“ミラノにアンダーグラウンドシーンなんて存在しない”そう勝手に決めてつけていた私はこの場を借りて撤回と謝罪をしたい。ファッションとデザインの街であり、世界的DJを何人も輩出しているイタリアの主要都市ミラノにシーンがないわけがない。確かに数が多いわけではないし、メインストリームはやはりファッションであって、ラグジュアリーである。

しかし、個人的な意見を述べるとすれば、ロンドンのような大都市を想像していた街(これもただのステレオタイプ)は無機質であまり風情がなく、地下鉄は古く、道路も整備されておらずガタガタなところが多い、しかし、そういった“どこか欠けている”ところにこそアンダーグラウンドは潜んでおり、治安が悪いと言われるチェントラーレ付近のどこか如何わしい雰囲気にワクワクするのだ。

そんな今回はファッションでも食でもないミラノの”地下の顔”を紹介したい。“Tunnel Club”のレギュラーパーティーとしてローカルから絶大な支持を得ている<Take It Easy>の現地レポートをお届けする。

ミラノのアンダーグラウンドシーンを牽引するパーティー“Take It Easy”とは?老舗クラブ「Tunnel」から現地レポートをお届け! km-post80_45064118_2469624943078217_830582473875259392_o-1200x801

シーンの最前線を作るのは現地の人々。
DJもオーディエンスもローカルが主役、それが<Take It Easy>。

Tunnel Clubはミラノ・チェントラーレ(ミラノ中央駅)に繋がる鉄道の下に位置し、名の通りトンネルの跡地をクラブに改装した場所。そのロケーションだけでもワクワクするが、実はオープンしたのは90年代とミラノでも有数の老舗クラブで、過去にはロックやヒップホップといったエレクトロニックミュージック以外にも様々なジャンルのパーティーが行われ、音楽シーンに歴史を刻んできた。00年代後半よりテクノ、ハウスが主流となり、Funktion-Oneが搭載された現在では、ミラノだけでなくイタリア全体のアンダーグラウンドテクノ、ハウスシーンにおける主要クラブとして世界中のトップアーティストがプレイしている。

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私たちが訪れた10月27日(土)にはラッキーなことに同クラブの看板イベント<Take It Easy>が開催されていた。レジデントのDirty ChannelsとゲストがRadio Slaveということ以外何も知らずに向かったが、最近ではRoman FlügelやArt Departmentなどが出演しており、毎回テクノ、ハウスシーンにおける重鎮たちを招聘しているパーティーである。

土砂降りに近い雨の中辿り着いた“Tunnel Club”は、周辺には何もなく薄暗く、見逃してしまいそうな看板と厳ついバウンサーだけが頼りという硬派さ。ベルリンのローカルクラブにも近い雰囲気に期待を膨らましたが、23時オープンのはずなのに何かトラブルがあったのか0時を過ぎてもまだオープンしていなかった。“30分後にもう一度来い”と無愛想に追い払われ、理由の説明は当然ながらない。仕方なく近くの売店兼バーのようなところで時間を潰すことにしたが、こういった箱側かアーティストのご都合主義でオープンが遅れるところもアンダーグラウンドである。

誤解のないように補足しておくと別に褒めているわけではない。当然ながら時間通りに始まって欲しいし、それが基本だと思う。しかし、悪天候だろうがトラブルでオープンが遅れようが、人が来ると分かっている良質なパーティーということにスタッフも確固たる自信を持っているのが分かった。

エントランスは2組のアーティスト出演で20ユーロと強気だが、ヨーロッパの主要都市の週末のパーティーならこれぐらいが相場だろう。ドリンクは高くビールが6ユーロ、カクテルは何と1杯10ユーロ!! 東京のクラブを知り尽くしている友人たちからも驚きの声が上がり、ベルリンで例えたらホテルのバーの価格である。後から知ったのだが、ミラノのクラブはメニューが豊富で本格的なカクテルが飲めるところが多いとのこと。さすがは美食の国イタリア、クラブのドリンクまでこだわっている。

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Dirty Channels

ちょっと高級だけど美味しいカクテルを片手に程よく混んでいるフロアーをゆっくり散策しようと思っていたが、SimoneとLemeによるイタリア人デュオDirty ChannelsのDJがあまりに心地良くて、気付けば一番前に。事前に彼らのSoundCloudを軽くチェックしていただけでどういうアーティストなのかよく知らなかった。ローカルな雰囲気と踊り方もカッコ良かった最前列にいた男女の2人組に話しかけて聞いたところ、ミラノではかなり有名で今絶大な人気を得ているとのこと。確かにフロアーの前列は彼らのファンで埋め尽くされており、ソウルフルな歌モノやダンスクラシックといった気をつけないとtoo muchになりがちなオールドスクールを硬派なテクノやハウスとうまく織り交ぜながら見事な新旧ミックスを披露していた。

踊りやすくきちんと整備された床と暗過ぎず明る過ぎないライティング、慣れるまでは少し爆音に感じるが、徐々にフロアーがヒートアップするのと同時に馴染んでくる重低音重視の音響も良かった。客層は人気ローカルパーティーだからだろうか? どこの都市にも見られるツーリストとすぐに分かるミーハー乗りは少なく、ストリートとクラブファッションをミックスしたオシャレな人が多かったのも印象的。ベルリンのようなドアポリシーはなく、IDチェックも行っていなかったが、明らかに10代はいないと分かるし、フロアーは常にセキュリティーが目を光らせているため怪しい人物も見当たらなかった。

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深夜2時を回った頃からフロアーは満員状態となり、オープンが遅れたせいだろうか? 雨はより一層激しくなり、朝までのパーティーのはずなのにエントランス付近は着いたばかりの人でごった返していた。同パーティーのゲストでお目当てだったRadio Slaveはキャリアと貫禄を見せつけるさすがなプレイだったが、翌日も予定があったため名残惜しい気持ちを抑えて早めに退散した。こんなローカルシーンが見れるならいっそ朝まで遊んでいたかったと若干後悔したが、次回の楽しみに取っておくことに。

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Radio Slave

これまでは夏のハイシーズンに近隣諸国の野外フェスに取材も兼ねて行くことが多かったが、その街のシーンを知るにはやはり地域に密着しているローカルクラブが一番である。ミラノに関して言えば、Rush Hourのパーティーも開催されているDUDE CLUBも気になるクラブの一つ。そして、イタリア全体で言えば”南”のシーンが非常に気になるところ。こうやって世界各地を知れば知るほどにおもしろく、音楽は無限であることに改めて気付かされる。次はどんな上質なアンダーグラウンドシーンに巡り合えるのだろうか?

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Dirty ChannelsとRadio Slave

Photo:「Take It Easy」Official
Special thanks:Dirty Channels, Ryuhei, Marie