のステージを、大知とウエイターに扮したダンサーのNOPPOがやりとりし、ビジョンの中で歌いながら、いろんな衣装をとっかえひっかえしていたかと思ったら、実際に衣装替えして、ステージに出てくるあたりは目が釘付けに。ソリッドでシャープ、緊張感に溢れるダンスだけでなく、大いに笑わせる茶目っ気たっぷりな部分に会場じゅうが暖かなムードに包まれていくのがわかる。そう。三浦大知のパフォーマンスは驚くほど、エンターテイメントの全方位を可能な限り、具現していく。

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前半の生身のダンス・パフォーマンスを終えると、シーンが変わって、レンガ作りのブックカフェか洒落たバーのような背景が現れる。カウンターにウエイターと大知、そして各々の役柄に扮したダンサーが集まり、ミュージカル仕立てでショーが進行していくのだが、毎回、ツアーごとにこのタームも進化している印象だ。

バンドのジャジーな演奏に合わせ、大知ともう一人の客に扮したダンサーが、一人のウエイターになかなか注文ができないというアクティング。さらに客が増え、その場にあったアコギを弾くよう、大知に勧めるあたりではファンも一緒になって歓声を送る。そこでモニタリングをしながらバンドとともに歌い、アコギを弾くのはなかなか難しそうだが、弾き語り始まりで“Your Love”を披露。

そして“注文を取ってくる”演出なのだろう、ウエイターが客席のスタンドまで走り、客席のリクエストを受けて、その場で演奏するという場面に、会場もさらにわく。ジェスチャーでリクエスト曲にOKを出し、用意されたサンプラー(つまりカラオケ)のプレイボタンを押し、“Only You”を歌う場面も。さらにピアノの弾き語りによる“Delete My Memories”では、繊細な地メロ、力強く時に鋼のようなサビと、ボーカリゼーションの細部をつかむこともできた。もちろん、傷ついた男心はダンサーの演技も相まって、最終的には“SHINE”で、再び日常に戻っていく姿がアクティングで示されたのだが、この時、大知自身は必ずしも前面に出ることはせず、ストーリー・テラー的だったり、舞台の登場人物の一人だったり、見るものを一瞬も飽きさせない工夫を随所に凝らしている。ユーモラスなダンスや演技も実は細部まで練り上げられたもので、このタームは他のR&Bシンガーにはない個性に間違いなくなっていると感じた。

後半は背景が開き、バンドの存在が視覚で捉えられるようになった分、ダンサーを含めた7人が、より自由に生演奏とともに歌い踊るように見える。傾斜したステージ前方も自由に滑るように踊り、“Lullaby”、大陸的なビートとシンガロングが開放的で、メッセージにも心が揺さぶられる“Darkest before Dawn”の力強さと開放感。この頃になると、彼の並外れた表現力は何もそのすごさを見せつけるためではなく、かっこいいもの、美しいもの、そしてそのための努力は素晴らしいという、非常にポジティブなバイブスを放っていることに感動し始めるのだ。もちろん、ずっと感動しっぱなしのステージなのだが、序盤のキレッキレのダンスやセンシュアルな表現、中盤のよく練られたアクティングを経て、“夜明け前は一番暗い”、つまり明けない夜はないという歌が放たれる説得力。そこに根性論や汗臭い何かは全くない。結果的にポジティブなバイブスで包み込むことができる、今の三浦大知の器の大きさを見たのだ。

そこからラストスパートは、再びスリリングなダンスとアッパーでスキルフルなボーカルで上げに上げる“Right Now”や、ソロ・ダンスも盛り込んで会場が歓喜に湧き、突き抜ける高音のロングトーンが響き渡る“I’m On Fire”。そしてさらにBPMをあげての“EXCITE”では、バンドメンバーも一斉にタオルを回す。

「最高です! 音楽で繋がりましょう」の大知の一声から始まったポップな“music”の時代を超える優しいソウル・フレーバー。“誰にも平等に音楽が降り注ぐ”と歌って、それが自然に見えるエンタテイナーは、実はあまりいないのではないだろうか。ダンサー、バンドともに彼を信頼し、ともに他にはないステージを作り上げているというピュアな情熱や誠実さが、この愛らしくもあるナンバーに溢れていた。人生を肯定する“Life is Beautiful”、そのニュアンスのまま、本編ラストもぐっと祝祭感を増した厚いバンド・アレンジで、ファンおのおのが自分を鼓舞するようにクラップする“U”で幕を閉じた。

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アンコールでようやくDMバンドとダンサーの紹介をした彼は、再び武道館、しかも初めての2日公演という機会を得たことに感謝し、ひたすら謙虚だった。「決して自分一人で作っているものではなくて、みなさんと一緒に作っていくエンターテイメントだと思っています。これからも三浦大知のエンターテイメントをよろしくお願いします!」と、感謝を述べた、その思いの中にはここで立ち止まる気なんてさらさらないです! という、清々しい決意も見え隠れした。

手書きのリリック、そしてそのリアルで切ない内容も相まって、大知の歌い手としての新生面がライブでも伺えた、Dreams Come Trueからの提供曲“普通の今夜のことを ― let tonight be forever remembered ―”は、今の都市生活者である若いあらゆるリスナーに聴いて欲しい、リリシズム溢れる名曲だったし、ベスト・アルバムに収録される新曲“DIVE!”はタイトなファンク調で、これまたファン層を拡大しそうな意欲作だった。歌うように踊り、心のうちまで表現する彼が新たに向かう先は、私たちが想像できない融合の結実なのかもしれない。

<DAICHI MIURA BEST HIT TOUR 2017> in 日本武道館 SET LIST

01 Cry & Fight
02 Look what you did
03 (RE)PLAY
04 FEVER
05 Can You See Our Flag Wavin’ In The Sky?
06 Who’s The Man
07 Blow You Away !
08 Complex
09 Your Love
10 Only you
11 Delete My Memories
12 SHINE
13 Lullaby
14 Darkest Before Dawn
15 Right Now
16 I’m On Fire
17 EXCITE
18 music
19 Life is Beautiful
20 U

ENCORE

En.1 誰もがダンサー
En.2 普通の今夜のことを ― let tonight be forever rememberd ―
En.3 DIVE!

text by 石角友香